2015.08.30 Sunday
宇宙物理学 銀河の赤ちゃん(4C41.17)
「4C41.17」という天体は、120億光年彼方に見つかった銀河の赤ちゃんです。
もともとは銀河電波として見つかったもので、銀河が密集したところに位置しており、周囲には多くの銀河やガスが存在しています。
(注) 銀河団と呼ばれている場合もあります。
イアン・スメールらはマウナケアのジェームス・クラーク・マクスウェル望遠鏡(電波望遠鏡)を使ってサブミリ波(赤外線とマイクロ波の中間の電磁波)で観測しました。
ただし、宇宙膨張による赤方偏移で波長が4倍ほどに伸びているので、この電磁波が放射されたときは赤外光だったはずです。
強い電波源があることがすでに知られている場所で、サブミリ波を放射する数万光年にもおよぶ大きさな領域を発見しました。
それは太陽質量の数千万倍に及ぶ塵の雲の存在を指し示すもので、内側に隠されている何らかの強い電磁気放射によって加熱されているのです。
それらの塵の領域のいくつかは、集団をなして群れを作っていました。
遠方にあるそれらの暖かい塵の雲の中に潜んでいるものを探ることができるのは、透過力の高いX線光子に限られます。
ケイレブ・シャーフらは、2002年にチャンドラX線観測衛星で約40時間かけて観測しました。
中央の明るい点状のX線源のスペクトルは、そこに存在する濃い塵のなかのどこかに隠された大質量ブラックホールの降着円盤から発せられていることを示していました。
しかし、端から端まで30万光年以上に伸びた羽のような構造は何でしょう?
赤ちゃん銀河の重力井戸に落ちる熱いガスから発せられたX線だとすると、スペクトルのパターンが合いません。
さらに通常の銀河におけるX線放射の100倍も強いのです。
画像は Chandra のサイトからお借りしました。 → こちら
ウィル・ヴァン・ブリューゲルは、ハワイのケック望遠鏡を使って、紫外線で観測していました。
ここで紫外線とは水素原子のスペクトルのひとつである「ライマンα線(波長121.6nm)」を観測しているものと思われます。
これによって、温かい水素ガスの分布を見ることができるのです。
ただし、宇宙膨張による赤方偏移で波長が4倍ほどに伸びているので、実際の観測は可視光領域になっています。
距離が分かっている天体からやってくる光子を正確に捉えられるように調整された特製フィルターを使っているそうです。
X線を青で、紫外線を赤で色付けして作られた画像をお見せします。
画像は SCIENTIFIC AMERRICAN のサイトからお借りしました。 → こちら
全体を包むように見える繭のような構造は、周囲から流れ込んだガスだと思われます。
水素ガスから発せられる紫外光の大きな広がりは30万光年ほどもあります。
その領域はX線でも激しく輝いていて、ガスの紫外線の輝きと絡み合っているように見えます。
そこには暖かい塵が発する赤外線光子がありますが、それ以上に宇宙背景放射の赤外線光子が存在しています。
宇宙背景放射は現在はマイクロ波として観測されますが、120億年前には赤外線だったのです。
そしてそれらが、相対論的な速さで運動する電子によって、「逆コンプトン散乱」というメカニズムでX線にまでエネルギーを高められていたのです。
そのような電子はブラックホールから噴き出すジェットしか考えられません。
このらせんを描いて運動する相対論的電子が周囲の宇宙空間に飛び散る最には、強い電波を発します。
電波で観測すると、X線で見られた羽とほぼ同一線上に並ぶダンベル型の電波源が見られます。
画像は Chandra のサイトからお借りしました。 → こちら
左は可視光(ライマンα線)で、右は電波です。
中心部には、2個以上の大質量ブラックホールがあるようです。
おそらく、もともとは若い宇宙を別々に漂っていた若年期の銀河構造に含まれていたものでしょう。
銀河が合体して、中心付近には私たちの太陽の数千万倍の質量を持つ塵からなる濃い雲があり、そのなかでは新たな恒星が盛んに作られていることでしょう。
X線画像では、それらを透かして中心核のなかを見通していることになります。
このブラックホールのペアはおそらく合体する途中だと思われます。
この赤ちゃん銀河は、10億年か20億年でおそらく数千億個の恒星からなる巨大な楕円銀河になるでしょう。
私たちが目撃している段階では、成長中の大質量ブラックホールの凄まじい力によって、電磁気放射や粒子がとても激しく行き交っています。
重力が銀河を一つにまとめようとすると同時に、このエネルギーの流れ出しがそれに抵抗しています。
しかし、その抵抗はいずれ無駄に終わるでしょう。
中心核にある、全体と比較するとごく小さいブラックホールが、実は銀河の成長を抑制しているのです。
参考図書
・重力マシン (ケイレブ・シャーフさん(訳:水谷淳さん)、早川書房、2013年3月発行(原書は2012年))
・重力マシン (ケイレブ・シャーフさん(訳:水谷淳さん)、早川書房、2013年3月発行(原書は2012年))