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しばらく「宇宙物理学」のブログになります。
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2020.11.24 Tuesday

宇宙物理学  原子

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    ***** 基礎物理学 > 素粒子物理 *****

    区切りの良いところで、基礎物理学を勉強しようと思う。
    今回は素粒子物理だ。



    原子の構造
     
         図は KEK のサイトからお借りしました。 → こちら

    原子の構造は、理科の授業でいつ習うのだろう? 中学?高校?
    原子は中心に「原子核」があって、そのまわりを「電子」が回っている、と習った。
    地球が太陽のまわりを回っているように、電子も原子核のまわりをくるくると回っているのだと。

    その原子核にも構造があり、「陽子」と「中性子」でできている。
    陽子の数は原子番号と呼ばれる。
    陽子は電荷を持っているので反発しあう。
    そのために電気的に中性な中性子が一緒にいたほうが安定なのである。
    中性子の数は陽子の数と同じとは限らないし、陽子の数が同じでも中性子の数が異なる原子が存在する。
    それらは同位体と呼ばれる。

    そしてさらに、陽子や中性子はクォークと呼ばれるいくつかの粒子でできている。
    今のところ、クォークはそれ以上分割できない素粒子(基本粒子)だと考えられている。

    それぞれの大きさは、大まかに言うとこんなものだ。
      ・原子 : 10-10
      ・電子 : 10-18m 以下 (大きさはゼロかもしれない)
      ・原子核 : 10-15
      ・クォーク : 10-18m以下



    電子雲

    原子の中で電子はどのように振る舞っているのだろうか?
    電子が原子核のまわりを回っているという描像は、それほど間違ってはいないだろう。
    しかし、中心から一定の距離の円軌道を、粒状の電子がくるくる回っている、という描像は古典物理学のものだ。

    では量子論ではどうなるのだろう?
    電子がたくさんあると話が厄介になるので、電子が1個しかない水素原子で話をする。
     

    左側は理科で習ったモデル(描像)だ。
    右側は量子論によるモデル(描像)で、水素原子の電子はもやもやと描かれている。

    でも、勘違いしないで欲しい。
    決して電子がぼやっと大きく拡がっているわけではないのだ。

    原子の中の電子は波の性質を強く持っているので、どこそこに存在すると示すことができない。
    量子力学では、電子がどのあたりに存在しそうかという存在確率しか示すことができないのだ。


    こんなふうに考えてみてはどうだろう?
    (架空の話で)原子の内部の電子を見ることができるハイパー顕微鏡が開発されたとしよう。
    その顕微鏡を使って水素原子の内部の写真を撮る。
    写真を撮るという操作は「観測操作」であるから、電子は観測されたとたんに粒子として現れる。
    だからその写真には、電子がひとつぽつんと写る。
    さらにもう一度、顕微鏡写真を撮る。
    すると、今度はさっきとは別の場所にぽつんと電子が写る。
    このようにして何十万回も写真を撮り、それらを重ねて出来上がったのが、上に示したもやもやした図だ。
    色の濃い部分は電子の存在確率が高く、白い部分は電子が存在する確率はゼロである。
    つまり図は電子1個の存在に対する「確率分布」を表しており、これが量子力学に基づいた「水素原子像」なのだ。

    なお、実際の確率分布は、球殻状に3次元に広がっている。
    図に示してあるのは、その断面図だ。

    この原子像では、たったひとつしかない電子の位置がはっきり示されておらず、電子の存在するであろう全ての位置がもやもやと描かれている。
    この「もやもや」は雲のように見えることから「電子雲(electron cloud)」と呼ばれている。
    しかし空の雲のように実体のある雲ではない!



    電子の軌道

    電子に許された「状態」を「軌道」と呼ぶことにする。
      本当は軌道という言葉は使いたくないのだが、他に適当な言葉が無いのだ!

    原子内の電子の状態(振る舞い)は、原子核による静電ポテンシャル中の3次元シュレーディンガー方程式を解くことで得られる。
    一般にはコンピュータを使った数値計算が必要になるが、水素原子の場合は解析的に解けるという。
    解は3つのパラメータ(量子数)で特徴づけられる。
    主量子数(n),方位量子数(l),磁気量子数(m)で、どれも整数だ。

    主量子数(n) : n=1,2,3,,,
      ・原子核からの平均距離やエネルギーに対応する
      ・高校の化学で習う「電子殻」を表す数
       電子殻の名前は、内側から順に、K殻,L殻,M殻,N殻、等

    方位量子数(l) : 0 から n-1 までの整数
      ・軌道の形を決める(電子の周回に対応)
        0 → 丸い(等方的)
        1 → 2方向に直線状に延びる
        2 → 4方向に十字型に延びる

    磁気量子数(m) : −l から +l までの整数
      ・軌道の向きに対応する
        X方向を向くのか、Y方向を向くのか、等


    量子数の組と電子の軌道名の対応を表に示す。
     

    軌道名において、数字は主量子数を示し、アルファベットは方位量子数を示す。
    一番上の1s軌道がエネルギーが最も低く、下にいくほどエネルギーが高くなる。
    1つの軌道には同じ状態の電子は1つしか入れない。
    ただし、電子はスピンを持っているので、スピンが反対向きの2つの電子が入ることができる。


    水素原子は電子が1個だ。
    通常は最もエネルギーが低い1s軌道に入る。

    例えば、酸素原子は電子が8個だ。
    エネルギーの低い軌道から入っていくので、1s軌道に2個入り、2s軌道に2個入り、2p軌道に4個入る。
    2p軌道には「席」が2個空いているが、この空いている席の数が、その原子の性格を決めているのだ。



    水素原子の電子雲

    電子雲の項のところで示した水素原子の電子雲の形は、主量子数(n)が1の場合の、最もエネルギーが低い場合だった。

    量子数によって水素原子の電子雲がどのように変わるかを下図に示す。
    量子数、特に方位量子数(l)と磁気量子数(m)によって、形が大きく変化する。
    何とも不思議な世界だ!
     



    原子の大きさ

    原子の大きさとは何だろう?

    原子核は電子をまるで雲のようにまとっているので、原子同士が近づくと、互いの電子同士の距離が縮まって反発しあう。
    だから原子が近づいたときに互いに排除しあう範囲を、それぞれの原子の大きさと見なしてはどうだろう?
    つまり直観的には、電子雲の広がりを原子の大きさと捉える、ということだ。

    実際には、原子の大きさ(原子半径)には幾つかの定義があり、場合によって使い分けられるそうだ。


    原子の大きさは、原子番号の増大と共に、単純に大きくなるわけではないという。
    周期律表で見ると、左下が大きくて右上が小さくなるそうだ。
     



    原子の中身はほとんど空っぽ

    原子の大きさに比べて、その構成要素である原子核や電子の大きさはけた違いに小さい。
    標準的な原子では、中心にある原子核の大きさは原子に比べて約10万分の1ほどしかない。
    だから、原子の中身はほとんど空っぽなのだ。
    体積で考えると、何と99.9999999999999%が何もない空間なのだ。
     


    太陽質量の8倍以上と重い星の最後は、超新星爆発を起こし、中心部の鉄のコアは中性子星となる。
    太陽はそれほど質量が大きくないので、中性子星ではなく白色矮星になる。

    太陽の半径は70万kmだが、仮に中性子星になったらそれが10kmほどに潰れてしまうという。
    中性子星では、電子が原子核の陽子に吸い込まれるとイメージしてよい。
    そうすると、今まで反発しあっていた電子がいなくなるので、空っぽだった空間が無くなって、原子核(中身は中性子だけ)が互いに触れ合うまでになるわけだ。


    中性子星のことを考えると、原子の中身がほとんど空っぽなのは、重要な意味をもっていたのだ。

    原子の大きさの定義のひとつに「ボーア半径」というものがある。
    その値は、自然定数の組み合わせだけで求めることができるという。
    これは理詰めで考えれば当たり前なのか、それとも偶然なのか、それとも、、、。

    この世界(宇宙)は奥が深い。


     
    参考図書
      ・「量子論で宇宙がわかる」、マーカス・チャウン、(訳)林一、集英社新書、2007年
      ・「破られた対称性 素粒子と宇宙の法則」、佐藤文隆、PHPサイエンス・ワールド新書、2009年
      ・「宇宙は何でできているのか」、村山斉、幻冬舎新書、2010年
      ・「量子力学はミステリー」、山田克哉、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年


     








    2020.11.21 Saturday

    宇宙物理学  銀河の衝突・合体の痕跡

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      ***** 宇宙の構造 (4) 銀河 > 銀河の相互作用、衝突・合体 *****


      ここでは、微かな痕跡を探っていく。


      痕跡は時間と共に消えていく

      円盤銀河に衛星銀河が呑み込まれる場合を考えてみる。
      一般に、衛星銀河の質量は母銀河の質量の1/10から1/100程度しかない。
      そのため、合体しても痕跡は華々しくできるわけではない。
      また合体に要する期間は数十億年であるが、銀河は2億年程度で1回転してしまうために、痕跡は合体の期間中に薄められ、見えにくくなってしまう。



      銀河の衝突・合体の微かな痕跡

      近傍の銀河では、観測技術の進歩もあって、微かな痕跡も探れるようになってきた。
      それによって、思わぬ事実が明らかになってきている。

      痕跡には以下のようなものがあるようだ。
        ・ウォープ構造
        ・ガスやダストの拡がり
        ・他の銀河とのガスの繋がり
        ・星流(スター・ストリーム)




      [ESO 510-G13] ウォープ構造
       
           画像は HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら

      ハッブル宇宙望遠鏡が可視光で撮影した銀河で、「M104」に似ている。
      エッジオン銀河で、円盤部(ディスク)の星間物質が銀河中央の明るい光を遮って、シルエットのように見えている。

      円盤部がうねっているように見えるが、これは「ウォープ(warp)構造」と呼ばれるものだ。
      これは、最近近くの銀河と衝突し、それを飲み込んでいることを示している。

      外側の領域、特に画像の右側では、ねじれた円盤に暗い塵だけでなく、青い星の明るい雲も含まれていることが分かる。
      これは、高温の若い星が円盤部に形成されていることを示している。



      [天の川銀河] ウォープ構造、星流(スター・ストリーム)

      天の川銀河は棒渦巻銀河だが、その銀河円盤は完全に平らではない。
      片側がやや上に反り返り、もう一方の側はやや下向きに反り返る、という歪み(warp)を持っていることが、1950年代から知られていたそうだ。
      また、この歪みの位置は、回転するコマの首振り運動のような「歳差運動」と呼ばれる動きによって、円盤の中を徐々に移動している。

      ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」が観測した天の川銀河の星のデータを使い、円盤の歪みの歳差運動が詳しく解析された。
      その結果、歪みの位置が歳差運動で銀河円盤の中を一周するのにかかる時間は約6億〜7億年であることが明らかになった。
      銀河円盤の歪みは、天の川銀河に他の銀河が衝突するといった現象が原因で生じたのではと考えられている。
       
           画像は ESA のサイトからお借りしました。 → こちら


      また、天の川銀河には、幾つかの星流(スター・ストリーム)が見つかっている。
        → こちらの記事
      これらは、天の川銀河と矮小銀河の接近遭遇の痕跡だと考えられている。
      まず、天の川銀河に極めて近づいた矮小銀河が、重力(正確には潮汐力)によって引き裂かれる。
      そして天の川銀河のまわりを回るにつれて、星が矮小銀河からはぎ取られ引きずり出されて星流となるのだ。



      [アンドロメダ銀河] 星流(スター・ストリーム)、他の銀河とのガスの繋がり

      アンドロメダ・ストリーム(アンドロメダの涙)
        → こちらにも記事がある
      アンドロメダ銀河の周りの淡い構造を調べてみると、南東側に淡く吹き出たような構造が見つかった。
      この吹き出た構造は「アンドロメダ・ストリーム」(アンドロメダの涙)と呼ばれている。
      これは約10億年前に小さな銀河が衝突した痕跡のようだ。
      その銀河の推定される質量は、小マゼラン雲程度だという。


      SDSSのデータから、アンドロメダ銀河の近くに巨大な星の塊が発見された。
      これは、これまで知られていなかった伴銀河か、アンドロメダ銀河の潮汐力によって引き裂かれた銀河の残骸かもしれない 。
      アンドロメダ銀河の北東に位置することから「アンドロメダNE」と名付けられた。
      この星の塊は巨大で、見かけは満月よりも大きい(比較のために満月の画像が添えられている)。
      ただ、私にはアンドロメダ銀河の周りに大きく広がっている雲のような構造のほうが気になる。
       
           画像は SDSS のサイトからお借りしました。 → こちら


      PAndAS(パンダス)計画というのがある。
        → こちらにも記事がある
      銀河の過去を調べるために、衝突したときに銀河から外に放り出された星やガスの痕跡を探した。
      その結果、アンドロメダ銀河を取り囲む、淡い構造が想像以上に広がっていることが分かった。
      アンドロメダ・ストリーム(アンドロメダの涙)以外にも星流(スター・ストリーム)が見つかった。
      さらに、端正な姿の渦巻銀河であるM33にも、淡い不思議な構造があることが分かった。
       
           Image credit : Australian National University /
           NSF’s National Optical-Infrared Astronomy Research Laboratory.

      アンドロメダ銀河とさんかく座のM33との関係を調べているが、両者には数十億年に及ぶ遭遇の歴史があるという。



      [M81] ガスやダストの拡がり  → こちらにも記事がある

      「M81」「M82」「NGC3077」は、M81銀河群の主要メンバーである。
      左は可視光画像で、右は中性水素の電波画像だ。
      水素ガスは銀河間を繋ぐように分布しており、重力相互作用を物語っている。
       



      [ソンブレロ銀河(M104)] ウォープ構造、ガスやダストの拡がり  → こちらにも記事がある

      暗黒の帯はダストや冷たい分子ガス雲で、背後からの光を吸収したり散乱したりする。
      そのため「ダスト・レーン」とも呼ばれている。
      よく見ると、両端に僅かだがうねりが見えている。
       
           画像は HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら


      「ソンブレロ銀河(M104)」は、本体の数倍も大きな淡い構造に包まれている。
      さらに、南北方向には土星のリングのような構造が見える。
      これは衛星銀河が合体した痕跡のようだ。
      M104本体からはかなり離れているので、まだストリーム構造が消えずに残っているらしい。

      画像は著作権の問題で掲載できないので、リンク先を直接見て欲しい。
        → こちら

      Students for the Exploration and Development of Space (SEDS) は、
      宇宙探査と宇宙開発を促進するための、国際的な学生組織だ。


       
      参考図書
        ・「巨大ブラックホールと宇宙」、谷口義明、和田桂一、丸善出版、2011年
        ・「宇宙はなぜブラックホールを造ったのか」、谷口義明、光文社新書、2019年
        ・「アンドロメダ銀河のうずまき」、谷口義明、丸善出版、2019年


       








      2020.11.19 Thursday

      宇宙物理学  銀河の相互作用

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        ***** 宇宙の構造 (4) 銀河 > 銀河の相互作用、衝突・合体 *****


        今まで用語を間違って使っていたようだ。
        衝突や合体をせずに、互いに近くを通り過ぎる場合に引き起こされる現象を、「相互作用」と呼ぶと思っていた。
        しかしこれは「接近遭遇(ニアミス)」と呼ぶようだ。
        そして、接近遭遇,衝突,合体、の全てで引き起こされる現象を「相互作用」と呼ぶようだ。



        銀河の相互作用

        銀河群や銀河団など、銀河が密集した場所では、2つあるいはそれ以上の銀河が、重力的に引き寄せ合ってお互いに影響を及ぼし合い、時には衝突・合体する場合もある。
        これを銀河相互作用と呼ぶ。
        こうした銀河相互作用、特に衝突・合体は、銀河の性質やその後の進化に大きな影響を与える。

        ULIRG(超高光度赤外線銀河)は、そのほとんどが、乱れた形態を示しており、ガスを豊富に持つ円盤銀河同士の衝突・合体であると考えられている。
        これを「湿った合体(wet merger)」と呼ぶ。
        銀河の衝突合体において、星同士が衝突することは無いが、粘性を持つガスは合体の過程で急速な角運動量を失ってコンパクトな回転する円盤を形成する。
        そこでは爆発的な星生成が起こり、合体後は急速にガスを消費しつくして、楕円銀河に進化していくと考えられている。

        ガスをほとんど持たない、楕円銀河同士の衝突合体もある。
        これを「乾いた銀河合体(dry merger)」と呼ぶ。

        赤方偏移が2から3という時代に、空間的にコンパクトで、すでに星形成を止めた質量の大きな銀河が相次いで見つかっている。
        こうした赤くコンパクトな楕円銀河は、上記の湿った合体によって形成されたのかもしれない。
        そして、さらに乾いた銀河合体を経て、現在の宇宙に見られるような巨大楕円銀河へと進化するのかもしれない。
        ただし、宇宙の初期(赤方偏移が4以上)の時代に、一度の爆発的な星形成で一気に大量の星を作って楕円銀河が生成されるというシナリオもある。


        同程度の質量を持つ2つの銀河の衝突・合体は「メジャー・マージャー」と呼ばれる。
        大きな銀河とそれよりずっと小さい銀河の衝突・合体は「マイナー・マージャー」と呼ばれる。
        この場合は、小さい銀河が呑み込まれるといったほうが適切かもしれない。



        銀河同士の相互作用による特徴的な形態

        銀河の衝突と言っても単純ではなく、いろいろな衝突の仕方がある。
        少し考えるだけで、次のようなパラメータがあることに気づく。
          ・どのくらいの質量の銀河がぶつかってきたか?
          ・そのような方向からぶつかってきたか?
          ・いつ、ぶつかってきたか?


        衝突の仕方で、銀河の形はいかようにも変形していく。
        それでも、以下のように形態に特徴的なパターンを示すことが多い。
          ・歪み(非対称)
          ・くっきりとした渦巻腕
          ・リング構造
          ・シェル構造
          ・尾(伸びた細い紐状の構造)

        ただし、子持ち銀河(M51)のようにほとんど変形を受けていないものもあり、相互作用による形態への影響の程度はまちまちである。



        銀河同士の衝突合体のコンピューターシミュレーション

        2つの同様な円盤銀河が衝突・合体する場合で、時間の単位は10億年だ。
         
             (Credit : Max-Planck Institute of Astrophysics)

        銀河が初めて最も接近するとき、潮汐力によって円盤が変形される。
        同時に、外側の星とガスは弧を描く軌道に放出されて尾を形成する。
        物質が互いの方向に引き寄せられ、分離している銀河の間に橋が架けられる。
        これらの橋は、銀河が2回目の遭遇のために戻ってきたときに破壊される。
        しかし、尾は長く生き残って成長する。
        銀河の中心が合体して楕円銀河を形成すると共に、円盤は破壊される。



        銀河同士の衝突合体のイメージ

        これは、6つの異なる銀河の画像を並べて、衝突・合体の様子を再現したものだ。
         
             画像は ESA のサイトからお借りしました。 → こちら

          1) 相互作用の最初の兆候として、接近する銀河から塵とガスを引き離して橋が形成される。
          2) 銀河の外側の範囲が触れ合うと、ガスと塵の長い尾が伸びて、コアを包み込むように後退する。
          3) これらの長い尾は相互作用の特徴であり、衝突後も長く続く可能性がある。
          4) 銀河のコアが互いに近づくと、それらのガスと塵の雲は劇的に加速され、衝撃波が形成される。
          5) ガスと塵は活発な中心領域に集まり、スターバーストが起こる。
            塵の雲が形成されると、それらは若い星の放射で加熱され、空で最も明るい赤外線天体となる。
          6) いくつかの銀河は、非常に特徴的な様相を示す。
            銀河と銀河の間を横切るダストレーン
            長く伸びる星とガスの長いフィラメント
            銀河の形の変形(ねじれ)
            スターバーストによる鮮やかな青い星団



        相互作用銀河 ハッブル・コレクション_2008
         
             画像は HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら

          上段 Arp 148、 UGC 9618、 Arp 256、 NGC 6670
          中段 NGC 6240、 ESO 593-8、 NGC 454、 UGC 8335
          下段 NGC 6786、 NGC 17、 ESO 77-14、 NGC 6050


        これは、ハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げ(1990年4月24日)18周年を記念して、2008年4月にリリースされたものだ。
        銀河どうしが近づくと互いの重力によって変形したり、また銀河どうしが衝突・合体することもある。
        これを見ると、銀河の相互作用にはさまざまなものがあることが分かりる。




        以下に、相互作用する銀河で姿形が面白いなと思ったものを紹介する。
        幾つかは「ハッブル・コレクション_2008」とダブっている。



        [Arp272 (NGC6050、IC1179)]
         
          画像は HUBBLE SPACE TELESCOPE からお借りしました。 → こちら

        ヘルクレス銀河団内で、2つの渦巻銀河が衝突している場面だ。
        2つの渦巻銀河は、すでに1本の腕で繋がっているようようだ。
        その途中に見える塊は小さな銀河のようにも見える。



        [HCG90]
         
             画像は HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら

        1980年代、カナダ人の天文学者ポール・ヒクソンが「コンパクト銀河群」のカタログを作成した。
        これらは、孤立した「散在」銀河と高密度の銀河団に属する銀河の群れ、との間の中間的な密度環境にあると思われる。

        これは「ヒクソン・コンパクト銀河群90」の画像である。
        2つの楕円銀河の間にある、おそらくかつては渦巻銀河だった銀河が、重力の潮汐力によって引き裂かれている。
        この現象は、このような銀河群環境に置かれた銀河が、ときに経る激烈な進化のプロセスを示している。




        [NGC4650A]
         
             画像は HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら

        ポーラー・リング銀河
        バルジのように見えるのは独立した1つの「S0銀河」で、それを垂直方向から見ている。
        そして、円盤のように見えるのは、このS0銀河に降ってきたガスに富む円盤銀河の残骸である。
        この銀河にもウォーブ構造が見える。



        [車輪銀河]
         
             画像は HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら

        外側と内側にリングが見える。
        2つのリングの間には車輪のスポークのような構造も見える。
        右側に見える2つの銀河のうち、上側の銀河が車輪銀河に衝突した銀河だと考えられている。
        衝突は約2億年前に起きた。



        [Hoag's Object]
         
              画像は APOD からお借りしました。 → こちら

        1950年にアート・ホーグが発見した「Hoag's Object」は環状銀河の代表的な例だ。
        外側にはリングがあり、大きくて比較的若い青色の恒星が多く、非常に明るい。
        対照的に、中心部のボール状の構造の星々は古いて赤い。
        2つの間の「ギャップ」は、 ほぼ完全に暗く見えるが、ほとんど見えないほど暗い星団が含まれている可能性がある。



        [PGC6240]
         
             画像は HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら

        「PGC 6240」は楕円銀河で、非常に明るい中心を取り囲むように、星で構成された何重ものシェル(殻)がある。
        このシェルはとても淡いが、全体としてバラの花のようにも、貝殻のようにも見える。
        シェルの幾つかは銀河の中心近くに形成されているが、銀河から切り離されたように見えるシェルもある。
        これらは、最近の銀河の合体の結果であると考えられている。


         
        参考図書
          ・「巨大ブラックホールと宇宙」、谷口義明、和田桂一、丸善出版、2011年
          ・「宇宙のはじまりの星はどこにあるのか」、谷口義明、メディアファクトリー新書、2013年
          ・「宇宙はなぜブラックホールを造ったのか」、谷口義明、光文社新書、2019年


         








        2020.11.18 Wednesday

        宇宙物理学  特異銀河

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          ***** 宇宙の構造 (4) 銀河 > 銀河の相互作用、衝突・合体 *****


          ハッブルが不規則銀河に分類したものの中で大きな銀河は、今では「特異銀河」と呼ばれることが多い。
          特異銀河の中には、近づきすぎたために互いの重力で大きく変形した「相互作用銀河」や、爆発的な星形成が起きている「スターバースト銀河」などがある。



          アープ・アトラス

          アープ・アトラス(Atlas of Peculiar Galaxies)は、ホルトン・アープが編さんした特異銀河の天体カタログである。
          合計338個の銀河が収録されており、1966年にカリフォルニア工科大学から第1版が発行された。
          パロマー天文台で撮影された写真を調べ、特異な形をした銀河を探してリストアップしたのだ。

          カタログにはその見かけの順に銀河が並べられている。
            001番−101番 : 渦巻銀河
            102番−145番 : 楕円銀河
            146番−268番 : 不定形の銀河や分裂しているように見える銀河
            269番−327番 : 多重銀河、スーパーウインド、長いフィラメントを持つ銀河
            333番−338番 : 上記のどれにも当てはまらない銀河


          以下に、適当に選んだものを紹介する。
          どれも姿形が面白くて、かなり多くなってしまった。



          [Arp26、M101、NGC5457]  渦巻銀河(おおぐま座の回転花火銀河)
           
               画像は HUBBLE SPACE TELESCOPE のサイトからお借りしました。 → こちら

          渦状腕の構造が非対称形で、1本の腕が他よりもかなり太く見える。



          [Arp37、M77]  渦巻銀河、セイファート銀河
           
               画像は NASA HUBBLE's MESSIER CATALOG からお借りしました。 → こちら

          中心部が明るく輝くセイファート銀河である。
          近くの低表面輝度銀河と相互作用している可能性がある?



          [Arp41、NGC1232]  渦巻銀河
           
               画像は ESO のサイトからお借りしました。 → こちら

          渦状腕が不自然に曲がっているように見える。
          左上に見える伴銀河が、その原因になっているのかもしれない。



          [Arp77、NGC1097]  棒渦巻銀河、セイファート銀河
           
               画像は ESO のサイトからお借りしました。 → こちら

          明るい銀河核を持つセイファート銀河である。
          中心には超大質量ブラックホールがあり、その周囲では爆発的星形成が行われている。
          近くには2つの伴銀河があり、3つの銀河は過去に相互作用を行っていたと考えられている。



          Arp85、M51]  渦巻銀河(子持ち銀河)
           
               画像は HUBBLE SPACE TELESCOPE のサイトからお借りしました。 → こちら

          小さな楕円銀河「NGC5195」と相互作用していて、両方の銀河の形が歪んでいる。
          渦巻銀河の腕は引き延ばされて、2つの銀河の間に恒星とガスのブリッジが形成されている。



          [Arp87、NGC3808]  楕円銀河+不規則銀河
           
               画像は APOD からお借りしました。 → こちら

          相互作用銀河のペアだ。
          微かに見える星のひもで繋がっている2つの銀河は、やがて絡み合い、合体してひとつの銀河になる運命にある。
          左側の銀河を取り巻く青い星の光の輪は、相互作用によって新しい星の形成が引き起こされた証拠だ。
          右側の銀河のかき乱された渦状腕で宝石のようにきらめいているのは新しい星団だ。



          [Arp 116、M60]  楕円銀河+渦巻銀河
           
               画像は HUBBLE SPACE TELESCOPE からお借りしました。 → こちら

          おとめ座銀河団に属する、相互作用している楕円銀河と渦巻銀河のペアである。
          楕円銀河は「M60」で、渦巻銀河は「NGC4647」だ。
          M60は、おとめ座銀河団の中で3番目に明るい銀河だ。
          両者の重力相互作用は始まったばかりだと考えられている。



          [Arp 152、M87]  楕円銀河、ライナー(ジェットを噴射)
           
               画像は HUBBLE SITE からお借りしました。 → こちら

          おとめ座銀河団の中核をなす楕円銀河で、中心に太陽質量の65億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールがある。
          ブラックホールのジェットは、口径の大きな望遠鏡であれば可視光でも確認することができる。
          ジェットの長さは7,000〜8,000光年にも及ぶと推定されている。



          Arp153、NGC5128]  ケンタウルス座A
           
               画像は ESO のサイトからお借りしました。 → こちら

          巨大な楕円銀河で、強い電波を放射する電波銀河としては最も太陽系に近い天体だ。
          中心部には太陽のおよそ1億倍の超大質量ブラックホールが潜んでいると考えられている。
          中央の黒い帯には大量のガスや塵があり、若い星が隠れている。
          巨大な楕円銀河と小さな渦巻銀河とが衝突してできたものと考えられているが、飲み込まれてしまった小さな銀河の残骸がこの塵の帯を作っている。



          [Arp188、UGC10214]  おたまじゃくし銀河
           
               画像は HUBBLE SPACE TELESCOPE からお借りしました。 → こちら

          「おたまじゃくし」と呼ばれている銀河だ。
          小さな銀河が大きい渦巻銀河に呑み込まれ、潮汐力によって小さな銀河から引きはがされた星々が形作るストリーム(星流)が航跡として残っている。
          このストリームの中で活発に星形成が行われていることを示す大質量の青い星の集団が数個見られる。
          この画像の波長では見えないが、帯には冷たいガスも含まれている。
          これらの星団の一部は、球状星団になる運命にある。



          [Arp242、NGC4676]  相互作用銀河、マウス銀河
           
               画像は HUBBLE SPACE TELESCOPE からお借りしました。 → こちら

          「Mice(マウス)」と呼ばれている相互作用銀河のペア。
          このペアは将来くっついて、ひとつの銀河になる運命にある。
          最も目立つのは、相互作用の最中に重力の潮汐力によって銀河の円盤から引きはがされた星々から構成される長く青い尾だ。
          黄色とオレンジ色に輝く2つの放射光のかたまりは、合体中にも元の形を留めている2つの銀河のバルジである。
          ただし、星々を包み込んでいるガス状領域がバルジに重なり、融合し始めている。



          [Arp244、NGC 4038, NGC 4039]  相互作用銀河、触角銀河
           
               画像は HUBBLE SPACE TELESCOPE からお借りしました。 → こちら

          2つの銀河が衝突しており、互いに潮汐力を及ぼし合うことで2本の長い腕状の構造が伸びているのが特徴である。
          日本語では、アンテナ銀河、リングテール銀河、とも呼ばれる。



          [Arp 273]
           
               画像は APOD からお借りしました。 → こちら

          「Arp273」は、重力によって互いに引き寄せられている相互作用渦巻銀河のペアだ。
          重力の相互作用が星やガスや塵に潮汐作用を及ぼし、両方の銀河の構造を歪めている。
          最終的に、このペアは合体して新しい銀河になり、その過程で星やガスを再分配する。
          相互作用が原因で、銀河円盤内のガス雲が収縮することがある。
          そのため、銀河間の相互作用と合体は、新しい星の形成を引き起こすことが多い。



          [Arp319、HCG92]  ステファンの五つ子銀河
           
               画像は APOD からお借りしました。 → こちら

          左下の青い銀河を除いた4つの銀河は、「ヒクソン・コンパクト銀河群92」として物理的に結びついている。
          赤っぽい3つの銀河は相互作用している。
          この相互作用は、銀河を形態的に乱しており、ガスや星を引きはがし、かき乱された物質の中で新しい星形成を引き起こしている。
          その星形成の様子を見せているのが中央の赤い銀河から左上に向かって扇のように広がっている星々だ。
          赤や青のまだら模様は、電離したガス(H粁琉茵砲函銀河の円盤から押し出され、かき乱されて収縮したガス雲の中で形成された若く青い星である。



          [Arp 337、M82]  スターバースト、スーパーウィンド、河葉巻銀河(Cigar Galaxy)
           
               画像は NASA HUBBLE's MESSIER CATALOG からお借りしました。 → こちら

          「M82」は「M81」に近接されたためにスターバーストが引き起こされているスターバースト銀河である。
          また中心部から極方向に向かって、電離した水素ガスが吹き出している。
          これは「スーパーウィンド」という。
          M81とM82はM81銀河団と呼ばれる同一の銀河団に所属しており、お互いの銀河の中心核は15万光年しか離れていない。
          両者の接近遭遇は数千万年前と考えられている。


           
          参考図書
            ・「銀河 宇宙140憶光年のかなた」、ジェームズ・ギーチ、(訳)糸川洋、筑摩書房、2014年


           








          2020.11.13 Friday

          宇宙物理学  活動銀河核はどうやって出来てきたのか (2)

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            ***** 宇宙の構造 (4) 銀河 > 活動銀河核 *****



            鍵を握っているのは超大質量ブラックホールだ

            不規則型銀河や衛星銀河を除けば、すべての銀河は中心領域に超大質量ブラックホールを持っている。
            その質量は、銀河の重さに応じて太陽質量の10万倍から100億倍にもなる。

            そのブラックホールの質量に関して、「マゴリアン関係」と呼ばれるものが知られている。
            銀河の楕円体成分の質量と、その中心にあるブラックホールの質量に、相関があるというものだ。
            銀河の楕円体成分とは、楕円銀河の場合は銀河全体で、渦巻銀河の場合はバルジと呼ばれる中心部の領域だ。
            銀河によってその値にばらつきはあるが、平均的にみると大質量ブラックホールの質量は楕円体の質量の0.2%程度になっているのだ。

            そのため、銀河とブラックホールはお互いに影響を及ぼし合って成長したと考えられている。
            これを銀河とブラックホールの「共進化」と呼んでいるが、それはどんなメカニズムなんだろう?
            そもそも、超大質量ブラックホールがどのように形成されたのかもよく分かっていない。


            クェーサーは遠方の宇宙でたくさん観測されていて、宇宙誕生後10億年も経たない頃のものも見つかっている。
            だから、その時期にはすでに超大質量ブラックホールが形成されていたということになる。
            ブラックホールは銀河と共に成長していくのだから、その母体となる銀河(母銀河)も形成されていたということだ。
            超大質量ブラックホールは形成そのものも難しいが、さらにそれらを短期間につくるとなると、問題は格段に難しくなる。



            初代星と初代ブラックホール

            宇宙で最初に星が生まれるのは、宇宙誕生後1億年から数億年が経過した頃だ。
            初代星は質量が重く、太陽質量の100〜1000倍と考えられている。
            それらは数百万年で寿命を終え、超新星爆発を起こす。
            星のコアは重力崩壊して、初代のブラックホールとなる。
            星が重かった分、残されるブラックホールの質量も重く、太陽質量の100倍程度になる。

            ただし、初代星の質量についてはまだ論争があり、太陽質量の40倍程度にしかならないという説もある。
            この場合は、初代のブラックホールの質量は恒星質量ブラックホール程度になる。

            超大質量ブラックホールの形成には、その種となる軽いブラックホール(種ブラックホール)があったと考えるのが自然だ。
            その意味では、初代星こそが種ブラックホールをつくるよい候補だ。



            超大質量ブラックホールの形成 その1

            銀河中心の超大質量ブラックホールの形成過程を整理したものとして、英国ケンブリッジ大学のマーティン・リースが1978年に提案した「リース・ダイアグラム」が有名だ。
             
                 画像をクリックすると拡大して見れます。

            出発点は大質量の「ガス雲」だ。
            超大質量ブラックホールへの道筋は、大雑把にいうと次の2つに分けられる。
              ・大質量のガス雲が、直接重力崩壊して巨大ブラックホールになる。
              ・大質量のガス雲が星団になり、星団が進化して巨大ブラックホールになる。


            まず前者だ。
            現在の宇宙では、ガス雲が自分の重力で収縮していくと、重力崩壊する前に星が出来てしまう。
            しかし宇宙初期では、水素原子とヘリウム原子しかないので、ガス雲の温度が高くて星が生まれにくい。
            そのため、ガス雲から直接、中質量ブラックホールが生まれる可能性がある。
            その質量は、太陽質量の1万倍から10万倍にもなるかもしれない。
            その後、ガスの降着がうまくいけば、宇宙誕生から数億年以内に、太陽質量の10億倍ぐらいの超大質量ブラックホールをつくることができる。
            ただし、ガス雲は多かれ少なかれ回転しているので、角運動量の保存によって、ある大きさよりも収縮できなくなってしまうという問題がある。


            続いて後者だ。
            初代星が生まれた頃は、ダークマターの塊の質量は太陽の100万倍程度なので、生まれる初代星の個数はわずかだと考えられている。
            ひょっとすると、1個しかできないかもしれない。
            そのため、星団をつくって、巨大ブラックホールへと進化させるのは、初代星ができた時代ではなく、その後、星がたくさんできるようになってからだろう。

            星団の中で大質量星ができると、まずは太陽質量の数倍から15倍程度のブラックホールができる。
            大質量星やブラックホールは周囲にある星々より重い。
            すると、周辺にある軽い星を重力で引き寄せ、合体してしまう確率が他の軽い星に比べて高い。
            周辺の星を飲み込むと、さらに質量が増える。
            そのため、さらに周辺の星を引き寄せる。
            この過程がどんどん起きるようになると、急速に大質量星やブラックホールの質量は増えていく。
            これを暴走合体と呼んでいる。

            ガスを大量に持つ銀河同士が合体すると、激しい星生成(スターバースト)が発生する。
            そのような合体銀河の中では、太陽質量の100万倍から1億倍の質量を持つようなスーパー星団が生まれている。
            そのような星団がちょう大質量ブラックホールの形成に繋がるのかもしれない。



            超大質量ブラックホールの形成 その2

            初代星がつくった中質量ブラックホールが種になった場合を考えてみる。

            クェーサーは宇宙誕生後9億年の頃にはすでに存在していたので、以下のような制約が課せられる。
              宇宙年齢2億年 : 中質量ブラックホールの質量は太陽の100倍
              宇宙年齢9億年 : 超大質量ブラックホールの質量は太陽の10億倍


            この問題を扱った先駆的な研究成果が谷口義明さんから報告されている。
            ブラックホールが太るには2つの方法しかない。
              ・ガス(星でもよい)を呑み込む
              ・合体する
            まず、ガスが降着することで太陽質量の1000万倍まで太る。
            これにかかる時間は約6億年だ。
            そして、ダークマターハローが合体を繰り返し、銀河の種が育ってきたところで、大規模な合体が起こる。
            合体には10億年ほどかかるが、種銀河の個数密度が高いところでは、もっと早く合体が進む場所もあるだろう。
            このように、タイムスケール的な問題は何とかクリアできそうな雰囲気だ。
             



            クェーサー

            クェーサーの母銀河を見ると銀河相互作用の兆候を示すものが圧倒的に多い。
            そこで、以下のようなストーリーがカルテックのデーヴ・サンダースやニック・スコビルによって提唱された。
              銀河の合体 → ULIRG(激しいスターバースト) → クェーサー

            シナリオは
              ・ガスに富む銀河同士の合体(銀河の個数は2個以上)が起こる。
              ・合体銀河の中心で激しい星生成(スターバースト)が起こる。
              ・このスターバーストでは大質量星が数億個程度生まれる。
              ・これらの恒星が放射する紫外線が塵粒子を温め、赤外線を大量に放射する。
                これが超高光度赤外線銀河(ULIRG)の状態である。
              ・大質量星の残骸である恒星質量ブラックホールは合体銀河の中心に集まる。
              ・銀河中心の超大質量ブラックホールはガスを降着しながら太っていき、合体する。
                残骸の恒星質量ブラックホールも飲み込まれる。
              ・スターバーストの後には超新星爆発が大規模に起こり、スーパーウィンドが吹き荒れる。
                これにより、ガスや塵粒子が銀河の外に吹き飛ばされる。
              ・合体銀河の中心で育った超大質量ブラックホール・エンジンが働きだす。
                これがクェーサーだ。

            ただし重要なことは、合体する銀河はすべて超大質量ブラックホールを中心に持っていることである。



            銀河の合体による活動銀河核の統一モデル

            谷口義明さんは上記のシナリオを拡張して、セイファート銀河まで含めた統一モデルを提唱した。
              メジャー・マージャー → 超高光度赤外線銀河(ULIRG) → クェーサー
              マイナー・マージャー → スターバースト銀河 → セイファート銀河

            ここで、
              メジャー・マージャーは、似通った質量を持つ2つの天体の衝突・合体
              マイナー・マージャーは、大きな銀河とそれよりずっと小さい銀河の衝突・合体

            ちょうど良い資料を見つけた。 → 天文月報(2016年5月)
             

            マイナー・マージャーの場合でも、衛星銀河も超大質量ブラックホールを持っていることが重要になる。
            衛星銀河の星々やガスは合体の途中で母銀河に吸収されてしまう。
            しかしブラックホールは軌道角運動量を母銀河の星々に与えながら、母銀河の超大質量ブラックホールめがけて落ち込んで行ける。
            だがら、母銀河の超大質量ブラックホールへのガス供給は、衛星銀河の超大質量ブラックホールが行ってくれるのだ。


            では,マイナー・マージャーは果たして銀河の中心領域でスターバーストを引き起こせるだろうか?
            例えば,大マゼラン雲が銀河系に降ってきて,スターバーストが起こるだろうか?
            たぶん,起こらない。
            なぜなら,大マゼラン雲の星々やガスは合体の過程で銀河系の円盤に紛れ込み,中心領域まで落ちていく前に消えてしまうだろう。
            ストリーム構造は痕跡として残すが,スターバーストを発生させたり,ましてや超大質量ブラックホールへのガス供給を担うとは思えない。
            やはり衛星銀河も超大質量ブラックホールをもっていることが必要になる。
            メジャー・マージャーと比較すると起こる出来事はスケール・ダウンするだろうが、物理過程は同じなのだ。



            だが、まだ道半ばだ

            クェーサーは、宇宙誕生後20億年から30億年の頃にはもっとたくさんあったということがわかってきた。
            その後、クェーサーの個数密度はどんどん減り、近傍の宇宙にはクェーサーがない。
            巨大ブラックホールはあるが、エンジンが止まった、と考えるしかない。

            さらに奇妙なことがわかってきた。
            暗いクェーサーになるほど、その数がピークを迎える(つまり、活性化する)時代が現在に近づくのだ。
            これは「重い巨大ブラックホールほど先に形成された」と解釈することもできる。
            しかし、そうだとすると、なかなか奇妙なことになってしまう。
            銀河は「小さいものがだんだんと合体しながら成長してきた」という階層的構造形成と全く逆になってしまうのだ。
            これが「ダウンサイジング(サイズが小さくなる)の問題」と呼ばれる未解決問題だ。


            それに、そもそも超大質量ブラックホールの形成機構が分かっていないのだ。


             
            参考図書
              ・「巨大ブラックホールと宇宙」、谷口義明、和田桂一、丸善出版、2011年
              ・「銀河の中心に潜むもの」、岡朋治、慶応義塾大学出版会、2017年
              ・「宇宙はなぜブラックホールを造ったのか」、谷口義明、光文社新書、2019年


             








            2020.11.12 Thursday

            宇宙物理学  活動銀河核はどうやって出来てきたのか (1)

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              ***** 宇宙の構造 (4) 銀河 > 活動銀河核 *****


              活動銀河核はどうやって出来たのだろう?
              ここでは、それを考えていくうえで手掛かりとなる現象を見ていく。



              超高光度赤外線銀河(ULIRG)

              赤外線天文衛星IRAS(打ち上げは1983年)による探査が始まると、とんでもなく明るい赤外線銀河が見つかり出した。
              それらの赤外線光度を見積もると、なんと、太陽高度の1兆倍を超えている。
              これらは「超高光度赤外線銀河(ULIRG、ユーラグと発音されることが多い)」と名付けられた。

              ULIRGの光度はクェーサーの光度に匹敵する。
              近傍宇宙に存在するほとんど全てのULIRGは、不規則な乱れた形をしているか、2つの銀河が重力で引き合う「合体」の渦中にあることが分かった。
              ほとんどのULIRGは、放射の少なくとも90%以上が赤外線である。
              赤外線で明るく輝いているのは、大半はスターバーストと呼ばれる激しい星生成の影響である。
              その星生成は天の川銀河の100倍ほどで、1年当たり100個程度だという。

              ただし、赤外線の放射が成長中の超大質量ブラックホールで発生している場合もある。
               
                   画像は HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら

              ハッブル宇宙望遠鏡は、地球から30億光年以内に位置する123個のULIRGを観測した。
              これらの銀河の少なくとも3分の1が複数個の小さな銀河による衝突を起こしている状況が明らかになった。
              さらに複数銀河による衝突も多数見つかった。
              複数の銀河衝突により強烈な潮汐力が生み出され、銀河内部では活発な星形成が引き起こされる。
              このとき、星を形成する前段階のガスが赤外線を強烈に放射しているのだ。



              スターバースト

              スターバーストは「爆発的星生成」と呼ばれる現象で、太陽の10倍以上の質量を持つ大質量星が一気に1万個以上も誕生する現象のことだ。
              多くの場合、銀河中心領域で発生していることが分かっている。

              銀河が近接遭遇すると、スターバーストの引き金となる。
              スターバースト銀河の正式な定義はないが、宇宙年齢よりずっと短い時間でガスとダストを使い果たすほど激しい星生成活動を行っている銀河のことを指す。
              天の川銀河よりも100倍も高い星生成率で星を生成しているものもある。

              特に小質量のものの中にはとても青い色をしたものがある。
              若い高温の星の光が支配的だからだ。
              それらはダストをほとんど含んでいない。
              おそらく、別の銀河との相互作用か合体によって、ダストを含むガス雲がかき回されてスターバーストが起きて、ガスとダストを消費しつくした結果だろうと考えられている。
              こうしたスターバーストでは直径20光年程度までの星団ができるが、明るさは太陽の10万倍にもなる。

              一方で、非常に大きくて非常に赤い色をしたスターバースト銀河がある。
              これらの銀河は莫大な量のダストに取り巻かれており、このダストが若い星からでる光(主に紫外線)を吸収し、赤外線として再放出している。
              ダストを透過して見ることのできるX線望遠鏡によって、これら大きなスターバースト銀河の多くには、中心核が2つあることが分かっている。
              このことは、これらが2つの大きな銀河が合体したものであることを示している。
              2つの中心核はそれぞれの銀河の中心核にあったブラックホールで、それら自身はまだ合体していない。



              スーパーウインド

              スターバーストの後には、超新星バーストが起きる。
              超新星残骸は互いにオーバーラップして、巨大な高温(温度は100万度)のプラズマのバブルを作る。
              このバブルは銀河の中にあるガス雲を圧力で銀河の外へと押しやる。
              銀河のハロー領域まで到達するとバブルははじける。
              すると、高温プラズマは堰を切ったように銀河の外へ流れ出す。
              これが「銀河風」あるいは「スーパーウインド」と呼ばれる現象だ。
              このようにスターバーストは、一度発生すると銀河の進化に大きな影響を与える重要なイベントなのだ。

              スターバースト及びスーパーウィンドと言えばM82だ。
               
                   画像は CHANDRA のサイトからお借りしました。 → こちら

              これは、X線(青),可視光(緑とオレンジ),赤外線(赤)、による合成画像だ。

              オレンジ色は温度が1万度にも達する水素ガスを示し、銀河から大量に噴出されているのが分かる。
              これが「スーパーウィンド」だ。
              赤色は赤外線を示し、同時に冷たいガスや塵も放出されていることが分かる。
              青色はX線で、激しい流出によって数百万度に加熱されたガスを明らかにしている。
              噴出したこの物質の一部は後になって重力に引かれて銀河に舞い戻るが、一部は戻ってこない。

              M82での星生成のバーストは、約1億年前に近くの大きな銀河M81との接近遭遇で生成された衝撃波によって開始されたと考えられている。
              これらの衝撃波は、塵とガスの巨大な雲の崩壊を引き起こした。
              これから1億年ほど経過すると、ガスと塵のほとんどが星形成に使われるか、銀河から吹き飛ばされるので、スターバーストは収まるそうだ。



              銀河同士の衝突・合体

              銀河どうしが衝突・合体するという現象自体は珍しいことではない。
              現在の天の川銀河も、これまでに幾つもの小さな銀河が合体して大きくなってきたと考えられている。

              銀河と銀河が衝突・合体すると聞くと、あちこちで星同士が衝突するのではないかと思うかもしれないが、心配ご無用。
              星同士の衝突はまず起こらないと言われている。
              ただ、重力の影響は受けるため、星の軌道は乱れてしまうだろう。
              また、銀河の形も変わってしまう。
              天の川銀河とアンドロメダ銀河はどちらも渦巻状の円盤を持つ銀河だが、この2つの銀河が合体すると、円盤のない楕円銀河になる可能性が指摘されている。


              銀河どうしの衝突では、銀河間に働く重力の引き合う力によってガスや星々に強い潮汐力が加わり、銀河の形が大きく歪む。
              例えば、2つの渦巻銀河が合体する場合は、まず銀河同士が近づき、その後すれ違う過程で、星やガスが渦状腕からはぎ取られて放り出されて長い尾を引く。
              2つの銀河間の相対速度によっては、このプロセスが数回繰り返されることがある。
              ときには、正面衝突し、銀河内の物質を激しくかき混ぜることもある。
              最終的には、2つの銀河が共通のポテンシャル井戸に沈み込む。
              このポテンシャル井戸は、それぞれの銀河を擁するダークマターハローが合体したものに相当する。

              合体が進むと、円盤のガスがかき乱され、圧縮され、それによって巨大分子雲の収縮が促進される。
              この密度のゆらぎは銀河の局所重力の影響を受けて急速に成長し、最終的に星形成の引き金になる。
              合体の最終段階に至る過程で、大半の円盤ガスが合体銀河の核領域に追いやられ、巨大な高密度の分子雲を形成することがある。
              密度が十分に高まれば、分子ガスは、太陽質量にして年間数百個から数千個に及ぶ非常に早い速度で星形成の燃料として消費される。
              この現象はスターバースト(爆発的星形成)と呼ばれる。

              形成された多くの大質量の若い星は数百万年以内に超新星爆発を起こし、大量の塵をまき散らす。
              そのため、このように盛んに星を形成している銀河は、その大部分が大量の塵に覆い隠されているのだ。
              この大量の塵が大質量の若い星に照らされて過熱され、遠赤外線を放射する。
              これが、超高光度赤外線銀河(ULIRG)なのだ。


              似通った質量を持つ2つの天体の衝突は「メジャー」マージャーと呼ばれる。
              メジャーマージャーは銀河進化の道のりに劇的な変化をもたらす。
              銀河の質量を増加させ、新しい星の形成とブラックホールの成長を引き起こし、銀河の形態を一変させ、星間物質を豊かにしてかき混ぜ、重い元素を周囲に撒き散らす。

              一方、大きな銀河とそれよりずっと小さい銀河の「マイナー」マージャーのほうがより頻繁に起こる。
              その理由は、ひとつには質量の小さい銀河のほうが大質量の銀河よりはるかに数が多いからだ。
              もうひとつは、低質量の銀河は衛星銀河として大きい銀河に付きまとうことがよくあるため、合体する可能性がそれだけ高いからだ。
              天の川銀河の周囲にも数十個の低質量矮小銀河が群れをなしている。
              矮小銀河は親銀河を周回するうちに粉々に破壊され、親銀河の傍を通過するときに長いストリームとして残ることがある。


              銀河の合体のコンピューターシミュレーションの例をお見せしよう。
              2つの同様な円盤銀河が衝突・合体する場合で、時間の単位は10億年だ。
               
                   画像は MPA のサイトからお借りしました。 → こちら


              衝突・合体しつつある銀河と言えば「触角銀河」が真っ先に思い浮かぶ。
               
                   画像は 国立天文台 のサイトからお借りしました。 → こちら

               
                   画像は HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら

              この画像は、ハッブル宇宙望遠鏡でフィルターを用いて撮像したものをカラー合成したものだ。
              Blue:F435W (B)、 Green: F550M (y) 、Pink: F658N (Halpha+[N II]) 、Red: F814W (I)


               
              参考図書
                ・「銀河と宇宙」、ジョン・グリビン、(訳)村岡定矩、丸善出版、2008年
                ・「巨大ブラックホールと宇宙」、谷口義明、和田桂一、丸善出版、2011年
                ・「宇宙のはじまりの星はどこにあるのか」、谷口義明、メディアファクトリー新書、2013年
                ・「銀河 宇宙140憶光年のかなた」、ジェームズ・ギーチ、(訳)糸川洋、筑摩書房、2014年
                ・「宇宙はなぜブラックホールを造ったのか」、谷口義明、光文社新書、2019年


               








              2020.11.08 Sunday

              宇宙物理学  活動銀河核の構造

              0
                ***** 宇宙の構造 (4) 銀河 > 活動銀河核 *****



                活動銀河核の統一モデル

                活動銀河中心核は非常に多種多様な性質を持っている。
                この多様性を比較的簡単に説明するシナリオが「統一モデル」として提唱されている。
                超大質量ブラックホールと、降着円盤,トーラス,ジェット、という共通のシステムで、いくつかの物理的な条件(パラメータ)を変化させるだけで説明しようというものだ。
                 
                     画像は JVO(国立天文台)のサイトからお借りしました。 → こちら


                構造的には、トーラスがポイントになりそうだ。
                ブラックホールの周辺には降着円盤があり、そのさらに外側には、分厚いドーナツ型の「トーラス」がある。
                トーラスは降着円盤にガスを供給する元だ。
                ブラックホールから離れているので比較的温度が低く、分子や塵などが存在しているために光などの電磁波を吸収しやすい。
                また、これらのガスと垂直な方向に、ジェットが出ている。
                 
                     画像は CHANDRA のサイトからお借りしました。 → こちら

                上のイラストで、オレンジ色の大きなドーナツ状のものがトーラスだ。
                中心付近の小さな平らな円盤が降着円盤で、それと垂直方向に両側にジェットが噴き出している。


                断面の模式図を下に示す。
                 
                     図は天文学辞典のサイトからお借りしました。 → こちら

                まず重要なパラメータは、ブラックホールを含むシステムをどの方向から見るか、という視線の方向だ。
                視線方向によって、トーラスの内部がどこまで見えるかが大きく違ってくる。
                真横から見ると、ブラックホールに近い中心部の領域がトーラスによって隠されてしまい、早い速度で動いているガスは見えなくなる。
                もう少しジェットに近い側から見ると、中心に近いガス速度の大きい部分まで見通せるようになる。
                ジェットをほぼ真正面から見ると、相対論的な効果によってジェットが大変明るくなり、ジェットの「超光速運動」が観測される。

                そして、活動銀河核そのものの性質を決めるうえで重要になるのが、ブラックホールにどれだけガスが落ちるかを表す「降着率」だ。
                銀河内のガスは銀河の中を回転していて、遠心力と重力が釣り合っている。
                このようなガスはぐるぐる回るだけで中心部まで落ちていかない。
                銀河が別の銀河とある程度以内の距離に接近すると、お互いの重力によって影響しあい、形がゆがめられて銀河内の星やガスの運動の軌道が大きく乱される。
                このような状態になると、ガスは銀河の中をきれいに回転していることができなくなる。
                そしてガス同士がぶつかったりして力を及ぼし合うことで、一部のガスが中心部に落ちていったり、また他のガスが銀河の外へ引きはがされていったりする。
                このような「銀河の相互作用」により、銀河の中のガスが効果的に銀河の中心部に落ちていき、活動銀河中心核へ燃料が供給される。



                トーラス

                活動銀河核の統一モデルでは、分子や塵などからなる「トーラス」という構造を導入した。
                では、それは本当にあるのだろうか?


                国立天文台及び鹿児島大学からなる研究チームが、アルマ望遠鏡を使って渦巻銀河M77の中心核を観測した結果を2018年に発表した。
                超大質量ブラックホールのまわりを大きく取り巻く半径約700光年の馬蹄形をしたガス雲と、半径約20光年のコンパクトなガス雲が観測されたという。
                さらに、コンパクトなガス雲が超大質量ブラックホールを中心に回転していることも確認できた。
                この半径約20光年のコンパクトなガス雲が、活動銀河核の統一モデルにおけるトーラスのようだ。
                 
                     画像は ALMA のサイトからお借りしました。 → こちら

                挿入されている画像がALMA望遠鏡によるものだ。
                黄緑色のリング状のものが半径約700光年の馬蹄形をしたガス雲で、その中央付近のポツンとしたものが半径約20光年のコンパクトなガス雲のようだ。



                超大質量ブラックホール

                不規則型銀河や衛星銀河を除けば、すべての銀河は中心領域に超大質量ブラックホールを持っている。
                その質量は、銀河の重さに応じて太陽質量の10万倍から100億倍にもなる。

                そのブラックホールの質量に関して、「マゴリアン関係」と呼ばれるものが知られている。
                銀河の楕円体成分の質量と、その中心にあるブラックホールの質量に、相関があるというものだ。
                銀河の楕円体成分とは、楕円銀河の場合は銀河全体で、渦巻銀河の場合はバルジと呼ばれる中心部の領域だ。
                銀河によってその値にばらつきはあるが、平均的にみると大質量ブラックホールの質量は楕円体の質量の0.2%程度になっているのだ。

                しかし、超大質量ブラックホールが銀河中心に普遍的に存在するというのに、じつはその形成過程がよく分かっていない。
                だが赤方偏移が7を超えるクェーサーが発見されているので、宇宙誕生後10億年もたたない時期には、すでに存在していたことになる。

                とても参考になる記事を見つけた。
                  「銀河と共に進化する超大質量ブラックホール」
                谷口義明さんが書かれた解説記事で、日本物理学会誌(2014年)に掲載されたものだ。 → こちら



                ブラックホール・エンジン

                宇宙物理学者は、よく「ブラックホール・エンジン」という言葉を使う。
                正直言って、なかなか馴染めない言葉だった。

                ブラックホールは物質を呑み込むだけの天体でない。
                同時にとてつもない量のエネルギーを放出するのだ。

                ブラックホールは、その強い重力によって周囲に漂っているガスなどを引き付ける。
                ガスは次第に中心に落ち込んでいき、やがてブラックホールの周囲をぐるぐり回転するガス円盤を形成する。
                このように、中心の天体に少しづつガスを落としているような円盤を「降着円盤」と呼ぶ。
                ブラックホールの周囲を回るガスは、光速度に近い回転速度まで加速され、摩擦によって非常に高い温度まで熱せられ、とても明るく輝く。
                 
                     画像は NASA のサイトからお借りしました。 → こちら

                落ち込む物質の重力エネルギーが解放されて熱エネルギーに変わり、最終的には光のエネルギーとして放射されるわけだ。
                これは突き詰めていえば、重力発電である。
                しかも、この重力発電は宇宙で最もエネルギー効率が高いのだ。
                恒星の中心部で起こっている熱核融合のエネルギー効率は0.7%でしかないが、この重力発電のそれは10〜40%にもなる。

                この変換機構を、化学エネルギーを動力に変換する自動車エンジンになぞらえて「ブラックホール・エンジン」と呼んでいるのだ。



                ジェット

                活動的なブラックホールは、ブラックホール本体とそこに落ち込むガスでできた降着円盤に加えて、ブラックホール近傍から放射されるジェットを持っている。
                一般にジェットとはガスが細く絞られながら速い速度で出ていく現象で、ブラックホールに限らず、物質が降着しているところではしばしば観測される。
                ブラックホールから出るジェットは、光速に近い速さで、非常に遠くまで細く絞られて飛び出していくのが特徴だ。

                ジェットの運動が光の速さを超えるように見えることがあり、これは「超光速運動」と呼ばれている。
                光の速さに近いジェットが観測者の方向に動いているときに、視線に垂直な方向の速度が光速度を超えて見えるのだという。


                 
                参考図書
                  ・「巨大ブラックホールと宇宙」、谷口義明、和田桂一、丸善出版、2011年
                  ・「巨大ブラックホールの謎」、本間希樹、講談社ブルーバックス、2017年
                  ・「銀河の中心に潜むもの」、岡朋治、慶応義塾大学出版会、2017年
                  ・「宇宙はなぜブラックホールを造ったのか」、谷口義明、光文社新書、2019年


                 








                2020.11.07 Saturday

                宇宙物理学  活動銀河核

                0
                  ***** 宇宙の構造 (4) 銀河 > 活動銀河核 *****


                  天の川銀河もアンドロメダ銀河もかなり大きな銀河だが、その活動は大人しいと見られている。
                  しかし宇宙には、活動が非常に激しい銀河が存在している(存在していた)。



                  活動銀河核

                  「3C273」はケンブリッジ大学の電波干渉計によるサーベイで見つかった電波源だ。
                  電波源の特定がなかなかできなかったが、1963年に月による掩蔽を利用して対応する天体が判明した。
                  それは約13等級の星のように見える天体だった。
                  しかしそれが15億光年というとても遠方の天体ということがわかると、天文界に激震が走った。
                  その明るさが太陽の1兆倍にもなるからだ。
                  ちなみに天の川銀河の明るさは太陽の1000億倍と見積もられているので、その10倍も明るいのだ。
                  しかも、それが銀河全体からではなく、銀河中心のごく狭い領域から放射されているようなのだ。
                  その後も同じような天体が次々と見つかっていく。
                  それ以降、このような天体は「クェーサー」と呼ばれるようになった。


                  クェーサーの発見が契機となり、銀河中心の活動性が注目されるようになった。
                  そして「活動銀河核(Active Galantic Nuclei (AGN))」と呼ばれるようになる。


                  近傍の銀河を調べてみると、規模こそ小さいが、クェーサーと同種の活動性を示す銀河があることが分かった。
                  これらは「セイファート銀河」と呼ばれている。
                  クェーサーに比べると活動性の指標である中心核の光度は1桁から2桁も低い。
                  しかし、近傍にあるため詳細な観測が可能で、多くの研究者の注目を集めるようになった。
                  1970年代の頃だ。


                  1990年代に入ると、近傍銀河の大規模なサーベイが始められた。
                  すると、意外なことに大半の銀河は、規模こそ小さいがAGNの兆候を示すことが分かってきた。
                  それらは、「LINER(低電離中心核輝線領域、ライナー)」として分類されている。
                  およそ半分の銀河がライナーに分類され、なんと天の川銀河もそうだという。


                  ところで「3C273」は強い電波源だが、紫外光から可視光でも明るい。
                  そこで青い銀河を探してみると、クェーサーがどんどん見つかるようになった。
                  そして意外だが、クェーサーで電波で明るく輝いているものは、わずか5%程度しかなかった。

                  電波の強いクェーサーで、電波強度の時間変化が激しいものがある。
                  これらは「ブレーザー」と呼ばれているが、電波ジェットの向きが、私たちに向かってくるような位置関係にあるそうだ。


                  また、電波の強いAGNの中には、電波ジェットが数十万光年もの長さまで広がっているものもある。
                  これらは「電波銀河」と呼ばれている。


                  このように、活動銀河にはいろいろな種類があるが、総称して「活動銀河核」と呼ばれている。
                  そして、これらを統一した機構で説明し、種類は見かけ上の分類とするような研究が進められている。


                  整理すると以下のようになるだろうか。

                    電波が強いもの
                      ・電波銀河
                      ・ブレーザー
                      ・電波の強いクェーサー
                    電波の弱いもの
                      ・電波の弱いクェーサー
                      ・ セイファート銀河



                  クェーサー

                       3C273
                       画像は HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら

                    これは、ハッブル宇宙望遠鏡の掃天観測用高性能カメラ(ACS)で撮影したものだ。
                    右はコロナグラフを使って、明るい中心核を隠している。
                    普通の銀河ではなく、明らかに合体による複雑な構造が見えるという。


                  クェーサーは遠方の宇宙でたくさん観測される。
                  赤方偏移z=6(宇宙年齢10億年)ぐらいから現れ始め、赤方偏移z=2〜3(宇宙年齢20億〜30億年)でピークを迎える。
                  その頃は、極めて活動的なクェーサーがいまより1000倍多く存在していただろう。
                  そして、これをピークとして、現在に至るまでクェーサーの個数密度は急激に減少する。
                  近傍の宇宙では、明るいクェーサーは銀河10万個あたり約1個しかない。

                  「活動銀河核」のなかでも明るく、遠いうえに中心核があまりにも明るいため、ほとんど母銀河が見えなくなっている。


                  ブラックホールに限らず、重さを持った天体に物質を落とし込む場合には、落とせる量(質量降着率)の最大値が決まっている。
                  落とした物質の重力エネルギーが解放されて光などの放射として出ていくことで、周りの物質を吹き飛ばそうとする圧力が発生するためだ。
                  この圧力は輻射圧と呼ばれる。
                  このように、天体の放射が重力に勝って周囲のガスを吹き飛ばしてしまう限界の明るさを「エディントン光度」という。
                  エディントン光度は輻射圧と重力の力比べで決まるので、重い天体ほどその値は大きくなる。
                  つまり、重い天体ほど明るく輝くことができるのだ。


                  銀河中心核に超大質量ブラックホールがあるとして、1年間に太陽1〜2個分の質量に相当するガスが落ち込めば、クェーサーの光度を説明することができる。
                  しかし、銀河中心付近のガスは回転運動しているので、ブラックホールにガスを供給するためには、その角運動量を取り除いてやらねばならない。
                  これが意外と難しいのだ。
                  だが、銀河は合体によって進化してきている。
                  銀河の合体が中心領域へのガス供給を担っているのではないだろうか?
                  クェーサーの母銀河を見ると、確かに銀河相互作用の兆候を示すものが圧倒的に多い。

                  また、クェーサーのような天体は宇宙年齢の間ずっと輝き続けているわけではない。
                  何らかの理由でブラックホールに物質が効率よく落ちてきたときだけ明るくなる。
                  そして、まわりにある全てを飲み込んだら活動を弱める。

                  典型的なクェーサーは、宇宙の歴史から見ればごく短い1000万年から1億年しか輝かないことが分かっている。
                  よって、全銀河のうち10%以上が、その生涯のうちいずれかの時期に明るいクェーサーだったことになる。


                  ところで、最も遠いクェーサーは、宇宙誕生から10億年にすぎない極めて若い宇宙に存在している。
                  しかし、こんな早い時期にどうやって超大質量ブラックホールが出来たのだろう?



                  セイファート銀河

                  セイファート銀河は、近傍宇宙の渦巻銀河の中から発見された。
                  渦巻銀河100個あれば、5個くらいはセイファート銀河である。

                  明るい中心核を持っていて、電波からX線にわたる幅広い周波数帯で強烈な放射をしている。


                       NGC3227
                       画像は APOD からお借りしました。 → こちら

                  NGC3227は渦巻銀河で、NGC3226(左側に見える楕円銀河)と相互作用している。
                  相互作用の影響で外側にはリップル(さざ波)のような構造が出来ている。
                  銀河中心核には太陽質量の1000万倍ぐらいの大質量ブラックホールが潜んでいる。



                  電波銀河

                  強烈な電波を放射する銀河を「電波銀河」と呼んでいる。
                  電波ローブと呼ばれる構造が、明るくコンパクトな中心核の両側にあるのが一般的な特徴だ。
                  中心核とローブを結合する細いジェットが見られるものもある。

                  中心核から双極状に放射された高エネルギー粒子が磁場と相互作用し、強烈なシンクロトロン放射をしているものが、電波ジェットと考えられている。
                  ただし、この高エネルギー粒子は馴染みのあるプラズマではない。
                  普通のプラズマは電子と陽子からなるが、これは電子と陽電子からなるペアプラズマと呼ばれるものだ。
                  また、これらの電波銀河のほとんどは楕円銀河であるが、その理由についてはよく分かっていない。


                  代表的な電波銀河

                    はくちょう座A
                      強い電波放射は、銀河から離れたところから出ている。
                      銀河から2つの方向に延びたこれらの構造は「電波ローブ」と呼ばれている。
                      この銀河はどうも、2つの銀河が衝突をしているように見える。
                    楕円銀河M87
                      M87のジェットの特徴は、可視光でも見えることだ。
                    ケンタウルス座A
                      銀河本体は楕円銀河だが、中央部に暗黒体が見える。
                      この暗黒体は、この楕円銀河に合体してきた渦巻銀河の痕跡である。
                      電波ジェットは、この暗黒体と直行する2方向に出ている。
                      ジェットの終端は、はくちょう座Aのように、電波ローブになっている。

                       ヘルクレスA
                       画像は Hubble Space Telescope からお借りしました。 → こちら

                  これは電波と可視光の画像を合成したもので、電波画像は紫色で表示されている。
                  中央の楕円銀河は「活発な」超大質量ブラックホールを抱えている。
                  楕円銀河は物質(ガス,塵,星)を降着させることによってブラックホールを養っている。
                  その活動によって、強力な電波のジェットが銀河から放出され、銀河外空間へと突入する。
                  電波放射は、最終的に、銀河から遠く離れた場所で煙のように渦を巻いている。



                  低光度活動銀河核(ライナー)

                  明らかに活動的な中心核をもち、いわゆる活動銀河核と分類されるものは、全銀河の数%にすぎない。
                  一方で、多くの銀河の中心核には、超大質量ブラックホールが潜んでいる。

                  それらブラックホールは常に活発な活動をしているわけではない。
                  何らかの理由でブラックホールに物質が効率よく落ちてきたときだけ活発になる。
                  そして、まわりにある全てを飲み込んだら活動を弱める。
                  そんな燃料切れの活動銀河核を「低光度活動銀河核(ライナー)」と呼んでいる。

                  中心の超大質量ブラックホールが吸い込むガスは、セイファート銀河の約100分の1以下である。
                  しかし、およそ半分の銀河がライナーに分類され、なんと天の川銀河もそうだという。


                   
                  参考図書
                    ・「銀河と宇宙」、ジョン・グリビン、(訳)村岡定矩、丸善出版、2008年
                    ・「巨大ブラックホールと宇宙」、谷口義明、和田桂一、丸善出版、2011年
                    ・「重力機械」、ケイレブ・シャーフ、(訳)水谷淳、早川書房、2012年
                    ・「ブラックホール・膨張宇宙・重力波」、真貝寿明、光文社新書、2015年
                    ・「巨大ブラックホールの謎」、本間希樹、講談社ブルーバックス、2017年
                    ・「銀河の中心に潜むもの」、岡朋治、慶応義塾大学出版会、2017年
                    ・「宇宙はなぜブラックホールを造ったのか」、谷口義明、光文社新書、2019年


                   








                  2020.11.04 Wednesday

                  宇宙物理学  棒渦巻銀河

                  0
                    ***** 宇宙の構造 (4) 銀河 > 銀河の種類 *****


                    渦巻銀河のバルジには、単純に丸いものと、星が密集した棒状の部分が飛び出しているものがある。
                    後者は「棒渦巻銀河」と呼ばれる。



                    棒状構造

                    棒渦巻銀河はバルジに棒状の構造がある渦巻銀河のことだ。
                    でも棒状構造といっても銀河ごとに形状は微妙に異なっている。

                    幾つかの棒渦巻銀河の画像を示す。
                     
                         画像をクリックすると大きな画像で見れます。

                         M83の画像は APOD からお借りしました。 → こちら
                         NGC1300の画像は NASA HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら
                         NGC4394の画像は NASAのサイトからお借りしました。 → こちら
                         NGC1097の画像は ESOのサイトからお借りしました。 → こちら


                    星の集団としての銀河円盤は力学的に不安定で、棒状構造をつくりやすい。
                    このことに最初に気がついたのは、エレミア・オストライカーとジェームズ・ピーブルスだった。
                    コンピュータの性能がまだ低かった1970年代の初めに、N体シミュレーションによる解析によって明らかになった。
                    さらに、逆に棒状構造ができない条件を追求して、
                    「銀河を取り囲むハローにたくさんの物質があって、それが円盤を守っている」
                    という結論にも達した。
                    今でいうダークマター・ハローの考えだ。
                    なお、ジェームズ・ピーブルスは2019年のノーベル物理学賞を受賞している。


                    しかし棒状構造をもった渦巻銀河は少なくない。
                    実は棒状構造をつくるメカニズムは他にもあるのだ。
                    それは銀河の遭遇だ。
                    銀河同士が近づいてくると、互いの重力で銀河の円盤に潮汐力が働いて、棒状構造ができるのだ。

                    現在では、円盤銀河の半数は棒状構造をもった棒渦巻銀河である。
                    しかし、遠方の宇宙では棒渦巻銀河が少ないことが分かってきた。
                    80億光年彼方(すなわち80億年前)では、棒渦巻銀河の割合は円盤銀河全体のたった20%しか無かったのだ。



                    棒状構造の働き

                    棒状構造は、恒星やガスが円盤部からバルジに向かって移動する道のようなものらしい。
                    そのため、銀河の進化に重要な役割を果たしていると考えられている。

                    バルジに運ばれた恒星やガスは、銀河中心附近での星形成やブラックホールの成長を促進するだろう。
                    一方で、円盤部での星形成が疎外されてしまうかもしれない。


                    イギリス・ポーツマス大学の宇宙・重力研究所(ICG)の研究チームは、赤い渦巻銀河は青い渦巻銀河に比べて、棒状構造を持っている割合が約2倍多いことを見つけた。
                    そして、棒状構造によって渦巻銀河の星形成が止まり、輝きが失われるのかもしれないと結論づけた。

                    アストロアーツの天文ニュースの記事がある。
                      → こちら


                    また、国立天文台・野辺山宇宙電波観測所では2014年から2017年にかけて「レガシープロジェクト」を実施した。
                    その結果、渦巻銀河では星の材料となる分子ガスの大半が銀河中心を周回しているが、棒渦巻銀河では異なる動き方をするガスもあることが分かった。
                    そして、棒状構造が発達した銀河ほどゆっくり回転していることを見つけた。
                    棒状構造が成長するに伴って銀河の回転にブレーキがかかるということだ。

                    アストロアーツの天文ニュースの記事がある。
                      → こちら



                    [NGC1365]

                    NGC 1365は、ろ座銀河団に属する銀河の1つで、棒渦巻銀河の中ではもっともよく研究されている。
                    まっすぐな棒状構造と外側の2つの腕を持つ、完璧とも言えるほどの姿をしている。
                    銀河の中心に近い領域には第2の渦巻き構造があり、銀河全体には暗いちりの筋模様が走っている。

                    近赤外線画像は、可視光画像に比べてちりによる影響が少ないため、棒状構造と腕に存在している膨大な数の星からの光を鮮明に見せてくれている。
                     
                         画像をクリックすると、大きな画像で見れます。
                         画像は ESO のサイトからお借りしました。 → こちら



                    [NGC1097] Arp77

                    コアを貫いて両方の渦状腕へ伸びる、特徴的な棒構造を持つ渦巻銀河だ。
                    下はスピッツァーの中間赤外線で撮られた画像だ。
                    銀河の中心核に赤外線放射の明るいリングが見られる。
                    これは活動的な中央のブラックホールを取り囲むリング状の星形成領域を伴う熱い塵からの放射である。
                    棒構造は、ガスと星を円盤から銀河核へ運ぶことによって、この核活動の一部を支えている。

                         可視光
                         画像は ESO のサイトからお借りしました。 → こちら

                         中間赤外線
                         画像は NASA のサイトからお借りしました。 → こちら
                         可視光画像に合わせて画像を回転させたが、写野はこちらのほうが広い。



                    [NGC4921]

                    かみのけ座銀河団に属する棒渦巻銀河だ。
                    この銀河の腕は、ほかの渦巻銀河ほど顕著ではない。
                    円盤で星を形成する速度が遅いからだろうが、高密度の銀河団の中にいるのが原因かもしれない。
                    背景にさまざまな型の無数の遠方銀河が写っている。
                     
                         画像は HUBBLE SPACE TELESCOPE のサイトからお借りしました。 → こちら



                    [M83]

                    いろいろな電磁波で撮影された画像を集めてみた。
                     
                         画像をクリックすると大きな画像で見れます。

                         可視光の画像は APOD からお借りしました。 → こちら
                         近赤外光の画像は ESO のサイトからお借りしました。 → こちら
                         紫外光+電波の画像は GALEX のサイトからお借りしました。 → こちら

                    紫外光+電波の画像は写野がかなり広い。
                    右下は可視光や近赤外光と合わせて切り抜いたものだ。

                    可視光では、新しい星とH粁琉茲療杜イ靴織スが見えていて、そのほとんどは円盤と渦状腕に存在する。

                    近赤外光では、それらの部分はほとんど見えない。
                    逆に、塵に邪魔されずに年老いた赤い星を捉えることができるので、中央のバルジや棒構造が目立っている。

                    下側の画像は、遠紫外光(青),近紫外光(緑),21cm電波(赤)、の合成画像だ。
                    中性水素ガスが恒星密集部から遠く離れた場所にまで広がっていて、そのところどころに青い星の集団が見られる。
                    こんな外側でも星形成が行われているとは、ちょっと驚いた。


                     
                    参考図書
                      ・「宇宙進化の謎」、谷口義明、講談社ブルーバックス、2011年
                      ・「銀河 宇宙140憶光年のかなた」、ジェームズ・ギーチ、(訳)糸川洋、筑摩書房、2014年
                      ・「アンドロメダ銀河のうずまき」、谷口義明、丸善出版、2019年


                     








                    2020.11.02 Monday

                    宇宙物理学  渦巻銀河

                    0
                      ***** 宇宙の構造 (4) 銀河 > 銀河の種類 *****


                      渦巻銀河は、バルジ(中央の膨らんだ部分)の周囲に薄い円盤(ディスク)が存在する。
                      円盤には低温の星間ガスが豊富にあり、そこで星形成が盛んにおこなわれている。
                      そのために、質量が大きく寿命の短い青い恒星も数多く見られる。
                      円盤の内部には、恒星の密度が高く明るく見える渦巻き状の渦状腕(かじょうわん)が存在する。

                      渦巻銀河の構造に関しては、天の川銀河のところで説明したので、そちらも参照して欲しい。
                        → こちら



                      バルジ

                      渦巻銀河はバルジと円盤から出来ている。
                      でも、両者はいろいろな点でかなり異なっている。

                      バルジは、円盤と同じように回転しているものもあれば、円盤と回転速度が異なるものもある。
                      また、含まれている星々は円盤部にあるものと比べると老齢である。

                      バルジにはランダムな軌道を描く古い星々が含まれていて、ある意味で、ミニ楕円銀河のようなものだ。
                      しかし、バルジは楕円銀河のように死んではいない。
                      天の川銀河もそうだが、渦巻銀河ではバルジがある中心部の領域でまだ活動が行われている可能性がある。


                      バルジと円盤は形成時期や形成のメカニズムが異なっていると考えたほうが良いのかもしれない。



                      渦巻銀河のいる場

                      巨大な楕円銀河は、大きな銀河団の中央附近に多く見られる。
                      それとは対照的に、渦巻銀河はそのような場所を避けて、銀河の密度がもっと低い場所に多く見られる。

                      しかし、最初からそうだったわけではないと思われる。
                      銀河の密度が高い場所では、銀河どうしの衝突・合体が起こりやすく、渦巻銀河として生き残れなかったのだろう。



                      銀河の円盤は、なぜ回転運動しているのだろう?

                      それは、銀河円盤の元になった原始ガス雲が角運動量を持っていたためである。
                      ただし、現在観測される巨大な銀河が一気にできたとは考えられていない。
                      生まれたときは、現在の数十分の1から数百分の1くらいの大きさしかなく、それらが順次合体して育ってきたのである。
                      そうすると、角運動量の起源は最初から持ち合わせていたものではなく、小さな銀河の種の合体で獲得されたと考えるほうが自然である。
                      小さな銀河の持っていた軌道角運動量が、合体してできた銀河の角運動量に転換されるのである。
                      こうして、長い期間を経て、回転する銀河の円盤ができたのである。



                      渦巻の謎

                      渦巻き模様は特定の星がつくる模様で、渦巻き模様を保ちながら回っていると思うかもしれないが、そうではない。
                      もしそうだとすると、渦巻き模様は数回転するうちにぎりぎりと巻き込まれてしまうだろう。

                      星の回転運動が停滞する場所が渦巻き状にあって、そこで星は回転運動の速さを少し落とし、やがて通過していく。
                      そのために渦巻き状に星が多く集まって見えているのだ。
                      同時に渦巻き状の停滞場所は、波として内側も外側も同じ時間で銀河を一周するよう、ゆっくりと回転している。
                      だから、実際に星が渦巻き運動をしているわけではなく、渦という波と星が追いかけっこをしているというわけだ。


                      では、なぜ星の回転運動に渦巻き状の波が生じるのだろう?
                      通常は、波は粘性によってやがて消えてしまう。
                      そのため、長く継続させるためには波を励起する作用がなければならない。
                      それに、なぜ渦巻き状の波になるのか、なぜ2本の渦巻きが多いのかと、疑問が次々浮かんでくる。
                      残念ながら、その多くはまだ謎のままだそうだ。



                      さまざまな渦巻

                      渦巻銀河は「巻きの強さ」が多肢にわたる。
                      たとえば、中央のバルジに腕がどれだけ強く「巻き付いている」かに違いがあり、中央のバルジ自体にもサイズや明るさに違いがある。

                      ハッブルの銀河分類では、渦巻銀河は棒状構造の有無によらず、2本のきれいな渦巻きが描かれている。
                      しかし、現実の渦巻銀河は必ずしもそうなっていない。

                        ・2本の渦巻
                          ・グランド・デザイン(grand design) → M83、M74
                        ・3本以上の渦巻
                          ・マルチプル・アーム(multiple arm) → M101
                        ・はっきりした渦巻構造がなく、羊の毛のような淡い波立ちが見える
                          ・フラキュラント・アーム(flocculent arm) → M63
                       
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                           M83 ESO のサイトからお借りしました。 → こちら
                           M74 APOD からお借りしました。 → こちら
                           M101 NASA のサイトからお借りしました。 → こちら
                           M63 APODからお借りしました。 → こちら



                      グランド・デザイン渦巻銀河

                      約70%の渦巻銀河は2本のきれいな渦巻を持っていて、それらはグランド・デザイン渦巻銀河と呼ばれる。

                           M51
                           画像は HUBBLE SPACE TELESCOPE のサイトからお借りしました。 → こちら

                      典型的なグランド・デザイン渦巻銀河だ。
                      ただし、M51はNGC5195という銀河と衝突している最中なのだ。
                      M51の2本のきれいな渦巻は、この衝突のおかげでできたのだと考えられている。
                      M51とNGC5195は重なり合うように並んで見えているが、それはたまたま私たちがそのように見える方向から眺めているだけだ。
                      実は、2つの銀河はそれなりに離れている。


                           M81 (赤外線画像)
                           赤外線画像 青(3.6um)、緑(4.5um)、赤(8.0um)
                           画像は NASA-JPL SPITZER のサイトからお借りしました。 → こちら

                      ほれぼれとするような2本のきれいな渦巻を持っている。
                      M81はM82とNGC3077という2つの銀河と、銀河群をつくっている。
                      一見するとこれらの銀河は結構離れていて、相互作用しているようには見えない。
                      ところが中性水素原子ガスの分布を調べてみたところ、確かに3つの銀河はつながっていることが分かった。
                       
                           Credit: NRAO/AUI/NSF

                      M81の端正な2本の渦巻は、他の銀河との相互作用でできたと考えるほうがよさそうだ。


                      銀河が互いに遭遇すると、潮汐力によって2本のグランド・デザイン渦巻構造ができる。
                      潮汐力によって銀河が引き延ばされて細長く変形していく。
                      銀河は回転しているので、引き延ばされた構造は回転に従って流れていき、あたかも2本の渦巻構造のようになるのだ。

                      では、相互作用しない銀河では渦巻構造はできないのだろうか?
                      その答えは、イエスのようでもありノーでもありと、判然とはしていないそうだ。



                      M104(ソンブレロ銀河)は渦巻銀河だろうか?

                      M104(ソンブレロ銀河)は、渦巻銀河に分類されるが、バルジが極端に大きい。
                      見かけの形がメキシコの帽子であるソンブレロに似ているので、その名が付いた。
                       
                           画像は NASA JPL のサイトからお借りしました。 → こちら

                      画像は、左下が可視光、右下が赤外線(3.6um−8.0um)で撮影したものだ。
                      そして上は両者を合成したものだ。

                      可視光で見た姿では、銀河円盤にくっきりと刻まれた暗黒の帯のような構造が特に目につく。
                      そして、この暗黒の帯にはまったくの乱れがない。
                      しかし、この暗黒の帯の部分には何も存在しないわけではない。
                      実は冷たい分子ガス雲がたくさんある。
                      主としてダストが背後からやってくる星々の光を吸収したり散乱したりするため、暗く見えているのだ。
                      そのため、ダスト・レーンとも呼ばれている。
                      このダスト・レーンの様子を赤外線で見てみると、ダストは銀河円盤全体にあるわけはなく、リング状になっている。

                      少し前にアンドロメダ銀河でも「リング」の話をした。 → こちら
                      M104(ソンブレロ銀河)のリングはどうやって出来たのだろうか?
                      谷口義明さんは、
                      楕円銀河に赤道面に沿ってガスに富む円盤銀河が降り注いできて合体したのかもしれない、
                      という大胆な仮説を提案している。



                      [NGC5584]

                      羊毛状渦巻銀河だ。
                      円盤全体にわたって、若くて青い新しい星がまだら模様に形成され、光輝いている。
                      羊毛状渦巻銀河は、いわゆる「グランドデザイン」渦巻銀河ほどは、渦構造がはっきりしていない。
                      外観には渦形態が見られるものの、渦の構造は塊り状で、ほとんど拡散している。
                       
                           画像は HUBBLESITE からお借りしました。 → こちら



                      [NGC4710]

                      おとめ座銀河団の渦巻銀河で、真横から見た姿だ。
                      典型的な厚みを持った円盤と中央に丸いバルジが見える。
                      赤道面上にくっきりした塵の帯があり、銀河の中央領域を「赤化」させている。
                       
                           画像は HUBBLE SPACE TELESCOPE のサイトからお借りしました。 → こちら



                      [NGC4911]

                      かみのけ座銀河団に属する渦巻銀河NGC4911の画像で、露光時間は28時間を要したという。
                      中央の明るい渦巻の周囲に大きく広がる渦状腕の外縁部で星々が淡い光を放っている。
                      中央の渦巻は、若い星の放出する光とH粁琉茲寮臼西の光によって青とピンクに彩られ、塵の帯がそれを覆っている。
                      銀河団内では銀河間に重力の相互作用が働くことが多く、円盤銀河を形態的に変化させたり、ガスをかき乱したりする。
                       
                           画像は HABBLESITE からお借りしました。 → こちら


                       
                      参考図書
                        ・「宇宙進化の謎」、谷口義明、講談社ブルーバックス、2011年
                        ・「銀河 宇宙140憶光年のかなた」、ジェームズ・ギーチ、(訳)糸川洋、筑摩書房、2014年
                        ・「宇宙入門」、池内了、角川ソフィア文庫、2015年
                        ・「アンドロメダ銀河のうずまき」、谷口義明、丸善出版、2019年


                       








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