2020.09.13 Sunday
宇宙物理学 星の晩年と最後 (3) 太陽質量40倍以上の場合
***** 宇宙の構造 (2) 天の川銀河内 > 恒星 *****
太陽質量の40倍程度以上の星は、中性子星として生き残れず、潰れてブラックホールになってしまう。
重力崩壊
太陽質量の40倍程度までの星は、超新星爆発を起こしても、中心のコアは中性子星として生き残る。
この中性子星は「中性子の縮退圧」と呼ばれる力で支えられている。
しかし、この力で支えることができる質量には上限があり、中心に残ったコアが太陽のおよそ2〜3倍を超える場合は、さらに潰れてブラックホールになると考えられている。
この質量限界は「トルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界」と呼ばれる。
自分自身の重さに耐えきれず、その重力によって縮んでいくしかない状態を、「重力崩壊」と呼ぶ。
星が縮んでいくと聞くと、星を作っている物質が星の中心に向かって落ち込んでいくことをイメージするだろう。
しかし、一般相対性理論ではそう考えない。
物質が落ち込んでいくのではなく、時空が落ち込んでいくのである。
つまり、あくまでも「物質=時空の歪み」なのだ。
そうすると、重力崩壊の意味合いが違ってくる。
結局、重力崩壊は時空が縮んでいくことに他ならないからだ。
この時空の縮む速度が光の速度を超えたらどうなるだろうか。
当然のことながら、その場所から光(電磁波)が私たちに届くことはない。
つまり、そこがブラックホールになったと考えるのだ。
超新星爆発が起こると大量のニュートリノが発生する。
だがもし、爆発を起こした超新星がつぶれて、そこにブラックホールが生まれると、発生したニュートリノはそこから出られなくなってしまう。
だから、ニュートリノが来なくなった瞬間をとらえることができれば、そこでブラックホールが誕生したことが分かるという。
スーパーカミオカンデが最大のターゲットのひとつとしているのがその現象だそうだ。
ガンマ線バーストと極超新星
中心にブラックホールができる場合は、落ち込んでくる物質のほとんどはブラックホールに吸い込まれて大きな爆発は起こさず、明るく輝くことはないだろうと思われていた。
これを「サイレントスーパーノヴァ(沈黙の超新星)」と呼ぶことがある。
暗くて観測はできないものの、このようなサイレントスーパーノヴァは天の川銀河の中に大量にあるだろうと思われていた。
しかし自然は、ブラックホール出現という晴れ舞台にふさわしい、もっと派手な演出を用意していたのだ。
それが「ガンマ線バースト」だ。
ガンマ線バーストは、2秒を境に継続時間が短いものと長いものに分類される。
それらをそれぞれ、「ショートガンマ線バースト」と「ロングガンマ線バースト」と呼ぶ。
このロングガンマ線バーストの正体がブラックホールをつくる「極超新星」なのだ。
超新星を「スーパーノヴァ」、極超新星を「ハイパーノヴァ」という。
極超新星は普通の超新星の10倍から100倍ものエネルギーになる。
多くの星は自転しているので、できるブラックホールも回転している。
角運動量が保存されるので、潰れて小さくなった分だけ速い速度で回転することになる。
こうしてできた高速回転しているブラックホールに、もともとの星の外側の物質が落ち込んで、ブラックホールのまわりに円盤をつくる。
これを「降着(こうちゃく)円盤」と呼ぶが、この円盤ももちろん高速で回転する。
円盤ができると不思議なことが起こる。
落ち込んだ物質の一部が自転軸の方向に細く絞られて、猛烈な勢いで飛び出してくるのだ。
このメカニズムは完全には分かっているわけではないが、円盤内で発生した磁場が深くかかわっていると考えられている。
このジェットの速度は光の速度にほぼ等しく、それがまだ落下していない星の外層の物質とぶつかってガンマ線が放射される。
ガンマ線の放出はジェットの方向に細く絞られており、我々がたまたまそのジェットの方向にいる時だけ、ガンマ線バーストとして観測されるのだ。
ジェットを考慮に入れると、ガンマ線バーストの発生頻度は、我々が検出しているより100倍も多くなるという。
下図はガンマ線バーストの想像図だが、リンク先には京都大学の戸谷友則さんの解説もある。
画像は京都大学の戸谷友則さんのサイトからお借りしました。 → こちら
なお、ショートガンマ線バーストの正体は、2つの中性子星の衝突という説が有望だが、まだ確定的なことは分かっていない。
もし中性子星の合体だとすると、合体の結果、ブラックホールができるだろう。
極超新星爆発間際?の星
りゅうこつ座にカリーナ星雲と呼ばれる星雲がある。
地球から約7500光年彼方にあり、200光年ほども広がった大きな星雲で、現在多数の星が生まれている。
この星雲の中には、太陽質量の50倍以上の巨大な星が多数存在している。
そのなかで太陽質量の100倍程度、直径が太陽の200倍程度、表面温度4万度程度、明るさが太陽の40万倍程度という、もっとも重たく明るい「青色超巨星」がある。
この星をエータカリーナという。
このエータカリーナの周りには、人形星雲と呼ばれる2つの団子が串刺し状になったような星雲があるが、1841年のときの爆発でその一部ができたと考えられている。
過去にこの星は何度も爆発していることが知られている。
画像はESOのサイトからお借りしました。 → こちら
最後に星全体を吹き飛ばす大爆発を起こすと考えられている。
星の質量が非常に大きいため、中心核はブラックホールをつくるはずだ。
このような爆発によって放出されるエネルギーは、中性子星をつくるような超新星爆発よりも数10倍も大きい。
そのため、超新星と区別して極超新星と呼ばれる。
恒星質量ブラックホール
こうしてできたブラックホールの典型的な質量は、太陽質量の数倍から15倍程度で、「恒星質量ブラックホール」と呼ばれる。
誕生時の恒星の質量には理論的な上限があり、それは太陽の400倍程度らしい。
とはいえ、爆発前に自身の輻射圧によって外層部の大部分を失っていくため、残されるブラックホールの質量は20太陽質量を超えないと考えられている。
現在、銀河系内に恒星質量ブラックホールはどのくらいあるのだろうか?
1億個から10億個と推定されるそうだが、X線天体として観測されたブラックホール候補天体の数(60数個)に比べて、まったく比較にならないくらい膨大な数である。
つまり、われわれの住む銀河系には、膨大な数の「暗い」恒星質量ブラックホールが潜んでいるということである。
これまでで最も地球に近いブラックホールが発見されたそうだ。
ぼうえんきょう座の方向約1000光年の距離にある恒星「HR 6819」は、5.3等級の比較的高温で青白い星だ。
1個の恒星に見えるが、実際には内側に恒星とブラックホールの連星があり、その外側を上記の青白い恒星が回っている三重連星系だったそうだ。
ブラックホールの質量が少なくとも太陽の4.2倍あるが、激しい活動性は見られず、まさに「真っ黒」だとのこと。
下図は三重連星系HR 6819のイラストだ。
内側にB3型の恒星(水色の軌跡)とブラックホール(赤い軌跡)との連星系があり、40日周期で互いの周りを回っている。
その外側をもう一つのBe型星が回っている(水色の大きな軌跡)。
画像はESOのサイトからお借りしました。 → こちら
アストロアーツのニュース記事がある。 → こちら
参考図書
・「ブラックホールで死んでみる」、ニール・ドグラース・タイソン、(訳)吉田三知世、早川書房、2006年
・「宇宙の果てを探る」、二間瀬敏史、洋泉社、2009年
・「宇宙は何でできているのか」、村山斉、幻冬舎新書、2010年
・「ブラックホールに近づいたらどうなるか?」、二間瀬敏史、さくら舎、2014年
・「時空のさざなみ」、ホヴァート・シリング、(訳)斉藤隆央、化学同人、2017年
・「宇宙の果てになにがあるのか」、戸谷友則、講談社ブルーバックス、2018年
・「宇宙はなぜブラックホールを造ったのか」、谷口義明、光文社新書、2019年
・「ブラックホールで死んでみる」、ニール・ドグラース・タイソン、(訳)吉田三知世、早川書房、2006年
・「宇宙の果てを探る」、二間瀬敏史、洋泉社、2009年
・「宇宙は何でできているのか」、村山斉、幻冬舎新書、2010年
・「ブラックホールに近づいたらどうなるか?」、二間瀬敏史、さくら舎、2014年
・「時空のさざなみ」、ホヴァート・シリング、(訳)斉藤隆央、化学同人、2017年
・「宇宙の果てになにがあるのか」、戸谷友則、講談社ブルーバックス、2018年
・「宇宙はなぜブラックホールを造ったのか」、谷口義明、光文社新書、2019年