2020.10.02 Friday
宇宙物理学 様々な波長の電磁波で見た天の川
***** 宇宙の構造 (3) 天の川銀河とその仲間 > 天の川銀河 *****
様々な波長の電磁波で見た全天の画像を紹介する。
どの波長で眺めても、天の川は明るく輝いている。
でもよく見ると、その姿は同じでない。
また波長によって、他では見えない構造が見えたりする。
つまり、天の川を理解するには、全ての波長領域で観測することが大切なのだ。
モルワイデ図法
地球表面を平面の地図に描き直すときに、いろいろな手法があることはご存じだろう。
そのひとつに「モルワイデ図法」と呼ばれるものがある。
全体がラグビーボールの断面のような形になっているのが特徴だ。
今日、紹介する天の川銀河の画像は、その手法で全天を表示したものだ。
地球地図と異なる点は、天の川銀河を内側から見ていることだ。
座標は銀河座標が使われる。
画像の中心は天の川銀河の中心になり、その中心を通る水平方向が銀河面(銀緯0度)になる。
参考までに、主な星座をプロットしたものを示す。
可視光
まずは可視光で見た天の川銀河だ。
当たり前だが、見慣れた姿をしている。
(c) 2000、Axel Mellinger
これは、Dr. Axel Mellinger によって16枚の広角写真から合成されたパノラマ画像だ。
私はこの人の写真星図を愛用している。 → 記事はこちら
35mmカメラとカラーネガフィルムを使って、アメリカ合衆国,南アフリカ,ドイツで撮影されている。
可視光で天の川を見ると、星間塵(ダスト)が邪魔をして遠くを見通すことができない。
だから、地球に届く光は、主に太陽から数千光年以内の星からのものだ。
拡がった明るく赤い領域は、ガス雲が輝いているところだ。
水素分子や赤外線の画像では放射領域として見えているガスや塵は、背後からの光を吸収してしまい、暗いまだらな領域として見えている。
星は色、質量、大きさ、明るさが個々に異なる。
しかし星間塵は青い光をよく散乱するので、星の光は本来の色より赤っぽくなっている。
また同時に、光の強度も減少している。
次からは、電波からガンマ線まで、電磁波の波長をだんだんと短くしていく。
電波 (波長=73cm、408MHz)
画像は CERN Courier のサイトからお借りしました。 → こちら
Credit : NASA Legacy Archive for Microwave Background Data Analysis.
この画像では、電波の強弱を色の変化で示していて、赤色は特に電波が強い領域だ。
この電波の大半は、星間磁場をほぼ光速で動く電子からの放射によるものだ。
シンクロトロン放射と呼ばれるメカニズムで連続光が放射されている。
超新星爆発で生じる衝撃波は電子をほぼ光速まで加速する。
そのため、そのような天体の付近で電波が強くなる。
左端から1/4ほどのところに赤い領域があるが、それは「カシオペアA」と呼ばれる超新星残骸だ。
また画像の中央付近で上側に大きなループ構造が見られる。
これは「ノースポーラースパー(north polar spur)」とか「ループI」と呼ばれている。
電波 (波長=21cm)
(イオン化していない)中性水素原子は、波長21cmの電波を輝線として放射する。
銀河の円盤部には、大きなものでは数百光年のサイズのガスと塵がある。
ガスの90%は中性水素原子なので、この電磁波(電波)では銀河の円盤がきれいに見える。
中性水素原子で見た銀河円盤は、その厚さがとても薄い。
そして、これを垂直方向から見ることができれば、きれいな渦巻き模様になっているはずだ。
なお、画像が赤いのは特に意味はないので、気にしないで欲しい。
遠赤外線
(c) IRAS
赤外線天文衛星(IRAS)によって、12um,60um,100umの波長帯域で撮影された中赤外線および遠赤外線の合成画像だ。
それぞれを、青,緑,赤に対応させて擬似カラー画像としてしている。
大部分は、星からの光で暖められた星間塵からの熱放射だ。
そのなかには、星間雲の中の星形成領域も含まれているはずだ。
全天図を作成する際には、太陽系の惑星間塵からの放出である「黄道帯放出」がモデル化され、除去されているとのこと。
それでも完全には減算できず、幅の広い横向きのS字型の曲線として見えている。
なお、黒い縞模様はデータが欠落している部分だ。
近赤外線
これは2MASS(Two Micron All Sky Survey)ミッションで作成された画像だ。
宇宙背景放射探査機(COBE)によって、1.25um,1.65um,2.17umの波長帯域で撮影された近赤外線の合成画像だ。
それぞれを、青,緑,赤に対応させて擬似カラー画像としてしている。
この波長帯の電磁波を放射するのは、銀河円盤とバルジにある、太陽より軽くて表面温度の低い星たちだ。
近赤外線は可視光に比べて星間塵(ダスト)による吸収や散乱の影響を受けにくいので、天の川の中の星の分布が可視光に比べてよく見える。
ただし、銀河中心方向では1.25μm帯で顕著な吸収が見られるという。
ここからは可視光よりも波長が短くてエネルギーの高い電磁波で観測したものだ。
これらは地球大気の外へ出ないと観測できないこともあって、まるで別世界のように思える。
X線 (0.1−2.0KeV)
ロシアとドイツの共同ミッションであるSRG(Spectrum Roentgen Gamma)衛星に搭載されたX線望遠鏡eROSITAによるX線強度の合成画像だ。
0.3−0.6KeV,0.6−1.0KeV,1.0−2.3KeV、を中心とする3つの軟X線波長域を、赤,緑,青に対応させて擬似カラー画像としてしている。
天の川銀河では、希薄な高温ガスからの軟X線が観測される。
星間物質は特にエネルギーの低いX線を強く吸収するので、星間ガスの冷たい星雲が背景のX線放射の影となって見えている。
色の変化は吸収または放射領域の温度の違いを示している。
銀河面では、エネルギーの高いX線のみが高密度のガスを通過できるため、青色で表示されている。
この画像にはX線源に名前が記載されているが、「Cluster」は銀河団で、「SNR」は超新星残骸のことだ。
それらのX線源は白く写っていて、全天に位置しているように見える。
点状のものの多くは、超大質量ブラックホールを活動源とする遠方の銀河だと思われる。
そして、画像の中央近くの上側に見える、大きな円弧状の構造が「ノースポーラースパー(north polar spur)」だ。
408MHzの電波画像でも見えていた。
これの正体に関しては、太陽系近隣の古い超新星残骸という説と、銀河中心から放出された巨大バブルという説があるようだ。
ガンマ線 (>1GeV)
画像はNASAのサイトからお借りしました。 → こちら
NASAのフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡による観測から構築されたガンマ線による全天画像だ。
10億電子ボルト(1GeV)を超えるエネルギーで、空がどのように見えるかを示している。
私たちの銀河の銀河面に沿って、つまり天の川に沿ってガンマ線の強度が高い。
エネルギーの高いガンマ線のほとんどは、宇宙線と星間雲の水素原子核との衝突で作られるからだ。
また個別のガンマ線源として、天の川銀河内のパルサーや超新星残骸、そして超大質量ブラックホールを活動源とする遠方の銀河がある。
画像では、かに星雲(超新星残骸)、ふたご座の方向に位置する「ゲミンガ・パルサー(ジェミンガ)」、ほ座パルサー、などが確認できる。
credit : NASA/DOE/Fermi LAT/D. Finkbeiner et al.
画像の中央付近に何か大きな構造があるように感じた物理学者は、いくつかの画像処理を施したり、輝点光源をマスクしたりしてみた。
すると、銀河中心から上下方向に50度ほども伸びている、巨大な泡状の構造が浮かび上がってきた。
この巨大な泡状の構造は「フェルミ・バブル」と名付けられ、その大きさは天の川銀河の直径の約半分にも及ぶという。
The MultiwavelengthMilky Way
NASAのサイトに「The MultiwavelengthMilky Way」というのがある。 → こちら
これの日本語版と思われるものもある。 → こちら
だが、画像が銀河面から狭い範囲の短冊状になっているのが、とても残念だ。
そこで、全天の画像を探し出してまとめてみた。
でも、幾つかの波長のものは見つからなかった。
参考図書
・「天の川が消える日」、谷口義明、日本評論社、2018年
・「天の川が消える日」、谷口義明、日本評論社、2018年