2020.10.03 Saturday
宇宙物理学 天の川銀河の構造 古い描像
***** 宇宙の構造 (3) 天の川銀河とその仲間 > 天の川銀河 *****
私たちの住む「天の川銀河」の構造に関して、数回に分けてざっと説明する。
まずは、古い描像に基づいた構造だ。
天の川銀河
天の川銀河は平均的な銀河よりも巨大で明るい。
構造的には円盤銀河あるいは渦巻き銀河と呼ばれている。
天の川銀河は簡単に言うと、2つの目玉焼きの裏側を張り合わせたような形をしている。
黄身の部分(中心の膨らんだ部分)は「バルジ」と呼ばれ、貼り合わせた白身の部分は「円盤(ディスク)」と呼ばれる。
そして全体がほぼ球形の「ハロー」と呼ばれる領域に包み込まれている。
バルジ
近赤外線で撮影された天の川の画像を見て頂きたい。
近赤外線はチリ粒子による散乱や吸収の影響を受けにくいので、天の川の円盤部にある暗黒星雲の影響が軽減される。
そのために、円盤が非常に美しく見えている。
そして、中央に見える少し膨らんだ構造が「バルジ」だ。
バルジはまさに”膨らんだ”という意味だ。
画像は天文学辞典のサイトからお借りしました。 → こちら
銀河中心部の星の分布は球状に膨らんでいて、その直径は1万3000光年ほどで、厚さは1万光年ほどだ。
バルジには約100億個の星があるが、主に年齢が100億年前後の古い星ばかりだ。
全体としては円盤部分と同じ方向に回転しているが、半分ほどの星はランダムな運動をしているそうだ。
バルジでは、中心に向かって星々はだんだんと密集していく。
奥のほうでは星々の間隔は太陽系付近の10分の1程度にもなる。
棒状構造
天の川銀河では、バルジの中心に棒状の構造がある。
渦巻き銀河の約半数は棒状構造を持つようだ。
他の銀河との衝突などで円盤が力学的に不安定になると棒状構造が形成されると言われているが、実際のところはまだよく分かっていない。
遠方の宇宙に行くほど、棒渦巻銀河の割合が減少することが知られている。
80億光年彼方(つまり80億年前)では、棒渦巻銀河の割合は渦巻銀河全体のたった2割しかない。
欧州宇宙機関(ESA)のガイア宇宙望遠鏡の観測により、天の川銀河の中心部にある棒状構造が明らかになった。
ガイアのサイト → こちら
ニュース記事 → こちら
画像は、ニュース記事のもので、ESAの公式YouTubeアカウントで公開されている動画より切り出したものだ。
これは、今回その位置が調べられた1億5000万個の恒星の分布を示したもので、黄色やオレンジの部分ほど星の密度が高い。
太陽系は放射状に広がって見える分布の中心部分で、ひときわ密度が高いところに位置する。
これは太陽系に近いほど観測しやすい恒星の数が多いためだ。
中央やや上のところに、恒星が棒のようにまとまっている部分がある。
これが天の川銀河の中心に存在する棒状の構造を示しているという。
円盤(ディスク)
円盤は直径が約10万光年で、大多数の星がある円盤は薄く、その周りには厚い円盤がある。
薄い円盤の厚さは1000光年ほどで、星は若く、また星間物質が大量に存在していて、現在でも新しい星が形成されている。
新しい星を生むために1年間に使われる物質の量は太陽質量の数倍程度で、これは年老いた星が寿命を終えて星間空間に戻す物質の量とほぼ釣り合っている。
厚い円盤の厚さは3000光年ほどで、この部分の星は100億年以上の古い星ばかりだという。
天の川銀河の円盤は、綺麗な渦巻き模様をしていると推測されている。
中心から外に向かって比較的きつく巻いた4本の「渦巻腕(渦状腕(かじょうわん))」が巻き出していて、生まれたばかりの若い高温の星によって明るく輝いて見える。
上の画像はNASAが作成した天の川銀河の姿だ。
そこに太陽を中心として半径が5000光年の円を黄色で書いてみた。
肉眼で見える恒星のほとんどは数千光年以内の距離にあると言われているので、肉眼ではこんなに狭い範囲の星しか見えていないのだ。
物質が集まって大きな構造になる場合、球状に集まるのではなく、平たい円盤状に集まることがある。
原始太陽系円盤もそうだし、ブラックホールの降着円盤もそうだ。
これには回転運動が重要な働きをしている。
渦巻銀河の円盤もそうなのだろう。
渦巻き模様
渦巻き構造は、観測する波長によってかなり違った形状に見えることが知られている。
可視光では渦状腕に沿って、若く青い星や電離した水素ガス、密度が高く星からの光を吸収して黒く見える暗黒星雲などが分布し、複雑な様相を示している。
しかし、より波長の長い近赤外線で観測すると、なめらかな渦巻き模様が浮かび上がる。
太陽質量程度以下の星は赤外線で明るく輝いていて、銀河円盤の質量の大部分はそのような星が占めているためである。
渦巻き模様は特定の星がつくる模様で、渦巻き模様を保ちながら回っていると思うかもしれないが、そうではない。
もしそうだとすると、渦巻き模様は数回転するうちにぎりぎりと巻き込まれてしまうだろう。
渦巻き模様は特定の星がつくる模様ではなくて、ある種の波(密度波)だと考えられている。
渦巻き模様のところは周囲よりわずかに密度が高く、そのためそこで星や星間ガスが遅くなり、流れが滞る。
高速道路の上り坂で車のスピードが遅くなり渋滞が起きるのと同じだ。
渦状腕でも次から次へと星や星間ガスがやってきては通過していく。
その際に、ガスが圧縮されて多数の星が生まれるため明るく輝き、かつ周りのガスを照らすので渦巻き模様が目立つのだ。
だから「星生成の波」を渦巻き模様として見ていると言うこともできる。
太陽の位置
太陽は、天の川銀河の中心から円盤の端までの距離の約3分の2ほどのところに位置している。
そして、2本の主要な渦状腕の間を結ぶ橋のような、オリオン腕あるいは単に局所腕と呼ばれる短い腕の中にある。
太陽は天の川銀河の中心のまわりを秒速約250キロメートルでほぼ円軌道を描いて回転しており、1周する周期は2.5億年より少し短い。
そして、太陽系の近くの恒星は銀河面に垂直な方向に振動しながら回っているという。
銀河中心からの距離によらず、どの星も太陽とほぼ同じ速度で天の川銀河を回っている。
これはとても不思議なことだ。
これはのちにダークマター(暗黒物質)の存在で説明されることになる。
太陽から最も近い星までの距離は約4.3光年で、そこから次の星まではさらに何光年も離れている。
銀河円盤内は星々で埋め尽くされているように思えるが、想像を絶するほど「すかすか」なのだ。
その「すかすか」の程度は太平洋にスイカが3個だけ浮かんでいるほどなので、星と星がぶつかることはまず起こらない。
内部ハロー
天の川銀河の円盤の直径は10万光年だが、それは円盤として認識されている大きさだ。
星の集団としての銀河本体の周りを取り囲むように広がっている構造を「内部ハロー」あるいは「恒星ハロー」と呼んでいる。
明瞭な境界線はないものの、天の川はその数倍の大きさまで広がっているのだ。
この球状の領域には、球状星団や古い星が存在している。
球状星団の説明は → こちら
球状星団は、ごく一部を除いて星の年齢は100億年前後と古い。
天の川銀河では160個ほど発見されているが、天の川に隠されて見えていない部分にもう50個程度あると考えられている。
球状星団は天の川銀河の中心の周りを回っているが、その間に星団の星は周囲からの重力によって剥ぎ取られて内部ハローにばら撒かれていく。
内部ハローには球状星団のほかにも数十億個の星があり、その年齢はいずれも100億年以上だ。
円盤部分の回転と逆向きの運動をしているものも多くあるそうだ。
希薄なガスも漂っていて、その多くは電離した高温のガスだ。
銀河の円盤では星がどんどん生まれては死んでいく。
そのときに起こる超新星爆発はかなりドラマチックな現象で、その爆風波は電離ガスをハローに噴き出す。
ハローはまさにそのようなガスの吹き溜まりになっているのだ。
これらに加えて、はぐれ星もある。
もともとは天の川銀河の円盤にあった星が、他の星と遭遇して重力的に弾き飛ばされることもあるからだ。
参考図書
・「銀河と宇宙」、ジョン・グリビン、(訳)村岡定矩、丸善出版、2008年
・「宇宙の果てを探る」、二間瀬敏史、洋泉社、2009年
・「ダークマターと恐竜絶滅」、リサ・ランドール、(訳)向山信治、NHK出版、2015年
・「銀河の中心に潜むもの」、岡朋治、慶応義塾大学出版会、2017年
・「天の川が消える日」、谷口義明、日本評論社、2018年
・「銀河と宇宙」、ジョン・グリビン、(訳)村岡定矩、丸善出版、2008年
・「宇宙の果てを探る」、二間瀬敏史、洋泉社、2009年
・「ダークマターと恐竜絶滅」、リサ・ランドール、(訳)向山信治、NHK出版、2015年
・「銀河の中心に潜むもの」、岡朋治、慶応義塾大学出版会、2017年
・「天の川が消える日」、谷口義明、日本評論社、2018年