2020.10.07 Wednesday
宇宙物理学 天の川銀河の特徴
***** 宇宙の構造 (3) 天の川銀河とその仲間 > 天の川銀河 *****
銀河中心の大質量ブラックホール
不規則型銀河や衛星銀河を除けば、すべての銀河は中心領域に大質量ブラックホールを持っている。
そのブラックホールの質量に関して、「マゴリアン関係」と呼ばれるものが知られている。
銀河の楕円体成分の質量と、その中心にあるブラックホールの質量に、相関があるというものだ。
銀河の楕円体成分とは、楕円銀河の場合は銀河全体で、渦巻銀河の場合はバルジと呼ばれる中心部の領域だ。
銀河によってその値にばらつきはあるが、平均的にみると大質量ブラックホールの質量は楕円体の質量の0.2%程度になっている。
画像は HUBBLE SPACE TELESCOPE のサイトからお借りしました。 → こちら
銀河とブラックホールはお互いに影響を及ぼし合って成長したと考えられている。
これを銀河とブラックホールの「共進化」と呼んでいる。
では、いったいどんな物理的なメカニズムがそれを支配しているのだろうか。
大まかなシナリオは出来てきたようだが、詳細はまだ分かっていないらしい。
天の川銀河はきわめて大きな渦巻銀河だ。
しかし、そのバルジは意外と小さく、中心にあるブラックホールも太陽質量の約400万倍と、銀河の大きさの割には小さい。
対照的に、お隣のアンドロメダ銀河はバルジがとても大きく、中心にあるブラックホールも太陽質量の1億倍以上と、とても大きい。
緑の谷(グリーンバレー)
銀河には赤色,黄色,青色、など様々な色の恒星がある。
そして青い恒星がふつうもっとも重い。
しかし一個の銀河からやってくる光をすべて足し合わせると、全体的な色は赤と青のカテゴリーに分類される。
赤い銀河は主に楕円銀河で、青い銀河は主に渦巻銀河である。
これら2つの色のグループのあいだに、過渡的とみなせる領域がある。
そこに属する銀河はおそらく、若く青い恒星が死んでしまって、もはやその代わりが生まれず、赤くなりつつある途中だと思われる。
天文学者は、この中間領域を「緑の谷(グリーンバレー)」と呼んでいる。
銀河中心にある大質量ブラックホールの活動はオン状態とオフ状態を繰り返している。
大量の物質を呑み込んだときはオン状態になって大暴れをし、そうでないときはオフ状態になって静かになるのだ。
このオン・オフの断続サイクルが最も速いのは、緑の谷に属する大きな渦巻銀河であることが分かってきた。
最近になって、私たちの天の川銀河は緑の谷に属するきわめて大きい銀河の一つであることが明らかになってきた。
これはまったくの驚きである。
天の川銀河中心の大質量ブラックホールは、あまり活発そうに見えないからだ。
しかし、それは単なるタイミングの問題で、最近は大人しいだけなのかもしれない。
最近見つかった「フェルミバブル」と呼ばれる巨大なガンマ線の泡構造は、過去に銀河中心部で起こった爆発的なガス放出により作られたものと考えられている。
その時期は記事等によって多少違いがあるが、1000万年前あたりらしい。
これはおそらくブラックホールの活動によるものだろう。
天の川銀河中心の大質量ブラックホールは、銀河の大きさの割には小さいが、やはりせわしなく活動しているようだ。
星生成率
銀河の星生成率(SER)は、1年間に形成される星の質量を、太陽の質量を基本単位として表す。
天の川銀河の円盤部では今も星が生まれている。
現在の星生成率は1年間に太陽質量の数個分だという。
これは多いのだろうか?少ないのだろうか?
今から80億年から100億年前、銀河での平均的な星形成率は現在のおよそ10倍だったという。
星はガスから生まれるので、過去の銀河にはもっと多くのガスがあったことになる。
銀河が形成されたときのガスが豊富にあっただろうし、銀河間空間からの新しいガスの降着も続いていただろう。
しかし、やがてガスの供給は減少し、一方でガスの消費は続くので、ガスの残量は減っていく。
また、宇宙の膨張が進むために、銀河同士の衝突合体が起こりにくくなっていく。
銀河同士の衝突合体は、激しい星生成を引き起こすのだ。
つまり、宇宙の活動のピークは今から80億年から100億年前だったのだ。
緑の谷に属するということからも、私たちの天の川銀河はもう若くはない。
でもこれは天の川銀河だけのことではなく、宇宙全体のことだ。
しかし、こんなふうに考えることもできる。
星が盛んに誕生するということは、星間空間にエネルギーの高い電磁波や宇宙線が飛び交うということだ。
そして末期を迎える星も多いだろうから、超新星爆発などもより頻繁に起こるということだ。
仮にある惑星で生命が誕生しても、それが知的生命にまで進化するには、数十億年という長い時間がかかる。
その間は、比較的穏やかな環境が必要なのだ。
銀河の活動のピークの頃は、とてもそんな環境ではなかっただろう。
これは、私たちはどうしてこの時代にいるのか?という疑問の答えでもある。
100億年ぐらいの単位で考えると、「今しかなかった」のだ。
少し極論すぎるかもしれないが、大きく間違っていることはないと思う。
天の川銀河の誕生と進化
天の川銀河はいつ頃生まれたのだろう?
いろいろな考えがあるだろうが、
巨大なガスの塊があって、そこに星が1個でもあれば、銀河と言ってもよい、
とするなら、銀河の誕生と星の誕生はイコールになる。
銀河の種ができたのは、宇宙が生まれてから数億年が経過した頃だと思われている。
これは天の川銀河でもアンドロメダ銀河でも同様だ。
しかし種はまさしく種であって、現在の銀河のような姿ではない。
その大きさは数百分の1から数千分の1程度しかなく、姿形も整っていない。
なにしろ、単なる巨大なガスの塊でしかないのだ。
画像はALMAのサイトからお借りしました。 → こちら
これは、132億光年かなたにある銀河A2744_YD4の想像図だ。
銀河の赤ちゃんと言ってもいいだろう。
アルマ望遠鏡が、この132億光年先の銀河に酸素と塵を見つけたそうだ
では、それがどのように成長してきたのだろう?
ガスの塊は、周囲にあるガスの塊と合体を繰り返して大きくなっていく。
合体が激しく起こっていたのは、宇宙の年齢が30億年ぐらいの頃までである。
これは多数の星々が生まれた時期でもある。
その後は宇宙膨張が進んでくるので、重力圏外にある銀河はどんどん離れていく。
そのため、衝突合体はだんだん起こりにくくなる。
この頃には、その姿はもう今とかなり似たものになっているだろう。
天の川銀河も、最近の数十億年は大きな銀河との衝突合体もなく、比較的穏やかに育ってきたことになる。
しかし、重力圏内に捉えられていた小さな銀河はこの間も銀河に呑み込まれる。
衝突合体というよりも、呑み込まれるという表現がぴったりだ。
それは今も続いている。
星流(ストリーム)のところで説明したように、「いて座矮小銀河」が今まさに呑み込まれつつあるのだ。
そして、クライマックスが数十億年後にやってくる。
天の川銀河はアンドロメダ銀河と40億年後に最初の衝突を経験する。
その際、M33もこの衝突に巻き込まれる。
最初の衝突で一挙に一つの銀河になるわけではない。
衝突を何度も繰り返し、巨大な楕円銀河になってしまうそうだ。
70億年後には、合体の痕跡もあらかた消えてしまうという。
参考図書
・「重力機械」、ケイレブ・シャーフ、(訳)水谷淳、早川書房、2012年
・「宇宙のはじまりの星はどこにあるのか」、谷口義明、メディアファクトリー新書、2013年
・「銀河 宇宙140憶光年のかなた」、ジェームズ・ギーチ、(訳)糸川洋、筑摩書房、2014年
・「巨大ブラックホールの謎」、本間希樹、講談社ブルーバックス、2017年
・「天の川が消える日」、谷口義明、日本評論社、2018年
・「宇宙はなぜブラックホールを造ったのか」、谷口義明、光文社新書、2019年
・「重力機械」、ケイレブ・シャーフ、(訳)水谷淳、早川書房、2012年
・「宇宙のはじまりの星はどこにあるのか」、谷口義明、メディアファクトリー新書、2013年
・「銀河 宇宙140憶光年のかなた」、ジェームズ・ギーチ、(訳)糸川洋、筑摩書房、2014年
・「巨大ブラックホールの謎」、本間希樹、講談社ブルーバックス、2017年
・「天の川が消える日」、谷口義明、日本評論社、2018年
・「宇宙はなぜブラックホールを造ったのか」、谷口義明、光文社新書、2019年