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2020.10.14 Wednesday

宇宙物理学  量子論 電子は波の性質を持っている?

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    ***** 基礎物理学 > 量子論 *****


    光は波でもあり粒子でもあるという。
    では粒子と思われていた電子は?



    ド・ブロイの物質波仮説

    ずっと波だと思われていた光が粒子の性質を併せ持つのなら、これまで粒子だと思われていた電子が、実は波動性を併せ持っていてもおかしくないのではないか。
    ド・ブロイは1924年に、「運動量p(=mv)をもつ粒子は、波長がh/pの波でもある」という電子波の論文を発表した。
    ここでhはプランク定数だ。


    この物質波仮説が発表されてまもなく、電子線を結晶に当てる実験によって、電子が干渉現象を起こすことがはっきりした。
    電子は本当に波だったのだ。



    電子の2重スリット実験

    日立の外村(とのむら)彰さんたちが行なった「1個の電子による2重スリット実験」は、世界で一番美しい実験と言われている。
    Physics World誌の読者による投票で2002年に「最も美しい実験」に選ばれたのだ。


    これは前回紹介した「Photonてらす(運営:浜松ホトニクス)」の実験の電子版である。

    実験の詳細は日立のサイトで公開されている。 → こちら
    ビデオ画像もあるので、是非見てほしい。


    電子は毎秒10個しか発射されないので、どの瞬間にも実験装置内には電子は1個だけしか存在しない。
    電子を打ち出すと、検出器(ヤングの実験でのスクリーンに相当)で電子が到達した場所が分かる。
    最初はランダムな場所に到達しているように見える。
    でも実験を重ねて多くの電子の到達場所を累積していくと、だんだんと縞模様が現れてくる。
    それはまさしく干渉縞で、電子が波の性格を有している証拠だ。

    これは非常に高度な技術を使った実験で、実に見事だ。
    しかし実験の鮮やかさとは裏腹に、光の場合と同じくこの結果を素直に受け入れることは難しい。
    なにしろ、「1個の電子が2つのスリットを同時に通過してそれ自身で干渉した」と解釈するしかないのだ。



    スリットでの通過を調べる装置を追加したら

    でも、本当に1個の電子が2つのスリットを同時に通過したのだろうか?
    それを確認するために、電子がどちらのスリットを通ったのかを調べられる装置を追加した実験が行われた。

    結果は、1個の電子が2つのスリットを同時に通過することはなかった。
    どちらか一方のスリットだけを通ったのだ。
    しかし、肝心の干渉縞は現われなくなってしまった。
    装置をスリットの向こう側に隠すように配置しても駄目だった。

    どんな手段で観測しようとも、観測は電子にちょっかいを出すことになる。
    つまりちょっかいを出すと、波としてのも性格が消えうせて粒としての性格だけになってしまうということらしい。



    ではこの波とはいったい何者なんだろう?

    では電子の波とはいったい何だろうか?
    それを知っている人は誰もいないという。
    なぜなら、それを直接観測することは絶対にできないからだ。
    電子をどんな方法でも観測したら、波は無くなって粒子として振舞うからだ。

    電子が波になっているときは、電子という実体が消え失せてしまうように思える。
    ただし、波にしか起こりようがない波独特の現象を、電子が実際に引き起こすことは事実である。

    でも、見ることも触ることもできない、そんな波の存在を信じられるだろうか?

    だが、電子の波は数式で表すことができる。
    数式でしか表せない、と言ったほうが正しいだろうか。
    電子の波はシュレーディンガーやディラックの波動方程式を解いて得られる。
    この数式で表された波には、観測後に現れるであろう電子のすべての物理状態を予言することが可能なだけの情報が含まれている。

    その波はいろいろな名前で呼ばれている。
       ・ド・ブロイ波
       ・物質波
       ・確率波



    マクロとミクロ

    その後、電子だけでなく、原子核の構成要素である陽子や中性子にも波動性があることが確かめられた。
    どうも、光や電子に限らず、この世界を構成するすべての”存在”は「量子」らしい。
    つまり、1個2個と数えられる粒子であると同時に波動性を併せ持っているのだ。

    でも私たちの身のまわりの物体は、波の性質なんて持っていない。
    でもひょっとして見えていないだけなのかもしれない?


    そこで「ド・ブロイの関係式」を使って、波として振舞うときの波長を計算してみよう。
    注意すべきことは、波として振舞うときの波長は、物体の大きさではなくて質量に左右されるということだ。
    λ=h/(mv)  hはプランク定数、vは粒子の速度、mvは運動量

    電子を電界で加速させる場合を考える。
    (mv2)/2=eV → v=√(2eV/m)
    mは電子の質量、vは加速された速度、eは電子の電荷、Vは加速電圧
    電子の波長は加速電圧に依存し、例えば以下の値になる。
      電圧100Vでは、λ=1.23×10-10m
      電圧10000Vでは、λ=1.23×10-11m
    100Vで加速した電子は、原子の大きさ(およそ10-10m)と同程度の波長を持っていることになる。

    身のまわりの物体の代表として、野球のボール(直径〜74mm、重さ〜145g)を考える。
    波長はボールのスピードに依存し、例えば以下の値になる。
      スピードが時速100kmの場合、λ=1.65×10-34m
    これは驚くほど小さな値だ。

    これで、波の性格を観測することができるのは、ミクロな粒子、具体的には原子もしくはそれよりも小さな粒子だけなことが分かる。


    しかし、マクロな物体は原子というミクロな粒子からできているわけだから、単に全体の大きさだけで話をしていいのだろうか?
    確かに構成要素のそれぞれは波の性質を持っている。
    だが、それらはたえず振動していて、互いにぶつかり合っている。
    そのため、それぞれの構成要素の波は、形が崩れていたり、位相がずれたりしている。
    結果として、物体全体として見たときには波が消えてしまうそうだ。



    参考図書
      ・「宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体」、ブライアン・グリーン、(訳)青木薫、草思社、2004年
      ・「量子力学はミステリー」、山田克哉、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年











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