2020.10.24 Saturday
宇宙物理学 量子論が考える真空とは
***** 基礎物理学 > 量子論 *****
宇宙論において、量子論から導かれる真空はとても重要な描像だ。
キーワードは、以下の2点だと思う。
・粒子・反粒子の発生・消滅
・真空エネルギー
真空は単に何も存在しない空っぽの空間?
ある空間から、空気などの分子も含めてすべてのモノを取り除いた状態を「真空」と呼ぶ。
ULVACの記事が分かりやすい。 → こちら
古典物理学の世界では、これで間違いはない。
この絵は「マクデブルグの半球」と呼ばれているものだ。
画像はWikipediaよりお借りしました。
17世紀にドイツのゲーリケが行なった実験で、青銅製の半球をふたつ合せて、自ら発明した真空ポンプで空気を抜いて真空を作った。
球は大気圧のために密着し、16頭の馬を使っても引き離すことができなかったそうだ。
場という考え
???正直、私はこの場というのが理解できていない。
現代物理学の多くの領域に枠組みを与えているのが「場」という考え方だ。
物質の場、力の場、そしてヒッグス場、と様々な場がある。
場は、温度変化に対して普通の物質とほぼ同じように反応し、温度が高くなると場の値は激しく上下する。
絵は国際リニアコライダー計画のサイトからお借りしました。 → こちら
「場の量子論」では、点状の「粒子」よりも、空間に広がっている「場」のほうがより基本的である。
仮に粒子がひとつも見当たらなくても、場は空間に広がっている。
そして、場のエネルギーが高くなると、ぴょこんと粒子が現れる。
粒子がいなくなれば場のエネルギーは小さくなるが、粒子がひとつも見当たらなかったとしても、場が消えるわけではない。
量子論が考える真空とは
それそれの場に対応する粒子(モノ)を取り除いて、さらに温度を絶対零度まで下げたら、場のエネルギーはゼロになるだろうか?
もしそうなら、それは古典物理学が考える真空と同じで、動きが全くなく静まり返った世界だ。
しかし、量子力学の不確定性によると、ミクロな世界はざわざわと落ち着きのない世界にならざるを得ない。
場のエネルギーは常に揺らいでいて、ゼロにはならないのだ。
そこで現代物理学では、場のエネルギーをどんどん低くしていって、それ以上低くならないというところまでもっていったのが「真空」なのだとした。
場は常に揺らいでいて、いたるところでミクロの粒子と反粒子のペアが生まれたり消えたりしている。
これはエネルギーと時間に関する不確定性原理のために起きる現象だ。
→ こちらを参照して下さい
下の図は2次元的なエネルギーの海を表したものだが、温泉地獄のように煮えたぎっているように感じられる。
これが現代物理学による真空の描像なのだ。
なお、これを「量子真空」と呼ぶ場合があるようだ。
真空のエネルギー
場は様々な値を取ることができ、その値に応じて空間はエネルギーを持つことになる。
物理学者が真空と呼ぶのは、それぞれの場のエネルギーが最小になって、宇宙が最低エネルギー状態に落ち着いた状態だ。
アインシュタインの一般相対性理論によれば、エネルギーは質量と同じように空間を曲げる。
そのため、われわれの宇宙の空間の様子から、真空のエネルギーはこれより大きいはずはないという値を見積もることができる。
しかし現在の理論的枠組みで真空のエネルギーの値を見積もったところ、それよりもなんと約120桁も大きかったのだ。
これはすごく困ったことだ。
これでは宇宙は誕生するとすぐに急激な膨張を始めてしまい、銀河などはつくられなかっただろう。
当然、人間も生まれてこない。
そのため、理論物理学者たちは、自然界には何かまだ我々の知らないメカニズムがあって真空のエネルギー値をゼロにしているのだろうと考えた。
でも、今のところそんなメカニズムは見つかっていない。
一方で宇宙論学者たちは、現実の宇宙で真空のエネルギー値がどうしてこんなに小さいのかを考えている。
その成果は、次のようなものに繋がっていく。
・ダークエネルギー
・人間原理
・多宇宙
参考図書
・「宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体」、ブライアン・グリーン、(訳)青木薫、草思社、2004年
・「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」、青木薫、講談社現在新書、2013年
・「マルチバース宇宙論入門」、野村泰紀、星海社新書、2017年
・「宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体」、ブライアン・グリーン、(訳)青木薫、草思社、2004年
・「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」、青木薫、講談社現在新書、2013年
・「マルチバース宇宙論入門」、野村泰紀、星海社新書、2017年