星空が好き、猫も好き

星空がきれいな晩はどこかへ出かけたいなあ

<< August 2013 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

2013.08.31 Saturday

宇宙物理学  多世界解釈

0


    量子力学においてこの自然界をどのような枠組みで捉えるべきなのかという議論を、量子力学の解釈問題といいます。
    代表的なものに「コペンハーゲン解釈」と「多世界解釈」があるようです。
    今日は「多世界解釈」をお話しします。
      「コペンハーゲン解釈」は → こちらの記事

    多世界解釈を主張する人たちは、コペンハーゲン解釈における「波の収縮」が納得できないようです。
    なぜ収縮するのか?
    観測されなかった部分はどこへいってしまうのだろうか?


    多世界解釈は多くのバージョンがあるようで、人によって説明が微妙に異なります。
    私は(あまり自信がないのですが)ざっくりと以下のように捉えました。
      ・シュレディンガー方程式だけを量子力学の前提として、波の収縮という考え方を排除します。
      ・観測装置もそれを見ている人間も全てセットとして量子力学の対象として考えます。
         (一元論の立場)
      ・世界は一つではなく無数の世界が共存し、量子力学での可能性は全て実現されています。
         (並行世界)
      ・共存している世界の中には、互いに影響しあうものも、影響しあわないものもあります。
      ・もちろん、それぞれの世界にあなたがいます。
      ・共存している世界のうちで、あなたがどの世界を認識しているかは、偶然(サイコロ)で決まります。
      ・あなたが認識している世界以外の世界を認識したり、連絡を取り合ったりすることはできません。
      ・共存している世界の間では、ミクロの量子は互いに影響を及ぼし合っています。
      ・観測等を行うと、共存する複数の世界は無関係な世界に分岐していきます。
         (デコヒーレンス)

    並行世界
    ここで言っている並行世界は、最近の宇宙論で議論されている「マルチバース」とは異なります。
    共存している世界と並行世界は同意語のようです。


    シュレーディンガーの猫で説明してみましょう。
    この場合は「世界が二つに枝分かれしている」というのです。
    一つは「放射性物質が原子核崩壊を起こした世界」で、もう一つは「放射性物質が原子核崩壊を起こしていない世界」です。
    そして、箱の中にいる猫も二つの世界に枝分かれしていて、前者の世界にいる猫はすでに死んでいますが、後者の世界にいる猫はちゃんと生きています。
    さらに箱の外にいる私たちも、それぞれの世界に枝分かれして存在しているのです。
    枝分かれした世界どうしは互いの交渉が絶たれて物理的に孤立し、別の世界を訪問したり、互いに連絡を取り合ったりすることが不可能になります。
    だからもう一つの世界の存在を証明できないのです。(ちょっと困ってしまいますね。)

    電子の二重スリットの実験を考えてみましょう。
    1つの電子が同時に両方のスリットを通り抜けて、自分自身と干渉することを想像する必要はなくなります。
    その代わりに、一方のスリットを通過したある電子が、他方のスリットを通過したもうひとつの電子と干渉を起こします。
    他方の電子とは、もちろん隣接世界の電子です。


    もともとの考えは、プリンストン大学の大学院生であったヒュー・エヴェレット3世によって1957年に提案されたものです。
    宇宙全体のことを量子力学で考えたらどうなるだろうかという問題意識からでてきた考え方のようです。
    原子一つ一つのみならず、それから構成される物質,人間,天体,そして宇宙全体も同じ原理で説明されるべきものだと考えたのです。
    その後、ブライス・デウィットさんが世界の分岐の概念を付加して、多世界解釈と名付けました。

    さて、この多世界解釈は物理学者の間でどのように受け止められているのでしょう。
    参考図書のなかに、ある国際学会で行われた非公式の投票結果が載っていました。
    本が書かれたのが2004年なので、それより前の状況ですね。
      ・コペンハーゲン解釈 4人
      ・未発見の収縮メカニズム 4人
      ・ガイド波解釈 2人
      ・多世界解釈 30人
      ・態度未定,いずれにも同意できない 50人


    私は最初「何だこの考えは!」と感じましたが、何度も読み直しているうちに違和感が少なくなってきました。
    まだ受け入れがたい部分はありますが、こんな考えがあってもいいかなと思っています



    参考図書
      ・量子論で宇宙がわかる (マーカス・チャウン(訳:林一さん)、集英社新書、2011年12月発行)
      ・相対性理論から100年でわかったこと
         (佐藤勝彦さん、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年10月発行)
      ・量子力学はミステリー (山田克哉さん、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年9月発行)
      ・宇宙の未解明問題
         (リチャード・ハモンドさん(訳:大貫昌子さん)、ブルーバックス、2010年6月発行)
      ・量子力学の解釈問題
         (コリン・ブルースさん(訳:和田純夫さん)、ブルーバックス、2008年5月発行)
      ・量子力学が語る世界像 (和田純夫さん、ブルーバックス、1994年4月発行)










    2013.08.30 Friday

    宇宙物理学  シュレディンガーの猫

    0


      「シュレーディンガーの猫」は量子力学の「コペンハーゲン解釈」を批判するために、
      シュレーディンガーさんが投げかけた思考実験です。



      まず、蓋のある箱を用意して、この中に猫を一匹入れます。
      箱の中には猫の他に、放射性物質のラジウムを一定量とガイガーカウンターを1台と青酸ガスの発生装置を1台入れておきます。
      もし箱の中にあるラジウムが原子核崩壊してアルファ粒子を出すと、これをガイガーカウンターが感知してその先についた青酸ガスの発生装置が作動し、青酸ガスを吸った猫は死んでしまいます。
      しかしラジウムからアルファ粒子が出なければ、青酸ガスの発生装置は作動せずに猫は生き残ります。
      一定時間経過後、果たして猫は生きているのでしょうか、死んでいるのでしょうか。

      例えば箱に入れたラジウムが1時間以内に原子核崩壊してアルファ粒子が放出される確率は50%だとしましょう。
      この箱の蓋を閉めてから1時間後に蓋を開けて観測したとき、猫が生きている確率は50%、死んでいる確率も50%です。

      「観測されるまでは何も決まっていない」という主張によれば「箱が開けられるまでは猫は生死が明確にはない」ということになります。
      そして「生きている状態と死んでいる状態が1:1で重なりあっている」と解釈しなければならなくなります。

      また、蓋を開けて観測した途端に放射性物質の状態を表す波は収縮して原子核崩壊の有無が決まります。
      では猫の生死も私たちが観測した途端に決まるのでしょうか?

      シュレーディンガーさんは、量子力学の確率解釈を容易な方法で巨視的な実験系にすることができることを示し、そこから得られる結論の異常さを示して批判したのです。


      この「シュレーディンガーの猫」という難問に対して、実は量子論は完全な回答を与えることができていないのです。

      「コペンハーゲン解釈」の人々は、おおよそ次のように答えるでしょう。

      一匹の猫は無数のミクロの物質が集まったものであり、無数の状態が組み合わさっています。
      このような対象に量子論を単純に適用して、重ね合わせや波の収縮などを論ずることはできないのです。

      このようなマクロな存在は外部からの影響を常に受けているので、量子力学の特性は壊れてしまいます。
      だから重ね合わせ状態も見られないのです。

      だが、それは本当なのでしょうか?
      外部の影響を受けない状態であれば、マクロなものでも重ね合わせ状態をつくることができるのではないでしょうか。


      上記の疑問を「量子光学」という手法で検証した人がいます。
      「量子テレポーテーション」等で有名な古澤明さんです。


      マクロな存在としてレーザー光線を考えて、位相が反転した2つの状態の重ね合わせを実現したそうです。
      本来、古典的な波動では位相反転したものは打消し合ってしまい、同時に存在することは許されません。
      でもレーザー光線では重ね合わせ状態が実現し、異なる2つの状態が同時に存在することが許されることがわかったそうです。



      参考図書
        ・シュレディンガーの猫のパラドックスが解けた (古澤明さん、ブルーバックス、2012年9月発行)
        ・量子論で宇宙がわかる (マーカス・チャウン(訳:林一さん)、集英社新書、2011年12月発行)
        ・量子もつれとは何か (古澤明さん、ブルーバックス、2011年2月発行)
        ・相対性理論から100年でわかったこと
           (佐藤勝彦さん、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年10月発行)
        ・量子力学はミステリー (山田克哉さん、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年9月発行)
        ・宇宙の未解明問題
           (リチャード・ハモンドさん(訳:大貫昌子さん)、ブルーバックス、2010年6月発行)










      2013.08.29 Thursday

      宇宙物理学  量子テレポーテーション

      0


        通常の(古典的な)情報伝達手段と量子もつれの効果を利用して、離れた場所に量子状態を転送することを「量子テレポーテーション」と呼びます。
        テレポーテーションという名前がついていますが、量子が空間の別の場所に瞬間移動するわけではありません。
        量子もつれの関係にある2つの量子のうち、一方の状態を観測すると瞬時にもう一方の状態が確定することから、このような名前が付きました。
        なお、このテレポーテーションによって物質や情報を光速を超えて移動させることはできません。

        量子テレポーテーションの考え方が論じられ始めたのは1980年代と比較的最近です。
        ウィリアム・ウーターズとブォイチェフ・ズレックが、量子的粒子は決してコピーできないという論文を発表したのがきっかけだったそうです。
        そして1993年に、チャールズ・ベネットらがテレポーテーションのアイデアとして、量子状態を観測しなければ量子テレポーテーションか可能だと指摘したのです。
        実はこれを可能にした秘密が「量子もつれ」でした。


        なお慣例でA,B,(C)などの頭文字をとって、送信者をアリス、受信者をボブ(さらに第三者がいる場合はクレア)などと呼ぶそうです。


        ニコンのHPに解説記事がありました。 → こちら
           日本での第一人者である古澤明さんが、ニコンにいたからのようですね。
           なお記事の当時は助教授ですが、現在は教授です。

        また、東京大学工学部のHPに古澤明さんの最新成果のニュースが載っています。 → こちら


        この技術が発展していくと、スタートレックの転送装置のようなものが実現するのですかね?
        ただし、人間を構成している全ての量子情報は、それこそ天文学的なデータ量になるそうです。




        参考図書
          ・量子論で宇宙がわかる (マーカス・チャウン(訳:林一さん)、集英社新書、2011年12月発行)
          ・量子もつれとは何か (古澤明さん、ブルーバックス、2011年2月発行)










        2013.08.28 Wednesday

        宇宙物理学  量子もつれ

        0


          2つの量子の「波動関数」がもつれた状態にあるときに、量子状態を保ったまま2つの量子を離していくと、「もつれ」がそのまま続いていくそうです。
          そして、この状態を構成する量子のうち、ある1つについての情報が測定によって確定すると、それに伴って別の粒子についての情報も確定します。


          原子核が分裂して、2つの原子核AとBに分かれて反対方向に飛び出したとします。
          もちろん、飛び出したときの原子核AとBの運動状態については何も分かっていません。
          ただし、両方を合わせた物理量は決まっています(分かっています)。
          なぜなら、もともと1つの原子核だったからです。
          例えば、分裂前に静止していたとすると、運動量保存の法則から両者の運動量の和はどんなときでもゼロです。
          このような状況で原子核Aの運動量を測定すれば、原子核Bの運動量は計算できます。
          さらにその測定後に、原子核Bの位置を測定すれば、原子核Bの位置と運動量の両方が分かったことになってしまいます。
          これは不確定性原理に反しないでしょうか?

          2つの量子間のこの関係は「量子エンタングルメント(量子もつれ)」と呼ばれます。
          これは2つの粒子だけでなく、多くの粒子の間でも生じるそうです。

          この影響は光より速く瞬時に伝わるように見えるので、特殊相対論に矛盾するように思えます。
          この不思議な事実を最初に指摘したのは、アインシュタイン,ポドルスキー,ローゼンで、3人の頭文字を取って「EPRのパラドックス」と呼ばれています。
          アインシュタインはこれを「spooky action at a distance(不気味な遠隔作用)」と呼んで、このために量子力学のコペンハーゲン解釈は間違っていると考えました。


          このような効果は、実際に実験室で検証されています。
          そして光より速く情報を伝えることはできないことがわかり、特殊相対論とは矛盾しません。

          それどころか、この現象は最近注目されている「量子コンピュータ」の基本概念でもあるのです。
          1つの量子に対しては、不確定性原理によって共役な物理量は1つしか決められません。
          でもエンタングルしたN個の量子においては、複数の量子にまたがった物理量が同時にN個決められるそうです。


          KEKニュース : 量子もつれ(2007.03.08) → こちら

          2011年に、慶應義塾大学がシリコン半導体中で量子コンピュータに不可欠なエンタングルメントに成功したというニュースがありました。
            → こちら



          参考図書
            ・量子論で宇宙がわかる (マーカス・チャウン(訳:林一さん)、集英社新書、2011年12月発行)
            ・量子もつれとは何か (古澤明さん、ブルーバックス、2011年2月発行)










          2013.08.27 Tuesday

          宇宙物理学  コペンハーゲン解釈

          0


            ミクロの量子の奇怪な振る舞いに対して、量子力学をどのように解釈して使っていくかの代表的な考え方のひとつが「コペンハーゲン解釈」です。
            この名称は、デンマークの首都コペンハーゲンにあるボーア研究所から発信されたことに由来しています。

            コペンハーゲン解釈の内容に関しては一般的な合意はないようですが、確率解釈と波の収縮が基本的な考え方のようです。
              ・観測前には状態は波動関数に従った空間的広がりがある。(状態の重ね合わせとも言います。)
              ・観測すると状態は可能性のある一点に収縮する。(これを波の収縮(状態の収縮)と言います。)
              ・どの可能性に収縮するかはわからず、波動関数が示す確率に従う。


            第1のキーワードが「状態の重ね合わせ」です。

            シュレディンガー方程式は量子力学の基本法則となった革命的な理論で、「波」という概念が中心的な役割をします。
            でも、この波とはいったい何なのでしょう?
            シュレディンガーさんは、波を表す抽象的な数式を使った新しい計算手段を提案しただけで、この波がどのような物理的な実体をもつのかという疑問には答えていません。

            そして量子力学では、観測する前は量子の状態は何一つ決まっていないのだと言うのです。
            観測する前は全ての可能性が混じり合っていて、それらの状態が重なり合っているのです。
            だから量子の位置でいうと、1つの量子がここにもそこにもあそこにもいると言うのです。
            この状態が「波」なのだそうです。


            第2のキーワードが「波の収縮(状態の収縮)」です。

            しかし観測すると、状態の重ね合わせは消滅して、可能性のうちの1つだけが現れます。
            まるで広がっていた波が、観測した途端にある場所に集中したかのように思えます。
            そして波であると計算していたものが、突然に粒子のように振る舞います。
            このことを「波の収縮」と呼びます。





            第3のキーワードが「確率」です。

            シュレディンガー方程式の波に関して、ボルンさんは観測を行ったときに量子がある点に発見される確率は波の高さの2乗に比例するという考えを提唱しました。
            これがボルンの確率解釈ですが、これによってシュレディンガーの波動方程式は現実の様々な問題に適用できるようになりました。

            しかし観測して波の収縮が起こっても、どの可能性が出現するかは現れてみないと分かりません。
            だから、決定論ではなくてサイコロが決める確率論の世界なのです。


            コペンハーゲン解釈では、波が収束する原因は追究しません。
            しかし、この解釈を支持する全ての物理学者が追究を諦めたわけではなく、実際には多くの物理学者が原因をつきとめようと努力しているそうです。


            また「観測」ということがとても微妙なニュアンスをもってきます。
            例えば、電子の位置を調べようと光を当てたとします。
            光が跳ね返って、光検出器に電流が流れて、その信号を増幅して、演算処理して、表示して、それを人間が見て、、、。
            波の収縮が起こるのは、どのタイミングなのでしょう?
            また、人間のような意識を持つ観測者が必要なのでしょうか?
            チンパンジーや猫ではどうなるのでしょうか?
            このあたりがコペンハーゲン解釈のアキレス腱であり、多くの人に不満足に思われてしまう理由であるようです。

            しかしながら、多くの教科書がコペンハーゲン解釈を量子力学の標準的な(あるいは主流の)の解釈であると記しているようです。



            参考図書
              ・相対性理論から100年でわかったこと
                 (佐藤勝彦さん、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年10月発行)
              ・量子力学はミステリー (山田克哉さん、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年9月発行)
              ・量子力学の解釈問題 (コリン・ブルースさん(訳:和田純夫さん)、ブルーバックス、2008年5月発行)










            2013.08.26 Monday

            宇宙物理学  量子力学はミステリアス

            0


              量子力学は1920年代に構築されて以来、物理の基本法則として大きな成功を収めてきました。
              でも「量子力学は実験結果を定量的に予言するという意味では非常に正確だ」という妙な言い方をされています。
              この「予言する」とは一体どういうことでしょう?


              箱の真ん中に電子を一つそっと置いて蓋を閉じたとします。
              10分後に電子はどこにいるでしょうか?

              電子ではなくて野球のボールならば、答えは簡単ですよね。
              置いたところにじっとしているはずで、わざわざ式を使って計算する必要もありませんよね。

              でも、ミクロの世界は違うのですよね。
              量子力学によると、箱の中であちこちにいると言うのですよね。
              一つの電子がですよ!
              難しい式を計算してもどこにいるかは断定できなくて、どこにいる確率がどのくらいということしかわからないそうです。

              蓋を開けて調べてみると、電子はどこかに見つかります。
              でも最初にそっと置いた場所とは限りません。
              同じことを繰り返してみると、今度は別の場所に見つかります。
              何回も何回もやってみると、量子力学が教えてくれた確率に従って見つかることが分かります。
              これが予言という意味だったのです。

              そして箱を開けて中を見るまでは、箱の中で一つの電子が「ここにいるともいえるが、あそこにいるともいえる」と言うじゃないですか?
              えっ、どういうこと?
              私は、箱を開けて見るまではどこにいるか分からないだけだと思っていました。
              でもそうじゃないようです。
              私の解釈の方法だと、外村さんの電子の二重スリット実験を説明できないのですよね。
              「ここだけにいる状態」と「あそこだけにいる状態」とが、一つの電子のなかで重なっていると言うのです。
              でも、このような波の状態は決して見ることができないそうです。
              観測した途端に波は消えてしまって、代わりに小さな粒としてのミクロの物質が現れるからだそうです。

              イメージが湧きますか?


              このように、量子力学の世界はとてもミステリアスです。
              奇怪と言ったほうがいいかもしれません。
              その奇怪さ(奇妙さ、異質さ)の原因は次の2点でしょうか。
                ・ミクロの量子の正体は波である。(あるいは、粒でもあり波でもある。)
                ・ミクロの量子の未来はサイコロが決める。(未来は確率的に決まる。)

              やはり量子力学の全てを直感的に理解するのはそもそも不可能なのでしょうかね?
              量子力学の創設者たちですら困惑したようで、アインシュタインさんは量子力学に決して満足することなくこの世を去ったそうです。
              そして未だに、どのように解釈すればいいのかコンセンサスができていない状況が続いているそうです。

              これらは「量子力学の解釈問題」あるいは「量子力学の観測問題」と呼ばれています。
              代表的なものに「コペンハーゲン解釈」と「多世界解釈」があるようです。

              ただしどちらが正しいのか決着をつけるための実験的手段がないので、次第に物理学の研究対象としてあまり顧みられなくなっているとも言われます。
              量子力学は実用的に使うものであり、その意味を考えてはいけない、と言う人もいるようです。


              でも私はちょっと興味があったので、何冊か本を読んでみました。
              すると、私が全く知らなかったことがいろいろとあることを知りました。

              今日はとりあえずキーワードを列挙しておきます。
                ・波の収縮(状態の収縮)
                ・コペンハーゲン解釈
                ・多世界解釈
                ・シュレディンガーの猫
                ・量子エンタングルメント
                ・EPRパラドックス
                ・量子テレポーテーション



              参考図書
                ・村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?
                   (村山斉さん,高橋真理子さん、朝日新書、2013年4月発行)
                ・シュレディンガーの猫のパラドックスが解けた (古澤明さん、ブルーバックス、2012年9月発行)
                ・量子論で宇宙がわかる (マーカス・チャウン(訳:林一さん)、集英社新書、2011年12月発行)
                ・宇宙は本当にひとつなのか (村山斉さん、ブルーバックス、2011年7月発行)
                ・量子もつれとは何か (古澤明さん、ブルーバックス、2011年2月発行)
                ・相対性理論から100年でわかったこと
                   (佐藤勝彦さん、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年10月発行)
                ・量子力学はミステリー (山田克哉さん、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年9月発行)
                ・宇宙の未解明問題
                   (リチャード・ハモンドさん(訳:大貫昌子さん)、ブルーバックス、2010年6月発行)
                ・量子力学の解釈問題 (コリン・ブルースさん(訳:和田純夫さん)、ブルーバックス、2008年5月発行)
                ・量子力学が語る世界像 (和田純夫さん、ブルーバックス、1994年4月発行)










              2013.08.25 Sunday

              宇宙物理学  消えた反物質 (2)

              0



                [消えた反物質(小林誠さん、ブルーバックス、1997年6月発行)]

                CP対称性の破れに関連したテーマでノーベル物理学賞を受賞された小林誠さんが、そのものずばりの題名で本を書かれています。
                ただしもう15年も前に書かれたものなので、最新の理論とは食い違っていることろがあるかもしれません。
                でも順序だって丁寧に書かれているので、ぜひ読まれることをお勧めします

                正直言って素人の私にはレベルが高すぎるので、キーワードとなる文章を少し抜き書きすることでお茶を濁すことにします。



                宇宙進化の途中で粒子のほうが多くなったということは、何らかの過程において粒子と反粒子でその反応に違いがあったということです。
                すなわち粒子と反粒子は対等ではなかったことを意味し、このためにはCP対称性が破れていることが必要です。

                CP対称性の破れは、僅か一例ですが、すでに素粒子現象の中で見つかっています。
                もちろん、その現象が直接的に宇宙の物質優位の問題を解決してくれるわけではありません。

                CP対称性の破れは弱い相互作用、特にその中でもW粒子と呼ばれるゲージ粒子を交換する過程で生じます。
                W粒子は陽子の約85倍もの質量があり電荷をもっている粒子です。

                W+粒子を放出あるいはW-粒子を吸収して、u型クォークはd型クォークのどれにも変わることができます。
                逆にW-粒子を放出あるいはW+粒子を吸収して、d型クォークはu型クォークのどれにも変わることができます。
                全ての組み合わせの反応が起こりえますが、その強さはそれぞれ異なります。
                反応の強さ、すなわちその反応がどのくらい起きやすいかを表すのが結合定数と呼ばれるものです。


                u←→b,t←→dの結合定数は複素数になっていますが、一般に実数でないときはCP対称性が破れる可能性があるそうです。
                このあたりの説明は非常に難しいらしいです。
                クォークが3世代以上ないと、この虚数成分が現れてこないそうですが、これがノーベル賞を受賞した小林・益川理論ですね。
                ほんのちょっぴりですが分かったような気がしてきました。

                宇宙になぜ反物質がないかという問題は、その原因がCP対称性の破れにあるというのは決して夢物語ではありません。
                しかしそれが具体的にどの段階で、どんな反応で起きたのかという点はまだよくわかっていません。
                我々にとって未知の素粒子が存在し、それらの間に未知の相互作用があり、そこでCP対称性が破れているのかもしれません。

                CP対称性が破れた現象は、現在までのところ中性K中間子の崩壊以外では発見されていません。
                CP対称性の破れとは、粒子と反粒子が対等でないという原理的に極めて重大な問題なのです。
                しかしそれがたった一つの現象でしか確かめられていないというのは異常な事態といっても過言ではありません。

                そこでもっと積極的に標準模型から予言されるCP対称性の破れを検証するために多くの実験が計画されています。
                その中で最も注目されているのがB中間子の崩壊現象です。
                B中間子とはbクォークを含んだ中間子のことですが、bクォークは第3世代のクォークです。
                標準模型によるCP対称性の破れが正しければ、CP対称性の破れには第3世代の存在が深く関わっているのです。
                Bファクトリーと呼ばれるB中間子を大量につくるように特別に設計された加速器が建設中であり、そこでの成果が期待されています。


                強い力,弱い力,電磁気力を統一しようとする大統一理論によると、反クォークがレプトン(電子やニュートリノの仲間)に変わったりその逆が起こる可能性があります。
                これはバリオン数が保存されなくなることを意味します。
                この理論の登場で、陽子崩壊を検出しようとする大規模な実験が始まりました。
                その代表例がカミオカンデです。
                同種の実験は世界の数ヵ所で行われましたが、これまでのところ陽子の崩壊は確認されていません。

                大統一理論ではバリオン数を変えるような相互作用を媒介するゲージ粒子が存在します。
                一般に大統一理論の具体的な模型を考えると、ゲージ粒子の他にも同じようにバリオン数非保存の相互作用を媒介する粒子が現れます。
                それらのうちで、どれが宇宙のバリオン数生成に最も寄与するかは模型の詳細によります。

                その粒子は大統一のエネルギースケールの質量(例えば1015GeV/c2)をもつはずです。
                この粒子と反粒子の分布は、宇宙の急激な膨張によって熱平衡からはずれて過剰に存在する状態がつくられることが重要です。
                サハロフの第三条件である非平衡の条件ですね。

                しかし単純な大統一理論に基づいたシナリオでは、現実の宇宙の進化を説明するにはいろいろな不都合があることが次第にわかってきました。
                その一つが磁気単極子の問題です。
                この磁気単極子は、宇宙が超高温の状態から冷えて大統一のスケールの温度を通過するとき、言い換えると大統一の相転移が起きるときに大量につくられると考えられます。
                しかし、これまでのところその存在は確認されていません。

                もう一つの問題は、もっと基本的なものです。
                標準模型のワインバーグ・サラム理論では、ゲージ場がある配位にあると量子異常と呼ばれる現象によってバリオン数が保存しないことが知られています。
                弱・電磁相互作用の相転移の温度である1015度を超えるような高温では、無視できない影響があることが次第にわかってきました。
                このようなゲージ場の配位のことをスファレロンといい、これによるバリオン数の非保存の現象をスファレロン効果と呼んでいます。
                大統一理論に基づくシナリオでもたらされたクォークと反クォークの数の違いが、宇宙の温度が弱・電磁相互作用の相転移温度まで下がるあいだにスファレロンによって消し去られてしまうのです。

                結局、バリオン数生成の具体的メカニズムが分かったかと言われれば、それはまだわからないと言わざるを得ません。
                大統一理論に基づくシナリオ、弱・電磁相互作用に基づくシナリオ、それぞれについて宇宙進化の様々な条件を取り入れて、くわしい研究がおこなわれています。



                この本は絶版だったようですが、ノーベル賞受賞をうけて急いで増刷されたようです。
                   → こちらのニュース


                私が購入した本も、金色の帯がついていました。



                なお、Bファクトリーに関しては、以下のリンク先(KEK)をご覧になって下さい。

                  ・小林・益川理論 Bファクトリー実験が果たした役割  → こちら

                  ・ペンギン崩壊を調べる    → こちら


                  ・キッズサイエンティスト  → こちら

                     キッズ向けの解説記事ですが、私が読んでも全部は理解できません。
                     これをフムフムと読めるキッズって、どんなキッズなんでしょうかね?


                参考図書
                  ・消えた反物質 (小林誠さん、ブルーバックス、1997年6月発行)











                2013.08.24 Saturday

                宇宙物理学  消えた反物質 (1)

                0


                  全ての粒子には性質が同じで電荷だけが反対の「反粒子」が存在し、したがって全ての物質には「反物質」が存在します。
                  粒子と反粒子は常に対(つい)で生じるので、これを「対生成」と呼びます。
                  そして粒子と反粒子が出会うと「対消滅」して、全ての質量はエネルギーに変換されます。


                  宇宙誕生直後には、粒子と反粒子が混然一体となって対生成と対消滅を繰り返していたと考えられています。
                  宇宙の膨張と共に温度が下がってくると、対生成の頻度は少なくなってくるので、対消滅で宇宙は次第にからっぽになっていくはずです。
                  確かにほとんどの粒子と反粒子は消滅してしまったようですが、現在の宇宙には粒子だけが残って、自然状態で存在する反粒子は見当たりません。
                  標準的なビックバン理論で計算してみると、どうも10億分の2ぐらいだけ粒子のほうが反粒子よりも多くあったようなのです。

                  これはどういうことでしょうか?
                  この謎は「消えた反物質の謎」と呼ばれています。


                        画像は、LHCアトラス実験オフィシャルブログからお借りしました。 → こちら


                  [サハロフの3条件]

                  1967年にソビエト連邦(当時)の物理学者アンドレイ・サハロフさんは、宇宙進化の過程で物質と反物質のあいだに差が生ずるための条件を考察しました。
                    1) バリオン数非保存
                    2) C非対称かつCP非対称
                    3) 非平衡

                  バリオンとはクォーク3個からなる粒子で、陽子や中性子のことだと思って下さい。
                  バリオン数はクォークのレベルから考えるとわかりやすいです。
                  クォークはバリオン数+1/3をもち、反クォークはバリオン数-1/3をもちます。
                  クォークと反クォークが対で生成されたり消滅したりしている限りは、バリオン数の総数は変化しないことになります。
                  宇宙が誕生したときは物質も反物質もまったく平等だったとすると、その時点での宇宙全体のバリオン数はゼロでなければなりません。
                  それが現在はバリオン数が正であるので、バリオン数は保存されていないことになります。
                  これがサハロフの第一条件です。

                  そしてバリオン数が負(反物質優位)ではなくて正(物質優位)に必然的になったとすれば、粒子と反粒子の性質に何か本質的な違いがあって、粒子すなわち物質が選ばれたのでなければなりません。
                  粒子と反粒子の性質が本質的に違うこと、すなわちCおよびCPの対称性が破れていることがサハロフの第二条件です。

                  しかしバリオン数が保存されないということは、我々の身のまわりの物質はバリオン数非保存の相互作用によって崩壊して、バリオン数が減少していくということを意味します。
                  そしてやがて全てのバリオンが崩壊し、バリオン数ゼロの世界に戻ってしまうはずです。
                  だから物質優位の世界が実現するには、それは何らかの形での平衡からずれた状態、いいかえれば過渡的な状態でなければなりません。
                  これがサハロフの第三条件の意味です。



                  [鍵を握っているのはニュートリノ?]

                  村山斉さんの最新の本によると「消えた反物質の謎」がもしかしたらもうすぐ解けるかもしれないそうです。
                  その謎を握っているのはニュートリノらしいです。

                  粒子が反粒子よりも少しだけ多いことは、もし反粒子が少しだけ粒子に入れ替わることができるとわかれば納得できますよね。
                  ビックバンでは粒子と反粒子が同じだけできましたが、その反粒子をニュートリノがほんの少しだけ摘み取るようにして粒子に変えたのではないのかというのです。

                  もしニュートリノが反粒子を消したのだとすると、それはダークマターの誕生よりも前のことです。
                  そのときの宇宙年齢は、およそ1兆分の1秒のさらに100兆分の1だそうです。

                  今までニュートリノは左巻きのものしか観測されていませんでした。  → こちらの記事

                  それが実は、左巻きのニュートリノを追い越して振り返ったときに見えるのは、もしかしたら反ニュートリノなのではないかと考えられるようになってきました。
                  ニュートリノだけは物質と反物質を入れ替える力があるのではないでしょうか?
                  ニュートリノと反ニュートリノも、宇宙の始まりの頃には他の物質と反物質のペアと同じように一対一でできたはずです。
                  ところがニュートリノがちょっといたずらをして、10億個のうちの1個分だけニュートリノと反ニュートリノのバランスを崩したのではないかと考えられるのです。
                  もしこのようなことが起きたとすると、物質と反物質が出会って消滅しても全部なくならずに、少しだけ物質が残ることになります。

                  宇宙が誕生したばかりの頃は、ヒッグス粒子は熱すぎてびゅんびゅん飛び回っています。
                  すると対称性が保たれて、弱い力と電磁気力が同じように振る舞います。
                  そのようなときには、クォークとニュートリノが互いに入れ替わることができることが分かってきたのです。
                    これは、大統一理論のことかな?
                  ですから、ニュートリノが粒子と反粒子のずれをつくると、それがクォークにも伝わるのです。


                  ニュートリノが反ニュートリノに変わる反応を捕まえる実験をカムランドでおこなっています。
                  ただこの実験が成功しても、なぜ物質を反物質に変えるようにはならなかったのかという理由が分かりません。
                  物質と反物質のふるまいに違いがないといけないのですが、それをニュートリノを使って調べようとしています。



                  参考図書
                    ・宇宙になぜ我々が存在するのか (村山斉さん、ブルーバックス、2013年1月発行)
                    ・ニュートリノと宇宙創生の謎 (監修:佐藤勝彦さん、じっぴコンパクト新書、2012年4月発行)
                    ・消えた反物質 (小林誠さん、ブルーバックス、1997年6月発行)










                  2013.08.23 Friday

                  宇宙物理学  真空とは?

                  0


                    「真空」ってどういう状態だと思います?

                    空気などの分子などが全くない、からっぽの状態だと思いますよね。
                    私は学生時代に「真空ポンプ」を使って実験をしていましたから、当然そう思っていました。


                    この絵は「マクデブルグの半球」と呼ばれているものです。 (画像はWikipediaよりお借りしました。)
                    17世紀にドイツのゲーリケさんが行なった実験で、青銅製の半球をふたつ合せて、自ら発明した真空ポンプで空気を抜いて真空を作りました。
                    球は大気圧のために密着し、16頭の馬を使っても引き離すことができなかったそうです。


                    でも量子論の世界では、粒子よりも空間に広がっている「場」のほうがより基本的です。
                    粒子がひとつも見当たらなくても、場が消えるわけではありません。
                    場のエネルギーをどんどん低くしていって、それ以上低くならないというところまでもっていったのが「真空」なのです。

                    これは静寂の世界かと思うと、実は量子的に揺らいでいて、これを「真空の揺らぎ(量子揺らぎ)」と言います。
                    そしてそうした真空中では、いたるところでミクロの粒子と反粒子のペアが生まれたり消えたりしているそうです。

                    下の図は2次元的なエネルギーの海を表したものですが、温泉地獄のように煮えたぎっているように感じられますね。




                    真空のこのような振る舞いは「不確定性原理」で説明されます。
                    不確定性原理は、位置と運動量に関するものと、エネルギーと時間に関するものがあるのです。
                    前者に関しては昨日の記事でちょっと説明しました。 → こちら

                    エネルギーと時間との間に成り立つ不確定性原理の醍醐味は、「ある時間内にはエネルギーが保存されない」というところにあるそうです。

                    エネルギーが保存されないってどういうこと?
                    「エネルギー保存の法則」はとても重要だって習いましたよね。
                    これだから量子論は厄介ですね。

                    とにかく短い時間なら真空からエネルギーを借りることができるそうです。
                    そして時間が短いほど大きなエネルギーを借りることができるそうです。

                    そうやってエネルギーを借りてくることで、真空から突如として粒子が出現するというのです。
                    しかし真空中から現れた粒子は、極めて短い時間だけ出現し、すぐまた消滅してしまいます。
                    つまり真空であっても、空間から粒子が突然に現れてまたすぐに消滅するという現象がしょっちゅう起きているのです。

                    このような粒子は「仮想粒子」と呼ばれています。
                    電子のように電荷を持っている粒子の場合は、マイナスの電荷を持つ粒子とプラスの電荷を持つ粒子がペアで出現します。
                    プラスの電荷を持った電子は「陽電子」と呼ばれています。
                    そして、このペアは極めて短い時間だけ存在して消滅してしまいます。


                    この仮想粒子は直接観測することはできませんが、原子に作用して原子のエネルギーを少しだけ変えます。
                    このことを水素原子で実験的に確かめたのが、アメリカの物理学者ウィリス・ラムさんです。
                    この実験結果は「ラム・シフト」と呼ばれて、ノーベル物理学賞を受賞しました。
                    仮想粒子は「仮想」という名前がついていますが、実在する粒子なのです。



                    参考図書
                      ・宇宙はなぜこのような宇宙なのか (青木薫さん、講談社現代新書、2013年7月発行)
                      ・村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?
                         (村山斉さん,高橋真理子さん、朝日新書、2013年4月発行)
                      ・相対性理論から100年でわかったこと
                         (佐藤勝彦さん、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年10月発行)










                    2013.08.22 Thursday

                    宇宙物理学  不確定性原理

                    0


                      不確定性原理はドイツの理論物理学者ベェルナー・ハイゼンベルクさんが1927年に唱えたものです。

                      ミクロの物質は、その位置と運動量を同時に正確に決めることができないというものです。
                      位置の不正確さをΔqとし、運動量の不正確さをΔpとすると、両者の積はある値以下にはならない(できない)というものです。

                      位置を正確に決めようとすると運動量がどんどんあやふやになってしまうし、運動量を正確に決めようとすると位置がどんどんあやふやになってしまうのです。
                      これは、ミクロの粒子は本質的に粒子であり波でもあるので、両方を同時に決めることはもとよりできないという本質的なものです。


                      ところで私はこれを観測(測定)の話として習った記憶があります。
                      ミクロの粒子を観測(測定)するためには、光などを当てる必要がありますが、それによって粒子の状態(運動量など)が変わってしまうのです。
                      位置を正確に測定しようと波長の短い光を当てると、波長の短い光はエネルギーが高いので粒子を弾き飛ばしてしまい、粒子の状態がわからなくなってしまうのです。
                      粒子の状態をできるだけ変えないようにエネルギーの低い光を使うと、光の波長が長いので位置が正確に測定できなくなってしまうのです。

                      だから、ミクロの粒子の本質的な性格と観測(測定)の問題がごちゃごちゃになっているように感じていました。
                      多くの解説書でも、きちんと説明してあるものはなかったと記憶しています。


                      ところが、2012年に「小澤正直さんの不等式」が大ニュースになりました。

                      「小澤の不等式」は、数学者である名古屋大学教授の小澤正直さんが2003年に提唱したもので、ハイゼンベルクの不確定性原理を修正する式です。
                      そしてついに、ウィーン工科大学の長谷川祐司さんのグループによる実験でその正しさが実証されたのです。


                      ここで、ΔqとΔpは、それぞれ測定における位置と運動量の不確かさです。
                      σqとσpは、それぞれ位置と運動量に関してもともと持っていた量子ゆらぎです。

                      これはハイゼンベルクの不確定性原理が間違っていたということではなくて、両者は別物だからそのあたりをきちんと整理したということです。
                      どうもハイゼンベルクさんは両者を明確に分けて考えなかったようですね。



                      ところでミクロの粒子には、「トンネル現象」というとても不思議な現象が見られます。


                      ミクロの世界で幾つかの粒子を枠で囲い込んだとしましょう。
                      そこでは粒子の「位置」が狭い範囲で決められたことになるので、不確定性関係に従って粒子の運動量の曖昧さが大きくなります。
                      すると不思議なことに、粒子がじわじわと広がって枠の外に滲み出てくるのです。
                      まさに「波」ならではの現象で、「トンネル現象」と呼ばれています。
                      江崎玲於奈さんがノーベル賞を受賞したトンネルダイオードも、この原理を応用したものです。

                      太陽では、複数の陽子(水素原子の核)がくっついてヘリウム原子の核を作り、熱を生み出します。
                      陽子と陽子をくっつける力(強い核力)は作用範囲が極端に短いので、互いにものすごく近づかなければくっつきません。
                      一方で陽子同士は同種の電荷を持つので、互いに激しく反発します。
                      この反発に打ち勝つためには、陽子はとてつもない速さで衝突しなければなりません。
                      この状況が実現して核融合が進行するためには、太陽の中心部は極めて高温でなくてはなりません。

                      1920年代に物理学者が必要とされる温度を計算したところ、おおよそ100億度だと算出されました。
                      でも太陽の中心部の温度は約1500万度にすぎないことが知られていました。

                      陽子がもうひとつの陽子に近づいて激しい斥力で押し戻されるのは、まるでもうひとつの陽子を取り囲んでいる高い障壁に出くわしたかのようです。
                      しかしハイゼンベルクの不確定性原理を適用して計算してやると、1500万度という温度でもその障壁をトンネル現象で通過できることが分かりました。
                      これは1929年に、ハウターマンスさんとアトキンソンさんによる業績です。



                      参考図書

                        ・村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?
                           (村山斉さん,高橋真理子さん、朝日新書、2013年4月発行)
                        ・量子論で宇宙がわかる (マーカス・チャウン(訳:林一さん)、集英社新書、2011年12月発行)
                        ・相対性理論から100年でわかったこと
                           (佐藤勝彦さん、PHPサイエンスワールド新書、2010年10月発行)
                        ・宇宙は何でできているのか (村山斉さん、幻冬舎新書、、2010年9月発行)
                        ・量子力学はミステリー (山田克哉さん、PHPサイエンスワールド新書、2010年9月発行)










                      ▲top