2013.08.31 Saturday
宇宙物理学 多世界解釈
量子力学においてこの自然界をどのような枠組みで捉えるべきなのかという議論を、量子力学の解釈問題といいます。
代表的なものに「コペンハーゲン解釈」と「多世界解釈」があるようです。
今日は「多世界解釈」をお話しします。
「コペンハーゲン解釈」は → こちらの記事
多世界解釈を主張する人たちは、コペンハーゲン解釈における「波の収縮」が納得できないようです。
なぜ収縮するのか?
観測されなかった部分はどこへいってしまうのだろうか?
多世界解釈は多くのバージョンがあるようで、人によって説明が微妙に異なります。
私は(あまり自信がないのですが)ざっくりと以下のように捉えました。
・シュレディンガー方程式だけを量子力学の前提として、波の収縮という考え方を排除します。
・観測装置もそれを見ている人間も全てセットとして量子力学の対象として考えます。
(一元論の立場)
・世界は一つではなく無数の世界が共存し、量子力学での可能性は全て実現されています。
(並行世界)
・共存している世界の中には、互いに影響しあうものも、影響しあわないものもあります。
・もちろん、それぞれの世界にあなたがいます。
・共存している世界のうちで、あなたがどの世界を認識しているかは、偶然(サイコロ)で決まります。
・あなたが認識している世界以外の世界を認識したり、連絡を取り合ったりすることはできません。
・共存している世界の間では、ミクロの量子は互いに影響を及ぼし合っています。
・観測等を行うと、共存する複数の世界は無関係な世界に分岐していきます。
(デコヒーレンス)
並行世界
ここで言っている並行世界は、最近の宇宙論で議論されている「マルチバース」とは異なります。
共存している世界と並行世界は同意語のようです。
シュレーディンガーの猫で説明してみましょう。
この場合は「世界が二つに枝分かれしている」というのです。
一つは「放射性物質が原子核崩壊を起こした世界」で、もう一つは「放射性物質が原子核崩壊を起こしていない世界」です。
そして、箱の中にいる猫も二つの世界に枝分かれしていて、前者の世界にいる猫はすでに死んでいますが、後者の世界にいる猫はちゃんと生きています。
さらに箱の外にいる私たちも、それぞれの世界に枝分かれして存在しているのです。
枝分かれした世界どうしは互いの交渉が絶たれて物理的に孤立し、別の世界を訪問したり、互いに連絡を取り合ったりすることが不可能になります。
だからもう一つの世界の存在を証明できないのです。(ちょっと困ってしまいますね。)
電子の二重スリットの実験を考えてみましょう。
1つの電子が同時に両方のスリットを通り抜けて、自分自身と干渉することを想像する必要はなくなります。
その代わりに、一方のスリットを通過したある電子が、他方のスリットを通過したもうひとつの電子と干渉を起こします。
他方の電子とは、もちろん隣接世界の電子です。
もともとの考えは、プリンストン大学の大学院生であったヒュー・エヴェレット3世によって1957年に提案されたものです。
宇宙全体のことを量子力学で考えたらどうなるだろうかという問題意識からでてきた考え方のようです。
原子一つ一つのみならず、それから構成される物質,人間,天体,そして宇宙全体も同じ原理で説明されるべきものだと考えたのです。
その後、ブライス・デウィットさんが世界の分岐の概念を付加して、多世界解釈と名付けました。
さて、この多世界解釈は物理学者の間でどのように受け止められているのでしょう。
参考図書のなかに、ある国際学会で行われた非公式の投票結果が載っていました。
本が書かれたのが2004年なので、それより前の状況ですね。
・コペンハーゲン解釈 4人
・未発見の収縮メカニズム 4人
・ガイド波解釈 2人
・多世界解釈 30人
・態度未定,いずれにも同意できない 50人
私は最初「何だこの考えは!」と感じましたが、何度も読み直しているうちに違和感が少なくなってきました。
まだ受け入れがたい部分はありますが、こんな考えがあってもいいかなと思っています
参考図書
・量子論で宇宙がわかる (マーカス・チャウン(訳:林一さん)、集英社新書、2011年12月発行)
・相対性理論から100年でわかったこと
(佐藤勝彦さん、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年10月発行)
・量子力学はミステリー (山田克哉さん、PHPサイエンス・ワールド新書、2010年9月発行)
・宇宙の未解明問題
(リチャード・ハモンドさん(訳:大貫昌子さん)、ブルーバックス、2010年6月発行)
・量子力学の解釈問題
(コリン・ブルースさん(訳:和田純夫さん)、ブルーバックス、2008年5月発行)
・量子力学が語る世界像 (和田純夫さん、ブルーバックス、1994年4月発行)