2020.07.31 Friday
宇宙物理学 近年の太陽の様子
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常田佐久さんの「太陽に何が起きているか」は2013年に出版された本だ。
改めて読んでみて、そのなかの「太陽の異変」という記述がとても気になった。
私は高校生の頃、半年ほど黒点のスケッチ観測をやったことがある。
ちょうど極大期だったようで、黒点がとても多くて、ときどき昼休みの時間内で終わらなかった記憶がある。
そんなこともあって、少しまじめに掘り下げてみようと思う。
[太陽の黒点数]
太陽の活動は活発な「極大期」と不活発な「極小期」を周期的に繰り返す。
その周期は約11年で、近代的な観測が始まって以来、比較的規則正しく11年毎に極大期と極小期を繰り返してきた。
太陽表面に現れる黒点の数(より正確には黒点相対数)は、太陽の活動の活発さを測るバロメータになっている。
便宜上、極小期から次の極小期までをひとつの周期とし、各周期には通し番号が付けられている。
1755年に始まる周期が第1周期と決められていて、現在は第24周期にあたる。
2008年末の極小期から始まって2014年に極大を迎え、その後は現在(2020年6月)まで減少を続けている。
国立天文台の太陽観測科学プロジェクトの観測データをお借りして下に示す。 → サイトはこちら
13ヵ月の移動平均で、緑,青,赤はそれぞれ1996年以降の太陽全体,北半球,南半球の黒点相対数である。
点線 (黒) は過去の周期における黒点相対数を、その極小を1996年に揃えてプロットしたものだ。
黒点相対数が小さいときの変化を見やすくするため、グラフ縦軸の目盛りは小さい数を拡大して見せるような不等間隔になっている。
前の太陽活動サイクルから今サイクルにかけての極小は、極小になった時の黒点相対数の値が特に小さくその時期も遅れた。
極小の時期が遅くなったことにより、前回の太陽活動第23周期は平均よりも長く12年以上継続したサイクルになった。
常田さんが心配した理由の一つがこれだ。
そして今回のサイクルは、前回よりさらに活動が低調だったようだ。
[極域の磁場]
太陽の極域の磁場は、活動周期と同じ11年周期で反転するそうだ。
それを知った時はとても驚いた。
極大期の時に入れ替わるそうだ。
第24周期が始まったときは、北極がS極で南極がN極だった。
2012年1月には、予想より1年ほど早く、S極だった北極の磁場がゼロの状態に近づいているのが観測された。
しかし、南極の磁場はN極のまま変化が見られなかった。
そして2012年の秋以降、北極がN極になりつつあるのが観測された。
そのため、近い将来には南北の両方がN極になる四重極構造になるのではと予想された。
画像は、科学衛星「ひので」のサイトからお借りしました。 → こちら
ではその後、どうなったのだろう?
2016年の天文月報に以下のような報告を見つけた。
現在の太陽活動周期は、南北両半球での非対称性が強い。
北極域の極性反転が先行し、2013年−2014年の間は南北両極域がN極の状態になった。
しかし、北極域の磁場強度はほぼゼロ近くで推移したため、南北四重極磁場構造が優位になる状態には発展しなかった。
一方で南極は急速に極性反転が進んだ。
別の見方をすると、太陽の南北双極子磁場の形成が停滞している状態であると捉えることもできる。
そしてさらに、国立天文台の太陽観測科学プロジェクトのウェブサイトで、最近の状況を見つけた。
「2019年8月の太陽活動」に載っていた図を示す。
三鷹での黒点相対数と米国の Wilcox Solar Observatory で1976年以降観測が継続されている南北両極域磁場のデータを並べてある。
赤色の実線は北極域磁場の強さを、青色の破線は南極域磁場の強さである。
青色と黄色の網掛け部分はそれぞれ黒点が少ない時期(極小期)と多い時期(極大期)を示している。
結局、四重極構造にはならずに通常の磁場構造(双極子磁場) になったようである。
なお、極域磁場の反転現象は以下のように起こり、私が思っていたイメージとはだいぶ違うようだ。
太陽活動が上昇するにつれて、もともと極域にある磁場とは逆極性の磁束が、黒点が現れた低緯度領域から運ばれる。
その結果、もともと極域にある磁束を相殺していくにつれて、単一極性領域が狭くなり平均磁場強度も下がっていく。
太陽活動極大期の前後には単一極性の領域は姿を消し、平均磁場強度がほぼゼロの状態になる。
その後太陽活動が低下する段階でも磁束の輸送が継続し、逆極性の磁場の単一極性領域が形成され広がる。
極小期に再び領域の大きさと平均磁場強度が極大になる.
??? 私は、極域磁場の反転現象は理解できていない。
また、太陽観測衛星「ひので」によって極域の磁場の描像が大きく変わったそうだ。
従来は極域付近は一様な弱い磁場(〜10ガウス)で覆われていると考えられていた。
それが、黒点並みの強さの斑点状の磁場が極域全域に存在していることが分かったのだ。
それらは、大きさが小さく、かつ寿命が短く(10時間程度)、形状が不規則だという。
極域の磁場は、太陽全体の磁場の強さを決定づける種になっていて、ある周期の太陽がどれくらい活発になるかを決めるカギを握っているそうだ。
太陽の様々な現象は、そのほとんど全てに磁場が絡んでいる。
電磁気学は苦手なのだが、何とか頑張ってみよう。
参考図書
・「太陽に何が起きているか」、常田佐久、文春新書、2013年
・「太陽に何が起きているか」、常田佐久、文春新書、2013年