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宇宙のあらゆる物体は、つねに時空のなかを一定の速さ(光の速さ)で進んでいる
絵を描く都合上、空間は1次元とする。
物理学者のブライアン・グリーンは以下のように言っている。
物体は空間の中だけでなく時間の中も進む。
そして宇宙のあらゆる物体は、つねに時空のなかを一定の速さ−−光の速さ−−で進んでいる。
言い方を変えると、空間内を進む速度と時間内を進む速度を合わせたものは、必ず光の速度と同じになるということだ。
これは「ん?」と感じるかもしれないが、本当にそうなのだ。
物体が(私たちに対して)静止しており、したがって空間の中をまったく動かなければ、物体の運動はすべて時間の次元に沿って進むのに使われる。
つまり静止した物体は時間のなかを光速で進んでいるのだ。 → 図の(1)
しかし、物体が空間の中を進めば、時間に沿った動きの一部が空間の中を進むのに使われる。
そのために、その物体が時間内を進む速度は小さくなるのだ。
つまり、その物体は静止している物体より時間に沿ってゆっくり進むということだ。 → 図の(2)
空間内で最高速度が達成されるのは、時間内を光速で進んでいた運動の全てを、空間内を光速で進む運動に振り向けたときである。
このように考えれば、なぜ空間内を光速よりも大きな速度で進むことができないかがわかるだろう。
空間内を光速で進めば時間は止まり、光の粒子がつけた腕時計は時を刻まないのだ。 → 図の(3)
※ この図は光円錐ではないことに注意して欲しい!
※ 横軸、縦軸共に速度である。
相対性理論という名前とは裏腹に、アインシュタインのこの理論は、何から何まで相対的だと主張するわけではない。
たしかに、いくつかの物理量は相対的だと主張する。
速度は相対的だし、空間の距離も時間の流れも相対的だ。
ところが意外なことに、特殊相対性理論は「絶対時空」という、きわめて重要な新しい絶対性を持ち込むのである。
空間と時間は、それぞれ単独では相対的だが、合体させた時空は絶対的なのだ。
ただし、一般相対性理論によって、空間と時間は絶対的ではなく、ダイナミックに変化し、質量とエネルギーに呼応して形を変えるということが明らかになる。
私たちの直観は、光の速さに比べてきわめて遅い普通に見られる運動に基づいているので、空間と時間の本当の性質は見えていなかったのだ。
「時空の断面」という考え方
これも物理学者のブライアン・グリーンの説明だ。
ある空間領域を、ある時間間隔にわたって見ていくことにしよう。
その空間と時間の領域のことを「時空領域」と言う。
時空領域には、ある時間間隔に、ある空間領域で起こったことがすべて記録されていると考えればよい。
絵を描く都合上、空間は2次元(X軸とY軸)とする。
それらの時空領域を時間軸に沿って積み重ねていくと、巨大な直方体が出来上がる。
その巨大な直方体を、Aさん(緑色)から見て、ある時刻に同時に起こった出来事のすべてが含まれるようにスライスすることを考えてみよう。
スライス断面のひとつひとつは、Aさんが、ある時刻に見た空間を表している。 → 左図の(A)
少し右にいるBさん(オレンジ色)も同様にスライスしたとする。
AさんとBさんが相対運動をしていなければ、両者のスライス断面は重なって、同時に起こったことについて意見が一致する。
BさんがX軸方向をAさんから遠ざかように運動すると、Bさんのスライス断面の角度がAさんのものと違ってくる。 → 右図の(B)
この場合は、Aさんにとっての過去に回り込む。
こうなると、両者で同時に起こったことについて意見が一致しなくなる。
2人の相対速度が大きくなるにつれて、2つのスライス断面がなす角度は大きくなる。
最高速度である光速に達すると、2つのスライス断面の角度差は最大の45度に達する。
何が同時に起こったかについて、2人の報告する出来事の食い違いも大きくなる。
さらに、2人が遠く離れていれば、角度の違いはごく僅かでも、2つのスライス断面の開きは非常に大きくなる。
例えば2人が100億光年離れていたとする。
互いに相手に対して静止しているのなら、空間と時間に関する2人の意見は一致する。
しかし一方が時速16kmで歩き出すと、2人の今は150年も食い違ってしまうのだ。
互いに相対運動をしている人の時計は異なる進み方をするせいで、同時刻の概念が従来とは変わってくる。
これがいわゆる「同時性の相対性」(同時性は相対的なものである)と呼ばれていることだ。
互いに相対運動をしている人は、何と何とが同時に起こったかについて意見が一致しないのだ。
同時という概念が相対的なものになれば、「現在」も人によって異なることになり、過去・現在・未来の区別もまた相対的なものになる。
なお時間の経過につれて空間をスライスしたものの全体は、誰がスライスしようと、まったく同じ時空のブロックになる。
特殊相対性理論の世界では、絶対空間も絶対時間も存在しないが、絶対時空はたしかに存在するのである。
時空
上記のブライアン・グリーンの説明から、空間と時間の描像が従来とは大きく変わってくるのがわかる。
ある人の空間距離は、別の人の時間間隔と空間距離である。
そして、ある人の時間間隔は、別の人の時間間隔と空間距離である。
空間と時間がこのやりかたで入れ替え可能なのである。
そのために時間と空間を「時空」という一体不可分のものとして取り扱わなければならない。
まるで禅問答のようだ。
アインシュタインが劇的な発見を世間に伝えてから一世紀以上になるが、依然としてほとんどの人は空間と時間を絶対的なものとして見ている。
理由はごく簡単だ。
特殊相対性理論に実感がないからだ。
特殊相対性理論の効果は、どのくらい速く動くかに依存し、車や飛行機の速さでは、それどころか、スペースシャトルの速さでも、微々たるものしかないからだ。
エネルギーと質量は等価である
アインシュタインは、エネルギーと質量の関係を見出した。
それまでまったく別のものだと考えられていた「エネルギー」と「質量」が、実は等価なものであり、
「E=mc
2」で換算できると言うのだ。
ここで、Eはエネルギー、mは質量、cは光速度である。
なお光(光子)は固有の質量は持っていないが、運動エネルギーをもつという事実に基づいた「有効質量」をもっている。
この発見は、「質量はエネルギーの一形態である」ということを見出したと捉えるほうが、その重大性が伝わると思う。
特殊相対性理論は1905年の6月に論文として投稿されたが、その直後にこれを発見して、同年9月に論文の補遺として書いたそうだ。
この式は、高校で習う「質量保存の法則」と「運動量保存の法則」だけを使って導くことができるのだそうだ。
福江純さんの本に、1946年にアインシュタイン自身が行った初等的証明に基づいて式を導出している。
私も読んでみて式を追うことはできたが、最初から一人でやるとは到底無理だ。
なお等価式が成り立つのは、粒子が静止している場合だけだ。
粒子が動き出すと運動量を持つので、もう少し複雑な式になるそうだ。
ミンコフスキーの4次元時空
ヘルマン・ミンコフスキーは、空間の3つの次元と時間の次元を組み合わせた4次元の時空を用いることで、特殊相対性理論が簡潔に記述されることを見出した。
ミンコフスキーはアインシュタインの数学の先生でもあった。
3次元の空間座標系どうしで座標系を乗り換えるときのルールは「ガリレイ変換」と呼ばれる。
ミンコフスキーの4次元時空で座標系を乗り換えるときのルールは「ローレンツ変換」と呼ばれる。
ミンコフスキー時空では、ローレンツ変換を行ったときに長さは不変ではないが、かわりに不変となる量が存在する。
それは通常の空間(3次元ユークリッド空間)での長さを4次元時空に拡張した量で、「世界長さ」と呼ばれる。
例えば、通常の空間内の点(x,y,z)と原点(0,0,0)との距離Lは
L
2=x
2+y
2+z
2
で表されるが、世界長さSは
S
2=x
2+y
2+z
2−(ct)
2
という式で表される。
ここで時間tに光速度cを掛けているのは、長さの単位に合わせるためだ。
この世界長さの式をちょっと変形してみると、面白いことが分かる。
虚数を導入すると、
S
2=x
2+y
2+z
2+(ict)
2
と変形できる。
ここで(ict)を第4の座標と考えれば、これが4次元のユークリッド空間になっていて、この式が3次元ユークリッド空間での距離の拡張になっていることが分かる。
つまり、ミンコフスキー空間とは、4次元ユークリッド空間のひとつの座標軸を虚数にしたものなのだ。
ミンコフスキー・ダイアグラム
「時空ダイアグラム」なるものを用いると、物体の運動を視覚的に表現することができる。
実際の空間は3次元もあり、時間と共に図示するのは難しいので、時空のダイアグラムでは、表現上、空間の次元を減らして表すことが多い。
例えば、横軸に2次元空間(x,y)をとり、縦軸に時間をとる。
時間軸は必ず縦軸で、下を過去、上を未来とする。
静止した物体は、空間座標(x,y)の値は変わらず時間だけが過ぎていくので、静止した物体の「軌跡」は鉛直方向に過去から未来に向かって伸びる直線になる。
一定速度で動く物体の「軌跡」は、傾いた直線になり、速度が速いほど直線の傾きは水平に近くなる。
相対論では、単なる時空ダイアグラムではなく、「ミンコフスキー・ダイアグラム」と呼ばれる、光速度を基準にした特別な時空ダイアグラムを使う。
普通の時空ダイアグラムと大きく違う点は、空間軸と時間軸の目盛りの取り方である。
光の軌跡が傾き45度の直線になるように目盛りを刻む。
例えば、時間軸を年で刻み、空間軸を光年で刻むのだ。
ミンコフスキー・ダイアグラムにおける慣性系(物体)の軌跡を、慣性系の「世界線」と呼んでいる。
45度に傾いた光の世界線は、ふつう「光円錐」と呼んでいる。
このようなミンコフスキー空間でいろいろな運動がどう表されるかだが、まず原点に自分がいるとすると、そこが自分自身の(ここ、いま)である。
あらゆる物体の速度は光速度よりも遅いため、物体の世界線の傾きは45度より急なので、物体の世界線は必ず光円錐の内部に含まれる。
ミンコフスキー・ダイアグラムは、1907年にヘルマン・ミンコフスキーがはじめて導入したものだが、相対論の表現はこれによってずいぶんとわかりやすくなったと言われている。
参考図書
・「相対性理論の世界」、ジェームズ・A・コールマン、(訳)中村誠太郎、講談社ブルーバックス、1966年?
・「エレガントな宇宙」、ブライアン・グリーン、(訳)林一,林大、草思社、1999年
・「宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体」、ブライアン・グリーン、(訳)青木薫、草思社、2004年
・「宇宙の扉をノックする」、リサ・ランドール、(訳)向山信治、NHK出版、2011年
・「重力とは何か」、大栗博司、幻冬舎新書、2012年
・「私たちは時空を超えられるか」、松原隆彦、サイエンス・アイ新書、2018年
・「超入門 相対性理論」、福江純、講談社ブルーバックス、2019年