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2020.09.30 Wednesday

宇宙物理学  閑話休題 (3) 奇跡の年

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    ***** 閑話休題 *****


    アインシュタインの奇跡の年

    1905年は「物理学の奇跡の年」と呼ばれている。

    特許庁に勤めていた無名の26歳の若者が、堰を切ったように「光電効果」「ブラウン運動」「相対性理論」という3つのまったく異なるテーマで、5つの論文(そのうち1つは学位論文)を発表する。
    すぐには認められなかったものの、やがてその論文からまったく新しい2つの物理学である「相対性理論」と「量子論」が誕生することになる。

    その若者とはアルベルト・アインシュタインのことだ。


    特許局技師として日中は特許の申請書類をチェックする仕事をしながら、物理学の研究を進めていた。
    1日を8時間の勤務と、8時間の睡眠と、残りの8時間を研究と家族のためにと、規則正しい役人生活を送っていたそうだ。

    光電効果の理論
    「光は粒子的な性質を持つ(光量子である)」と考えることで、光電効果が粒子の衝突として説明できることを提案した。
    この光電効果の理論は、その後の量子論の発展の基礎になる。
    1921年のノーベル物理学賞受賞の対象になったのは、この研究成果である。

    ブラウン運動の理論
    ブラウン運動をする粒子の運動を測定することによって、原子(または分子)の存在が結論づけられることを示した。
    当時、物理学者の間でもコンセンサスが得られていなかった原子論が、実験によって決着できることを述べたのである。
    「分子の大きさの新しい決定法」と題した学位論文をまとめている。



    ニュートンの奇跡の年

    それより240年ほど前の1666年も、科学史上で「奇跡の年」と呼ばれている。

    主人公はアイザック・ニュートンで、わずか23歳だった。


    ニュートンは大学3年生のときに数学に本気で取り組み、古代ギリシャのユークリッドが著した幾何学の「原論」を読み始めた。
    そしてその後の2年間で、無限級数を用いた関数の展開式の発見、曲線の傾きの求め方の発見、双曲線の下の面積の求め方の発見、などを成し遂げている。

    1664年から1665年にかけて、イギリスではペストが流行して、ケンブリッジ大学も閉鎖になり、故郷のウールスソープに戻ることになる。
    でもその故郷に戻っていた約1年間で3つの大発見をし、世に言う「奇跡の年」になったのだ。
       ・光の屈折を解明した虹(のちのスペクトラム)理論
       ・微分・積分法の考案 (ライプニッツとは独立に)
       ・万有引力の法則



    ガリレオ・ガリレイ

    イタリアのピサで生まれ、医学を学ぶために大学に入学したが、アルキメデスの著作に夢中になって、数学者になったそうだ。
    近代科学的な手法の樹立に多大な貢献をし、しばしば「近代科学の父」と呼ばれている。
    また天文学分野での貢献を称えて「天文学の父」とも呼ばれている。


    さて名前の呼び方だが、「ガリレイ」と書いている本が最近多いことに気がついた。
    私の小さいころは「ガリレオ」と呼んでいた記憶があるのだが、、、。

    そこでちょっと調べてみた。
    姓はガリレイで、名はガリレオだ。

    ということは、私は今まで姓ではなく名(いわゆるファーストネーム)で呼んでいたわけだ。
    でもどうしてだろう?

    生まれ故郷のイタリアのトスカーナ地方の風習では、長男の名前は姓の単数形が付けられるそうで、そのためにガリレオという名前が与えられたと言われている。
    そして偉人に対しては姓ではなく名を使うというイタリアの習慣にならってガリレオと呼ばれることとなったようだ。

    それが、最近は[姓]で呼ぶようになってきたということだろうか?



    参考図書
      ・「現代物理学が描く 宇宙論」、真貝寿明、共立出版、2018年
      ・「天の川が消える日」、谷口義明、日本評論社、2018年
      ・「超入門 相対性理論」、福江純、講談社ブルーバックス、2019年











    2020.09.28 Monday

    宇宙物理学  一般相対性理論 (2)

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      ***** 基礎物理学 > 相対性理論 *****


      再び自由落下

      自由落下している物体は、時空の中で「最もまっすぐな」経路に沿って運動する。
      直線は2点間の最短経路だというのは、平らな紙の上では真実だ。
      しかし重力が存在するところでは空間は湾曲して、最短経路は曲線になるのだ。
      そして自由落下しているから重力を経験しないのだ。


      国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士は、地球の周りで(ISSと一緒に)自由落下している。
      どうして地球に落ちていかないかというと、落ちながら前へ前へと進んでいるためだ。
      だから彼らは地球の重力を感じないのだ。

      地球は太陽の周りで自由落下しているので、私たちは地球上では太陽の重力を感じない。



      時空が曲がる(歪む)

      時空の曲がりをイメージするのは難しいので、2次元平面の曲がりに置き換えて、2次元の薄いゴムシートで説明されることが多い。
      ゴムシートの上に鉄球を載せると、ゴムシートは下にたわむ。
      これが物質によって時空が曲がった状態だ。
      次にゴムシートの上に2つの鉄球を少し離して置くと、ゴムシートはやはり下にたわむ。
      そして同時に2つの鉄球はたわみに沿って移動して近づき、最終的にはくっついてしまう。
      実はこれが万有引力と呼んでいる力が働くしくみなのだ。



      ゴムシートと鉄球の喩(たとえ)は、空間の湾曲(ゆがみ)とはどういうものかを具体的につかめるような視覚的イメージを与えてくれる。
      しかし、注意を要する点が幾つかある。

      このモデルでゴムシートがゆがむのは、ゴムシートが重力によって地球のほうに引っ張られるからだ。
      しかし、太陽のせいでまわりの空間がゆがむのは、重力によって「下に引っ張られる」ためではない。
      「引っ張る」役目をする他の物体などないのだ。
      このモデルでは、私たちがニュートン的枠組みのなかで重力に対して抱く直観に訴えるが、空間のゆがみが生じるメカニズムとしては正しくない。

      2つめの欠点は、ゴムシートが2次元だということからきている。
      しかし、これは視覚化の観点から仕方のないことだろう。

      3つ目の短所は、時間の次元を削除しているということだ。
      時間の次元をおなじみの3つの空間次元と対等に考えるべきだと特殊相対性理論が述べているにもかかわらず、見やすいようにこうしたのだ。



      曲がった空間の幾何学

      アインシュタインが友人で数学者のグロスマンに相談すると、当時完成していた「リーマン幾何学」の存在を教えてくれた。
      平らな空間上での幾何学(ユークリッド幾何学)ではなく、曲がった時空の幾何学だ。
      ただし、グロスマンは「これは込み入った数学なので、物理学者が深入りするものではない」と警告したそうだ。
      しかし、アインシュタインはその後の数年間にわたってリーマン幾何学と格闘する。

      時空の曲がり具合いを表すには「曲率」という概念を使う。
      4次元時空の曲率はリーマン幾何学でなければ表現できず、そこには計量テンソルがふんだんに使われるそうだ。

      リーマン幾何学は全く分からない。
      計量テンソルだの曲率テンソルだのリッチテンソルだの、本当にチンプンカンプンだ!



      重力場の方程式(アインシュタイン方程式)

      物質(及びエネルギー)の存在によって周囲の時空がどのように歪むかを表す方程式を、「重力場の方程式」または「アインシュタイン方程式」と呼ぶ。


      左辺全体としては、時間と空間の幾何学(曲がり)を表している。
      右辺全体としては、物質やエネルギーの分布の効果を表している。

      一見簡単な式のように見えるかもしれないが、それは大間違いだ。

      まず下付き添え字の付いたものはテンソルで、4行4列の行列である。
      対称性のために、独立した成分は10個になっている。
      そのため全体としては10個の連立微分方程式になっていて、しかもそのどれもが非線形の偏微分方程式だとのこと。

      質量の分布の仕方が球対称であるような特別な場合だけは、紙と鉛筆で解くことができるそうだ。
      しかし、一般的な解を得るにはスーパーコンピュータに頼らなければならず、その場合でも多くの困難を伴うという。



      重力で時間が遅れる

      重力(正確には重力場)が強い空間では、時間の進みが遅くなる。
      しかし、これは相対的な現象だ。
      重力の弱い地球と重力の強い巨星を考えてみる。
      重力の弱い地球から重力の強い巨星を見ると、巨星での時間は地球より遅く進む。
      逆に重力の強い巨星から重力の弱い地球を見ると、地球での時間は巨星より速く進む。

      ??? 重力によって時間の進みが遅くなる理屈がよく分からない


      GPS衛星は、正確な時刻を刻む原子時計を備えて、地上から2000kmの上空を秒速4km(1周11時間58分)で周回している。
      地上のGPS受信機とGPS衛星とでは、相対性理論による時間の進み方に違いがあるので、その補正が行われているそうだ。

      GPS衛星は高速で運動しているので、特殊相対性理論の効果によって、地上の時計より1日あたり7マイクロ秒遅れる。
      またGPS衛星は重力の弱い上空にいるので、一般相対性理論の効果によって、地上の時計より1日あたり45マイクロ秒進む。
      これらを考慮しないと、1日で11kmの誤差が生じるそうだ。

           c 2015 香取秀俊  絵は東京大学のサイトからお借りしました。 → こちら



      重力赤方偏移

      重力の強い天体からやってくる光は波長が伸びてしまう。
      これを「重力赤方偏移」と呼ぶ。

           絵は Lefteris Kaliambos Wiki からお借りしました。 → こちら


      この現象を説明するのに、2種類の論法が見受けられる。

      (1)
      重力の強い天体では、時間がゆっくり経過している。
      光の振動数は単位時間当たりの振動の回数だから、時間の進み方が遅くなると遠方の観測者からは振動数は小さく観測される。
      これは言い換えれば、波長が長くなるということだ。

      (2)
      光と言えども、強い重力に逆らって進まなければならないので、かなりのエネルギーを費やしてしまう。
      光子のエネルギーは「hν(プランク定数×振動数)」だから、エネルギーが減少するということは、振動数が減少するということになる。
      これは言い換えれば、波長が長くなるということだ。


      ??? 重力赤方偏移の理屈がよく分からない



      重力は遠隔作用ではない

      ニュートンは、重力という力は距離がどんなに離れていても、ひとつの物体からもうひとつの物体へ瞬時に伝わるものと考えていた。
      このような力の伝わり方を「遠隔作用」という。
      実はニュートン自身も、遠隔作用に違和感を覚えていたようだが、追求しようとはしなかった。


      物体が動いたり回転運動したり、あるいは振動したりすると、いったい何が起こるだろう?
      重力場に変化が起きて、その変化が光の速さで波のように周囲に伝わっていく。
      このように、一般相対性理論では、むしろ「近接作用」として考えられている。



      水星の近日点移動

      水星の軌道はきれいな楕円にならず、周回を重ねる毎に軌道が少しづつずれていく。
      太陽にもっとも近づいた点(近日点)がずれていくことから、このような運動は「近日点移動」と呼ばれている。
      その原因の多くは他の惑星(特に木星)からの重力だが、どうしても説明できない部分があった。

      重力場はエネルギーをもっているので、重力場のエネルギーもまた質量に換算され、その質量が新たな重力場を作り出す、という事態が生じる。
      太陽に近いところでは重力が強いため、その効果が無視できなくなる。
      その結果、その軌道をまわっている物体はいずれも、逆二乗則から予想されるよりも大きな重力の引っ張りを感じる。
      惑星は楕円軌道を繰り返したどるのではなく、軌道模様を描きながら徐々に空間的位置を変える楕円軌道をたどる。
      これは太陽から遠く離れたところでは気づかれない。

      1915年に、アインシュタインが完成したばかりの方程式を適用してみたところ、水星が100年間で「43秒角の歳差運動をする」結果が出て、観測結果を見事に説明できた。

           絵は Wikipedia からお借りしました。



        参考図書
           ・「相対性理論の世界」、ジェームズ・A・コールマン、(訳)中村誠太郎、講談社ブルーバックス、1966年?
           ・「宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体」、ブライアン・グリーン、(訳)青木薫、草思社、2004年
           ・「繰り返される宇宙」、マーチン・ボジョワルド、(訳)前田秀基、白揚社、2009年
           ・「重力とは何か」、大栗博司、幻冬舎新書、2012年
           ・「ブラックホール・膨張宇宙・重力波」、真貝寿明、光文社新書、2015年
           ・「時空のからくり」、山田克哉、講談社ブルーバックス、2017年
           ・「超入門 相対性理論」、福江純、講談社ブルーバックス、2019年











      2020.09.27 Sunday

      宇宙物理学  一般相対性理論 (1)

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        ***** 基礎物理学 > 相対性理論 *****


        最初に断っておくが、相対性理論を系統立てて説明することなど私にはとても無理だ。
        そこで読んだ本のなかで「ふむふむ」と感じたところを寄せ集めてみる。


        特殊相対性理論を構築したアインシュタインは、続いて加速度運動と重力を扱えるように、そのバージョンアップ版に取り組んだ。
        その完成には10年もの歳月を要したが、一般相対性理論は単に特殊相対性理論の限界を乗り越えただけでなく、ニュートンの万有引力の法則を書き換える新しい重力理論になった。



        一般相対性理論をひと言で説明すると

        アインシュタインの重力場をきわめて上手に説明した物理学者がいる。
        ジョン・ホイーラーだ。
        「時空は物体にいかに動くべきかを教え、物体は時空にどのように曲がるべきかを教える。」


        ふつうに説明すると以下のようになるだろうか。
           一般相対性理論は重力場での時空の力学である。
           アイシュタインは、「質量のある物体のまわりの時空はゆがむ」
           というアイデアで重力の正体を説明した。
        これと比べると、ジョン・ホイーラーは実に巧い。



        出発点

        一般相対性理論における理論の柱(仮定)は次の2つである。
           ・等価原理
              天体の重力によって生じる力と加速によって生じる力が区別できないのなら、
              いっそ、それらを同じものだと見なそう。
           ・一般相対性原理
              重力場の中にいる人にとっても、加速運動をしている人にとっても、
              どのような人にとっても自然の法則は同じように成り立つ。



        自由落下

        私たちは常に、地球の重力を自分の体の重さ(体重)として感じている。
        至極当たり前のことだ。
        でもこれは、地球の中心に向かって落ちていかないように、地面や床によって支えられているためだ。
        もし支えが無くなったら、地球の重力のなすがままに、地球の中心に向かって落ちていくだろう。
        この状態を「自由落下」と呼ぶが、そのとき重力を感じなくなるという。

        エレベーターでちょっとだけ雰囲気を味わうことができる。
        エレベーターが下向きに動き出した時に、ちょっとだけ体が浮くような感じがするのがそれだ。

        重力が生じるのは、物体が自由な運動に従うことを妨げられたときだけだ。
        地球にいる私たちの自然な運動は、地球の中心に向かう自由落下なのだ。
        でも地面や床がそれを妨げるので、私たちはその力を身体に感じて、それを重力として解釈しているのだ。

             絵はJAXAの資料からお借りしました。 → こちら



        等価原理

        話を簡単にするために、以下では空気抵抗は無視できるとする。

        地球上で(ケーブルが切れて)自由落下しているエレベーターを考える。 → 下図の左
        エレベーター内の物体も同じように自由落下するので、人に対して最初静止していたものはずっと宙に浮かんでいるように見える。
        これは無重力の空間に浮かんでいるのと区別が付かない。 → 下図の右
        つまり、自由落下している人は無重力の慣性系にいる人と等価である。



        逆に,無重力の空間に「上向き」に加速度gで加速上昇するエレベーターを考えてみる。
        エレベーターの中の人は,重力と同じような「下向き」の見かけの力(慣性力)を感じる。
        その中で、同じ高さから質量の異なる2つの物体を同時に静かに離すと、両者は同時に床に着く。
          → 下図の左
        (外からみれば床の方が近づいて行くのだから同時なのは当たり前。)
        これは、重力加速gの地上にいるのと物理的に全く同じであり、区別が付かない。 → 下図の右



        つまり、重力と加速度とは等価であり、識別することができないのだ。
        このエレベーターの思考実験には、アインシュタインは「人生最良のひらめき」と言ったそうだ。
        このひらめきのおかげで、第1の大きな山を越えたことになる。



        慣性質量と重力質量

        慣性質量は、「等速直線運動を永久に続けたい」という欲望の強さ(性格の強さ)と捉えると理解しやすい。
        「慣性」とは物体固有の性質であり、「慣性質量」が重力の原因になるなんてことは絶対にありえない。

        一方でニュートンは、2つの物体がある距離をおいて離れている場合、それら2つの物体間には相手の物体を自分のほうに引っ張ろうとする力が働くことを発見した。
        では、この引力の源は何だろう?
        ニュートンはこれを、個々の物体のもつ「重力質量」であるとした。

        運動の仕方と重力とは、本来まったく別物なので、慣性質量と重力質量が同じである必然性は、本来はないはずだ。
        しかし、実験的には、非常に高い精度で、両者が等しいことが確認されている。

        等速直線運動を永久に続けたいという欲望からくる「加速に対する抵抗」や「曲がりに対する抵抗」は、その物体がもつ質量が「慣性質量」として働くために発生する。
        一方、その物体が他の物体に重力によって引き付けられる場合は、その物体の質量は「重力質量」として働く。



        重力の正体

        アインシュタインは、「質量のある物体のまわりの時空は曲がる(歪む)」というアイデアで重力の正体を説明しようとした。
        厳密に言うと、時空を曲げる要因は、質量とエネルギーと運動量だ。
        これら3つが時空を曲げ、その曲がっている時空に他の物体が入り込むと、その物体には時空が曲がっていることに起因する力が働く。
        つまり、時空の曲がり(歪み)が物体の運動に影響を与えるのだ。
        アインシュタインは、それが重力の正体だと考えた。

        他に力が加わらなければ、物体は重力のなすがままに動く。
        重力のなすがままに動くと、その物体は重力をまったく感じなくなる。
        曲がった(歪んだ)時空の中を動く経路は測地線(最短経路)となる。


        アインシュタインによれば、惑星は太陽重力に引っ張られるために太陽のまわりを回るのではない。
        太陽のある場所に時空の窪み(くぼみ)ができ、太陽周辺の時空が曲がる(歪む)。
        そしてその曲がり(歪み)そのものが惑星の運動の軌跡を決めた結果として、惑星は太陽のまわりを回るのだ。
        決して、太陽と惑星との間の重力が惑星運動の軌跡を決めているのではない。




        時間と空間

        ニュートン力学は、絶対空間と絶対時間の上に構築されていた。
        空間は物質が存在するための入れ物であり、時間は過去から未来に一様に流れ、共に万物に共通の固定されたモノだった。

        しかし、アインシュタインは特殊相対性理論によって、皆が自分だけの空間と時間を持っていることを導いた。
        そしてさらに、時間と空間を時空として統一した。
        ニュートンの運動の法則は、特殊相対論の枠組みの中に納まったが、万有引力はまた別の話だった。

        アインシュタインは、時空をよりフレキシブルにすることによって、万有引力の法則をも取り込み、時空と重力の理論を導いた。
        それが一般相対論である。
        一般相対論では、時空はより弾力性をもったモノになり、質量と相互作用して変形するモノとして扱われることとなった。
        すなわち物質の存在が時空を変形させ、一方、時空の変形が物質に重力作用を及ぼす。
        一般相対論は曲がった時空の幾何学であり、一般相対論によって、ついに時空と物質が統一されたのである。



        続く











        2020.09.25 Friday

        宇宙物理学  特殊相対性理論 (2) 

        0
          ***** 基礎物理学 > 相対性理論 *****


          宇宙のあらゆる物体は、つねに時空のなかを一定の速さ(光の速さ)で進んでいる

          絵を描く都合上、空間は1次元とする。

          物理学者のブライアン・グリーンは以下のように言っている。

          物体は空間の中だけでなく時間の中も進む。
          そして宇宙のあらゆる物体は、つねに時空のなかを一定の速さ−−光の速さ−−で進んでいる。
          言い方を変えると、空間内を進む速度と時間内を進む速度を合わせたものは、必ず光の速度と同じになるということだ。
          これは「ん?」と感じるかもしれないが、本当にそうなのだ。

          物体が(私たちに対して)静止しており、したがって空間の中をまったく動かなければ、物体の運動はすべて時間の次元に沿って進むのに使われる。
          つまり静止した物体は時間のなかを光速で進んでいるのだ。 → 図の(1)
          しかし、物体が空間の中を進めば、時間に沿った動きの一部が空間の中を進むのに使われる。
          そのために、その物体が時間内を進む速度は小さくなるのだ。
          つまり、その物体は静止している物体より時間に沿ってゆっくり進むということだ。 → 図の(2)

          空間内で最高速度が達成されるのは、時間内を光速で進んでいた運動の全てを、空間内を光速で進む運動に振り向けたときである。
          このように考えれば、なぜ空間内を光速よりも大きな速度で進むことができないかがわかるだろう。
          空間内を光速で進めば時間は止まり、光の粒子がつけた腕時計は時を刻まないのだ。 → 図の(3)


            ※ この図は光円錐ではないことに注意して欲しい!
            ※ 横軸、縦軸共に速度である。


          相対性理論という名前とは裏腹に、アインシュタインのこの理論は、何から何まで相対的だと主張するわけではない。
          たしかに、いくつかの物理量は相対的だと主張する。
          速度は相対的だし、空間の距離も時間の流れも相対的だ。
          ところが意外なことに、特殊相対性理論は「絶対時空」という、きわめて重要な新しい絶対性を持ち込むのである。
          空間と時間は、それぞれ単独では相対的だが、合体させた時空は絶対的なのだ。
          ただし、一般相対性理論によって、空間と時間は絶対的ではなく、ダイナミックに変化し、質量とエネルギーに呼応して形を変えるということが明らかになる。

          私たちの直観は、光の速さに比べてきわめて遅い普通に見られる運動に基づいているので、空間と時間の本当の性質は見えていなかったのだ。



          時空の断面」という考え方

          これも物理学者のブライアン・グリーンの説明だ。

          ある空間領域を、ある時間間隔にわたって見ていくことにしよう。
          その空間と時間の領域のことを「時空領域」と言う。
          時空領域には、ある時間間隔に、ある空間領域で起こったことがすべて記録されていると考えればよい。

          絵を描く都合上、空間は2次元(X軸とY軸)とする。

          それらの時空領域を時間軸に沿って積み重ねていくと、巨大な直方体が出来上がる。


          その巨大な直方体を、Aさん(緑色)から見て、ある時刻に同時に起こった出来事のすべてが含まれるようにスライスすることを考えてみよう。
          スライス断面のひとつひとつは、Aさんが、ある時刻に見た空間を表している。 → 左図の(A)
          少し右にいるBさん(オレンジ色)も同様にスライスしたとする。
          AさんとBさんが相対運動をしていなければ、両者のスライス断面は重なって、同時に起こったことについて意見が一致する。

          BさんがX軸方向をAさんから遠ざかように運動すると、Bさんのスライス断面の角度がAさんのものと違ってくる。 → 右図の(B)
          この場合は、Aさんにとっての過去に回り込む。
          こうなると、両者で同時に起こったことについて意見が一致しなくなる。

          2人の相対速度が大きくなるにつれて、2つのスライス断面がなす角度は大きくなる。
          最高速度である光速に達すると、2つのスライス断面の角度差は最大の45度に達する。
          何が同時に起こったかについて、2人の報告する出来事の食い違いも大きくなる。

          さらに、2人が遠く離れていれば、角度の違いはごく僅かでも、2つのスライス断面の開きは非常に大きくなる。
          例えば2人が100億光年離れていたとする。
          互いに相手に対して静止しているのなら、空間と時間に関する2人の意見は一致する。
          しかし一方が時速16kmで歩き出すと、2人の今は150年も食い違ってしまうのだ。


          互いに相対運動をしている人の時計は異なる進み方をするせいで、同時刻の概念が従来とは変わってくる。
          これがいわゆる「同時性の相対性」(同時性は相対的なものである)と呼ばれていることだ。
          互いに相対運動をしている人は、何と何とが同時に起こったかについて意見が一致しないのだ。

          同時という概念が相対的なものになれば、「現在」も人によって異なることになり、過去・現在・未来の区別もまた相対的なものになる。


          なお時間の経過につれて空間をスライスしたものの全体は、誰がスライスしようと、まったく同じ時空のブロックになる。
          特殊相対性理論の世界では、絶対空間も絶対時間も存在しないが、絶対時空はたしかに存在するのである。



          時空

          上記のブライアン・グリーンの説明から、空間と時間の描像が従来とは大きく変わってくるのがわかる。

          ある人の空間距離は、別の人の時間間隔と空間距離である。
          そして、ある人の時間間隔は、別の人の時間間隔と空間距離である。
          空間と時間がこのやりかたで入れ替え可能なのである。
          そのために時間と空間を「時空」という一体不可分のものとして取り扱わなければならない。

          まるで禅問答のようだ。


          アインシュタインが劇的な発見を世間に伝えてから一世紀以上になるが、依然としてほとんどの人は空間と時間を絶対的なものとして見ている。
          理由はごく簡単だ。
          特殊相対性理論に実感がないからだ。
          特殊相対性理論の効果は、どのくらい速く動くかに依存し、車や飛行機の速さでは、それどころか、スペースシャトルの速さでも、微々たるものしかないからだ。



          エネルギーと質量は等価である


          アインシュタインは、エネルギーと質量の関係を見出した。
          それまでまったく別のものだと考えられていた「エネルギー」と「質量」が、実は等価なものであり、
          「E=mc2」で換算できると言うのだ。
          ここで、Eはエネルギー、mは質量、cは光速度である。
          なお光(光子)は固有の質量は持っていないが、運動エネルギーをもつという事実に基づいた「有効質量」をもっている。

          この発見は、「質量はエネルギーの一形態である」ということを見出したと捉えるほうが、その重大性が伝わると思う。

          特殊相対性理論は1905年の6月に論文として投稿されたが、その直後にこれを発見して、同年9月に論文の補遺として書いたそうだ。


          この式は、高校で習う「質量保存の法則」と「運動量保存の法則」だけを使って導くことができるのだそうだ。
          福江純さんの本に、1946年にアインシュタイン自身が行った初等的証明に基づいて式を導出している。
          私も読んでみて式を追うことはできたが、最初から一人でやるとは到底無理だ。


          なお等価式が成り立つのは、粒子が静止している場合だけだ。
          粒子が動き出すと運動量を持つので、もう少し複雑な式になるそうだ。



          ミンコフスキーの4次元時空

          ヘルマン・ミンコフスキーは、空間の3つの次元と時間の次元を組み合わせた4次元の時空を用いることで、特殊相対性理論が簡潔に記述されることを見出した。
          ミンコフスキーはアインシュタインの数学の先生でもあった。

          3次元の空間座標系どうしで座標系を乗り換えるときのルールは「ガリレイ変換」と呼ばれる。
          ミンコフスキーの4次元時空で座標系を乗り換えるときのルールは「ローレンツ変換」と呼ばれる。

          ミンコフスキー時空では、ローレンツ変換を行ったときに長さは不変ではないが、かわりに不変となる量が存在する。
          それは通常の空間(3次元ユークリッド空間)での長さを4次元時空に拡張した量で、「世界長さ」と呼ばれる。
          例えば、通常の空間内の点(x,y,z)と原点(0,0,0)との距離Lは
             L2=x2+y2+z2
          で表されるが、世界長さSは
             S2=x2+y2+z2−(ct)2
          という式で表される。
          ここで時間tに光速度cを掛けているのは、長さの単位に合わせるためだ。

          この世界長さの式をちょっと変形してみると、面白いことが分かる。
          虚数を導入すると、
             S2=x2+y2+z2+(ict)2
          と変形できる。
          ここで(ict)を第4の座標と考えれば、これが4次元のユークリッド空間になっていて、この式が3次元ユークリッド空間での距離の拡張になっていることが分かる。
          つまり、ミンコフスキー空間とは、4次元ユークリッド空間のひとつの座標軸を虚数にしたものなのだ。



          ミンコフスキー・ダイアグラム

          「時空ダイアグラム」なるものを用いると、物体の運動を視覚的に表現することができる。
          実際の空間は3次元もあり、時間と共に図示するのは難しいので、時空のダイアグラムでは、表現上、空間の次元を減らして表すことが多い。
          例えば、横軸に2次元空間(x,y)をとり、縦軸に時間をとる。
          時間軸は必ず縦軸で、下を過去、上を未来とする。

          静止した物体は、空間座標(x,y)の値は変わらず時間だけが過ぎていくので、静止した物体の「軌跡」は鉛直方向に過去から未来に向かって伸びる直線になる。
          一定速度で動く物体の「軌跡」は、傾いた直線になり、速度が速いほど直線の傾きは水平に近くなる。

          相対論では、単なる時空ダイアグラムではなく、「ミンコフスキー・ダイアグラム」と呼ばれる、光速度を基準にした特別な時空ダイアグラムを使う。
          普通の時空ダイアグラムと大きく違う点は、空間軸と時間軸の目盛りの取り方である。
          光の軌跡が傾き45度の直線になるように目盛りを刻む。
          例えば、時間軸を年で刻み、空間軸を光年で刻むのだ。

          ミンコフスキー・ダイアグラムにおける慣性系(物体)の軌跡を、慣性系の「世界線」と呼んでいる。
          45度に傾いた光の世界線は、ふつう「光円錐」と呼んでいる。


          このようなミンコフスキー空間でいろいろな運動がどう表されるかだが、まず原点に自分がいるとすると、そこが自分自身の(ここ、いま)である。
          あらゆる物体の速度は光速度よりも遅いため、物体の世界線の傾きは45度より急なので、物体の世界線は必ず光円錐の内部に含まれる。

          ミンコフスキー・ダイアグラムは、1907年にヘルマン・ミンコフスキーがはじめて導入したものだが、相対論の表現はこれによってずいぶんとわかりやすくなったと言われている。



          参考図書
            ・「相対性理論の世界」、ジェームズ・A・コールマン、(訳)中村誠太郎、講談社ブルーバックス、1966年?
            ・「エレガントな宇宙」、ブライアン・グリーン、(訳)林一,林大、草思社、1999年
            ・「宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体」、ブライアン・グリーン、(訳)青木薫、草思社、2004年
            ・「宇宙の扉をノックする」、リサ・ランドール、(訳)向山信治、NHK出版、2011年
            ・「重力とは何か」、大栗博司、幻冬舎新書、2012年
            ・「私たちは時空を超えられるか」、松原隆彦、サイエンス・アイ新書、2018年
            ・「超入門 相対性理論」、福江純、講談社ブルーバックス、2019年











          2020.09.24 Thursday

          宇宙物理学  特殊相対性理論 (1) 

          0
            ***** 基礎物理学 > 相対性理論 *****


            ときどき、区切りのよいところで基礎物理学を勉強しようと思う。
            まずは相対性理論だ。

            でも最初に断っておくが、相対性理論を系統立てて説明することなど私にはとても無理だ。
            そこで読んだ本のなかで「ふむふむ」と感じたところを寄せ集めてみる。


            相対性理論はアルベルト・アインシュタインによって構築されたもので、「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」がある。
            前者は時間と空間を物理的に考察して、それまで誰も気づかなかった時間と空間の振る舞いを明らかにしたものだ。
            ただし、互いに等速直線運動している場合しか扱えないので、特殊という名前が付いている。



            まずはその「特殊相対性理論」だ。



            出発点

            光の速さで飛べることができたら,自分の目の前に置いた鏡に自分の顔が映るのだろうか?
            飛んでいく光を、光速で追いかけたら、光は止まって見えるのだろうか?
            アインシュタインは16歳の頃からそんな思考実験をしていたそうだ。

            日常では、物体の速度はそれを測る人の状態によって変わる。
            例えば高速道路を時速100kmで走っている車を同じ速度で追いかけたら、まわりの景色は飛び去っていくように見えるが、相手の車はほぼ静止しているように見える。
            では光の速度はいったい誰が(どんな状態の人が)測ったものだろうか?

            電磁気学のマックスウェル方程式からは、測定の基準を定めなくても、電磁波の速度は秒速30万kmという数字がぽろりと出てくる。
            アインシュタインは、測定の基準が出てこないなら、そんなものは必要ないのだと考えた。
            そして、光の速度が常に同じ値で観測されることを、自然界の真理なのだとした。

            特殊相対性理論における理論の柱は次の2つである。
              ・光速度不変の原理 : 光の速さは誰が(どんな状態の人が)測っても同じ値になる
              ・相対性原理 : 止まっていても動いていても、物理法則は変わらない


            この2点だけを出発点として、アインシュタインは時間と空間の驚くような振る舞いを明らかにしていった。

            その驚くような振る舞いを、とにかく列挙してみよう。
               ・運動しているものは、時間の進みが遅くなり、運動方向に縮まって見える。
                  ・運動は相対的なものだから、それは互いにそう見える。
                  ・しかしどちらも、自分に関しては何の変化も感じない。
               ・人はみな、自分だけの時計とものさしを持っている
                  ・それらはどれも等しく正確だが、人が互いに相対運動をすると食い違いが生じる。
               ・相対運動をしている人は、何と何とが同時に起こったかについて意見が一致しない。
               ・光は追いこせない。
               ・速度は単純には足せない
               ・エネルギーと質量は等価である。
               ・速く走ると質量が増える。



            光速度不変の原理からの帰結は?

            どうしたら誰が(どんな状態の人が)測っても光の速度は同じ値になるのだろう?
            あらゆるものの速さとは、光を含めて、与えられた時間内に物体が空間を進む距離である。
            通常、距離を測るには物差しが用いられ、時間を測るには時計が用いられる。
            従って、問いは次のように言い換えることができる。
            誰が(どんな状態の人が)光の速度を測っても同じ値になるには、物差しと時計に何が起きなければならないのか?

            これを突き詰めていくと、以下のようなことを認めざるを得なくなる。
            人はみな、自分だけの物差し(空間)と時計(時間)を持っている。
            それらはどれも等しく正確だが、人が互いに相対運動をすると食い違いが生じる。



            特殊相対性理論はしっかりと考えれば中学程度の数学だけで理解できるという。
            ただし、その理解のためには、時間とl空間が固定されたものだという従来の常識を捨てなければならない。
            お互いに運動している2人にとって、お互いに相手の時間がゆっくりと流れているように見えるという。
            こうしたことが一見矛盾しているように見えるのは、時間や空間が誰にとっても共通のものだという固定概念によるそうだ。
            実際には、時間や空間は絶対的なものではなく、人や物の運動状態によって変化する相対的なものだったのだ。



            相対性原理

            等速直線運動をしている座標系は「慣性系」と呼ばれる。
            この「座標系」とか「慣性系」という言葉はいつまで経っても馴染めない。
            こんなことが物理が嫌いになってしまう要因のひとつなんだろうなあ?

            相対性原理は何もアインシュタインが最初に言い出したことではない。
            ガリレイの相対性原理というのがある。
            「等速直線運動をしている2つの座標系があったとき、どちらの座標系でも力学法則は同じでなければならない」というものだ。
            ある慣性系における物理現象の記述を別の慣性系での記述に変換するためには、座標変換の操作が必要となる。
            「ガリレイ変換」はそんな座標変換の方法のひとつである。
            ガリレイ変換の前後で、ニュートン力学の法則は不変に保たれる。

            しかし、電磁気学のマクスウェル方程式はガリレイ変換をすると形が変わってしまう。
            アインシュタインの相対性原理は、電磁気学でも同じ法則が成立するように求めるものだ。
            ここが、力学だけを対象にしたガリレオの相対性原理と異なる。



            時間の進みが遅くなる

            高さ3mの電車が(地表に対して)光速に近いスピードで走っていたとしよう。


            そして、この電車内で、光を床から発しそれを天井で反射させてまた床で検出するという実験をしたとしよう。
            これを電車の中にいる人から眺めたとすると、光は総計6mの距離を進んだことになる。
            いま議論を簡単にするため光速が秒速6mだとすると、光が発せられてから検出されるまでにかかった時間は1秒だということになる。
              → 図の左


            しかし、この実験を地表の人から見るとどうなるだろう?
            光が発せられてから検出されるまでに進んだ距離は、電車が動いている分だけ長くなる。
            例えばその距離が12mだったとしよう。
              → 図の右

            すると、地表の観測者にとっては光が発せられてから検出されるまでにかかった時間は(光の速さは誰にとっても同じ秒速6mなので)2秒ということになるのである。
            つまり、ふたつのイベント(光が発せられたことと検出されたこと)の間にかかった時間は、電車内の人にとっては1秒で、地表の人にとっては2秒なのである。



            空から降ってくるミュー粒子が見る世界

            宇宙線が地球大気に突入すると、様々な粒子に変化し、中でも「ミュー粒子」という素粒子が地上にたくさん届く。


            しかしミュー粒子は、平均して2マイクロ秒(50万分の1秒)程度しか寿命がないので、600mほどしか進めないはずだ。
            ところが実際のミュー粒子は、大気中を10kmも進んで地上に到達できる。

            これは、ミュー粒子が光速に近い速さで進むので、ミュー粒子にとっての時間の進み方が地上における進み方よりもずっと遅くなるためだ。
            ミュー粒子にとって自分の寿命は変化していないのだが、地上から見るとその寿命が大きく伸びて見えるのだ。
            視点を変えて、もしミュー粒子と一緒に移動したとすれば何が起きるだろう。
            実は、猛スピードで動いているミュー粒子からすれば、周りの世界が進行方向へひどく縮んでしまう。
            つまり、私たちにはミュー粒子が10kmほど進んだように見えても、ミュー粒子にとってはそれが100mかそこらにしか見えないのだ。
            このためミュー粒子は、自分の寿命の範囲内で地上に到達できる。

            相対性理論によると、猛スピードで動いているもの同士は、お互いに異なる時間の流れと異なる空間の尺度を感じることになる。
            つまり、上空で宇宙線から生まれたミュー粒子は、地上とは違う時間の流れと空間の尺度の中を進む。


            話の後半部分、ミュー粒子からは周りの世界がどのように見えるのか、というところがなかなか頭に入っていかない。
            ミュー粒子にとって周りの世界(地上の世界、私がいる世界)は広大なので、視点の転換がうまくできないのだと思う。
            頭が固いと言われればそれまでなのだが、、、。



            続く。











            2020.09.23 Wednesday

            宇宙物理学  閑話休題 (2) 現代物理学は厄介だ!

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              ***** 閑話休題 *****


                無謀にも、次回から基礎物理学編として、相対論と量子論に挑戦します。
                その前に、いろいろと言い訳を、、、。


              近代物理学と現代物理学

              19世紀の終わりには、力学や電磁気学をはじめとして身の回りの自然に関する物理学はほぼ完成したと思われていた。
              しかし20世紀になって、まったく新しい2つの物理学である「相対性理論」と「量子論」が誕生し、自然の描像が一変した。
              そのため、19世紀までの物理学を「近代物理学」と呼び、20世紀以降の物理学を「現代物理学」と呼んで、明確に区別することがある。


              また、量子論以外の物理学を「古典物理学」と呼んで区別することもある。
              ただし物理学者が古典的という言葉を使う場合、古代ギリシャで生まれたものという意味ではない。
              この括りでは、相対性理論は「古典物理学」になる。
              未来が一通りに決まってしまうという古典物理学の性質は量子論では失われてしまい、大きな違いがあるからだ。
              しかし「重力場」という概念を拡張し、実際の3次元空間が曲がることを見出した点で、相対性理論が革新的であったことは間違いない。


              どこで線を引くにせよ、物理学者たちは20世紀前半に強烈なパラダイム・シフトに襲われたわけだ。
              学校の教科書には載っていないが、物理学者とて、もがき苦しんだことだろう。
              でもそれを乗り越えることができたから、20世紀後半からの宇宙物理学の目覚ましい発展があるのだと思う。

              私はそんな宇宙物理学を勉強しようとしているのだが、パラダイム・シフトを意識した記憶がない。
              知らず知らずのうちに、乗り越えたのだろうか?
              それとも、乗り越えておらずに、昔のパラダイムの中にいるのだろうか?



              現代物理学がちっとも頭に入らない!

              宇宙物理学において、以下の基礎理論は特に重要だと思う。
                 ・相対性理論
                 ・量子力学
                 ・素粒子論

              しかし私は、中学の理科や高校の物理ではそれらを教わっていない。
              大学の一般教養で量子力学の初歩にちょっとだけ触れた記憶はあるが、、、。
              頭の柔らかいうちに、それらのエッセンスだけでも吸収しておきたかったですね。

              最近は宇宙物理学の分野でも、ブルーバックスなど、一般向けの本がたくさん出版されている。
              それらは、最初の方で基礎理論をやさしく解説してくれているものが多い。

              でも最初の頃は、最後まで読むことすらできなかった。
              途中で頭が拒否反応を起こしてしまうのだ。
              それでも何度も読んでいるうちに、最後まで読めるようにはなった。
              だが、理解できたわけではないので、ちっとも頭に残らないのだ。

              私は何も基礎理論の難しい式を使いこなせるようになりたいわけではない。
              そんなことはどうあがいても無理だ。
              ただ、現代物理学が描き出す自然(宇宙)の姿がちゃんとイメージできるようになりたいのだ。



              頭の回路を再配線しなければならない

              物理学者のブライアン・グリーンは以下のように言っている。


              アインシュタインの発見から100年を経た今日でさえ、相対性理論を直観レベルで理解できるという人は、プロの物理学者まで含めて、事実上一人もいない。
              相対性理論が理解できたからといって、生物としての生き残りに何か役に立つのかと問われれば、だれしも口ごもらざるをえない。
              私たちが日常経験する環境で起こることは、絶対空間と絶対時間というニュートンの間違った概念でみごとに説明されてしまう。
              だから人間の知覚が、相対性理論を感知できるような方向に進化することはない。
              そのため、この理論を深いレベルで納得し、正しく理解するには、頭を使って努力することで、知覚とのギャップを埋めなければならない。
              量子力学を直観的に理解できるように頭を訓練することは、相対性理論の場合よりもさらに難しい。


              物理学者のマックス・テグマークは以下のように言っている。


              進化の過程で私たちが獲得した直観というのは、私たちの遠い祖先が生き残るのに有益だった物理の側面だけを理解できるようにできている。
              実際、投げた石が放物線軌道を描くことは直観的に理解できるだろう。
              洞窟に住んでいた時代の女性が「物質は究極的には何からできているのだろう?」などという問いを真剣に考えていたなら、その女性は背後から近づくトラに気づくことができなかったかもしれない。
              そしてそのような女性の遺伝子は、残らなかったかもしれない。


              物理学者のレオナルド・サスキンドは以下のように言っている。


              私たちは直観的なレベルで力や速度や加速を感じる。
              すべての複雑な生物は生まれつき、あらかじめプログラムされた物理的な概念を持っていて、それが進化によって彼らの神経系へしっかりと組み込まれる。
              このあらかじめプログラムされた物理学のソフトウェアがなければ、生き残るのは不可能だ。
              突然変異と自然淘汰によって、私たちはみな(古典)物理学者になったのである。
              しかし20世紀に入ろうとする頃、直観が根底から崩れてしまった。
              進化論的な力がどんなに働いても、こうした根本的に異なる世界を直観的に理解できるようになることはありえない。
              私たちの脳に配線されている現実を対象とするモデルでは、光の本当の性質も、粒子の不確実な動き方も理解できなかった。
              それらを理解するためには、生まれつきプログラムされた神経回路を再配線しなければならない。


              彼らは、私たちの持っている直観や常識では「相対性理論」や「量子力学」などを理解できないと言っているのだ。
              さあ、どうしよう?
              頭がすっかり固くなってしまった今から、頭の訓練や思考回路の再配線などができるだろうか?
              基礎理論の数学を理解するのは端から諦めている。
              せめてそれらが示してくれる自然(宇宙)の姿だけでも頭に描けるようになりたいものだ。



              ニュートン力学の世界像

              それでは古典物理学の代表である「ニュートン力学」の世界像を見てみよう。


              「絶対空間」と「絶対時間」
              ニュートンはプリンキピアで、「空間と時間は宇宙にしっかりとした舞台を与える、絶対的で普遍な実体である」とした。
              物体は空間の中で運動や変化をするが、空間自体はまったく変化せず永久不変に存在している。
              時間というものは、過去から未来に一様に流れ、かつ宇宙のどこでもまったく同じ時間になっている。
              そして、それらは誰にとっても共通なものだ。
              ニュートンによれば空間と時間は、宇宙に形と構造を与える、目に見えない枠組みだったのだ。

              「速度合成の法則」
              互いに運動しているもの同士の相対速度は、それぞれの速度の足し算あるいは引き算で求められる。
              例えば、時速100Kmで走る電車を、時速40Kmで同じ方向に走る自動車から見れば、電車の速度は時速60Kmに見える。

              「万有引力の法則」
              あらゆるモノの間には、お互いに引き合う力が働いていて、その力は物体の質量とお互いの距離だけで決まる。
              万有引力は「遠隔作用」する力であり、「瞬時」に届く。


              私はこれらに違和感は全く感じないし、多くの人もそうだと思う。



              私の世界像

              それ以外に、私は以下のような世界像を持っている。


              [物理的実在]
              私たちの目の前に広がっている世界は物理的実体であり、私たちの存在とは独立したものだ。
              つまり、人間が観測しようがしまいが、あるいは人間がこの世にひとりもいなくても、変わらずに存在しているだろう。
              それらの物理的状態は、私たちが観測するという行為とは関係なく常に定まっていて、それらは原理的に予測可能である。


              [因果的決定論]
              少なくとも物質の運動や変化に関しては、あらゆる出来事はそれに先行する出来事だけによって決定される。
              そしてそのすべては自然法則で説明できる。
              つまり、今の状態を正確に把握できれば、過去の状態が正確にわかり、未来の状態が正確に予測できるということだ。

              ただし人間が絡んでくると、自然法則とは異なる要因が影響するのかもしれない。


              結局、私の世界像は古典物理学の世界像そのものであることがはっきりした。
              やはり、20世紀前半のパラダイム・シフトを乗り越えておらずに、昔のパラダイムの中にいるのだ。



              参考図書
                ・「宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体」、ブライアン・グリーン、(訳)青木薫、草思社、2004年
                ・「ブラックホール戦争」、レオナルド・サスキンド、林田陽子、日経BP社、2008年
                ・「数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて」、マックス・テグマーク、(訳)谷本真幸、講談社、2014年











              2020.09.21 Monday

              宇宙物理学  星間物質

              0
                ***** 宇宙の構造 (2) 天の川銀河内 > 星団、星雲、星間物質 *****


                星間空間とは天の川銀河内の星と星の間の空間のことだ。
                銀河と銀河の間の空間とは違う。

                天の川銀河の場合の話になってしまうが、大きさや形態が同じような銀河ならば状況もあまり変わらないだろう。



                星間空間

                太陽から一番近い星までの距離は約4.3光年で、そこから次の星まではさらに何光年も離れている。
                星々で埋め尽くされているように見える宇宙空間だが、想像を絶するほど「すかすか」なのだ。
                その「すかすか」の程度は、太平洋にスイカが3個だけ浮かんでいるほどである。
                だから、星と星がぶつかることもまず起こらない。

                だからと言って、星と星の間に何も無いわけではない。



                星間物質

                天の川銀河の質量は、その9割がダークマター(暗黒物質)で占められている。
                残りの1割にすぎない「通常の物質」は、さらにその9割が恒星として存在しており、残りの1割は恒星間に「星間物質」として存在している。
                星間物質には、水素やヘリウムといった気体の状態である星間ガスや、ケイ素や炭素,鉄,マグネシウムなどによって形成されている個体粒子であるダスト(星間塵)などがある。
                星間ガスと星間塵の質量比はおおむね100:1であり、両者は広域にわたって共存している。
                その平均密度は、銀河系中心部では水素原子が1cm3あたり数個、外縁部で1個ほどである。


                星間ガスの主成分は水素であり、質量比で約70%を占める。
                円盤部に集中して存在し、恒星による円盤よりもさらに薄い円盤状の分布をしているそうだ。
                星間ガスには実に様々な相が存在し、濃淡のコントラストは10桁余りにわたり、温度も6桁もの広範囲にわたる。

                希薄な状態の星間ガスは、一般に温度も高く、ガスは電離したプラズマ状態にある。
                密度が高くなってくると、プラズマ中の正イオンと電子が結合して、電気的に中性な原子となる。
                さらに高密度な領域では、原子どうしが結合して、分子を形成する。
                この状態の星間ガスは、あたかも地球大気中の雲のような形態をとり、「星間分子雲」と呼ばれる。
                星が生まれるような領域では、普通の星間空間より100万倍も密度が高く、絶対温度で10度という極低温である。

                一方で銀河のハロー領域を満たしているのは、温度が100万度にもなる高温で密度が薄いガスである。


                星間塵は、恒星進化の過程で副産物として生成される炭素質やケイ酸塩の微粒子状の物質だ。
                これらの成分は地球上の岩石や小惑星と同じようなもので、実際、太陽系の中の小惑星や我々の地球など岩石型惑星の原料になったと考えられている。
                大きさは1/1000ミクロンという分子レベルのものから1ミクロンほどのものまである。
                星が新星として自分の表面層を吹き飛ばすか、超新星として爆発的に消滅するかして死ぬと、この塵が星間物質の中に撒き散らされる。

                可視光は、塵の微粒子によって吸収・散乱されてしまう。
                波長の短い光、つまり青味がかった光のほうが吸収・散乱されやすいため、塵は赤味がかって見える。
                この効果は「赤化」と呼ばれている。
                塵も特有の光を放つことがある。
                それは、塵が星から放射された紫外線などを吸収して熱くなるからだ。
                その「熱」エネルギーは、赤外線として再放出される。
                数10ミクロンから数100ミクロンの波長の赤外線で見ると、塵が明るく輝いている。

                  赤外線天文衛星「あかり」による星間塵輻射の全天マップ
                     画像はJAXAのサイトからお借りしました。 → こちら

                これは、赤外線天文衛星「あかり」の観測した全天の遠赤外線画像だ。
                90ミクロンの赤外線を赤で、140ミクロンの赤外線を青で表示した、2色合成画像だ。
                中央に水平に伸びるのが天の川で、銀河系の中心領域を画像の中心にした360°の範囲を示している。
                S字状に薄く見えるのは、太陽系内の塵による光だ。
                黒いスジ状のキズのように見えるのは、観測されなかった残り1%未満の部分だ。
                色の青いほどより温かい星間物質、赤いほどより冷たい星間物質の存在を示している。
                星間物質が温かい領域ほど、そこではより多くの新しい星が生まれつつある。



                分子雲

                星間空間の中でもガスや塵が集まって特に濃い場所がある。
                星間ガスの主成分は水素であり、水素原子として存在するが、特に密度の高い場所ではH2分子の形で存在すようになる。
                そのほかに微量の一酸化炭素,水酸分子,水,二酸化ケイ素などの分子があることから、「分子雲」とも呼ばれる。
                炭素,窒素,酸素,鉄など、現在の地球やそのほかのありとあらゆるものを作っている元素は、もともとこの分子雲に含まれていた。
                水素とヘリウムは宇宙初期に作られたが、それ以外は、遠い昔に周りの空間で爆発した超新星から放出されたものである。

                分子雲は、水素原子が1cm3あたり100個から1000万個と(通常の星間物質に比べて)きわめて高くなっている。
                一方で、分子からの放射によって効率よく冷やされるために、10Kから30kと非常に低温になっている。
                温度が低いために圧力も低く、重力によって収縮することが可能であり、最終的には星へと進化する、いわば「星のゆりかご」が分子雲である。

                天の川銀河の円盤は、「巨大分子雲」と呼ばれる新しい星の形成を行う高密度のガスの大半が貯蔵されている場所だ。
                このガスの名称に「巨大」が含まれているのは、ガス雲が100パーセクに及ぶほど大きく、(潜在的には)数100万個もの新しい星を形成するのに十分な材料を持っているからだ。
                名称に「分子」が含まれているのは、雲の中のガスが主に水素分子から構成されているからだ。


                星間分子雲は新しい星を誕生させる直接の母体として天体物理学の分野で注目されるとともに、「星間化学」という天文学と化学の境界分野を生んだ。
                現在までにおよそ180種の星間分子が、主に電波による観測で発見されている。
                星間空間を漂うガスの主な成分は水素分子であるが、最大13元素までの多種多様な分子が含まれている。
                なかでも有機分子は検出された分子種の3/4を占める。

                星間空間は周囲にある星々からの光(星間紫外線)で満ちている。
                星間分子雲の密度が低いうちは、分子が生成したとしても星間紫外線ですぐに壊されてしまう。
                そのため、大きな分子が成長することはほとんどないと言ってよい。
                一方で、密度が上がって1cm3あたり数千から数百万個になると、星間分子雲の中には星間紫外線が届かなくなる。
                その結果、分子は壊されることなく化学反応で成長し、数10万年から数100万年をかけて、様々な分子が作られる。

                  天の川全体の暗黒星雲の分布
                     画像は、理科年表オフィシャルサイトからお借りしました。 → こちら



                宇宙線

                宇宙空間における最も過激な存在が、宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子である。
                天の川銀河内では、ほぼ光速の宇宙線陽子が、だいたい一辺10mの箱に1個ほどの数で飛び交っている。
                この宇宙線の粒子エネルギーは恐ろしく高いところまで達していて、観測されている最高エネルギーはたったひとつの粒子で1020電子ボルトに及ぶ。
                こうした粒子は、爆発で飛び散った物質が音速をはるかに超える猛スピードで周囲の物質に衝突する際に生じる「衝撃波」において生成されると考えられている。
                ざっと10万GeV(1014電子ボルト)ぐらいまでの比較的低エネルギーの宇宙線は、超新星爆発の後に残された超新星残骸で作られていると考えられている。
                爆発で飛び散った物質が周囲の星間物質とぶつかって衝撃波を作るのである。
                それより高いエネルギーの宇宙線の起源は未だに宇宙物理学上の大きな謎として残されている。



                参考図書
                  ・「宇宙の果てを探る」、二間瀬敏史、洋泉社、2009年
                  ・「銀河 宇宙140憶光年のかなた」、ジェームズ・ギーチ、(訳)糸川洋、筑摩書房、2014年
                  ・「宇宙の物質はどのようにできたのか」、日本物理学会、日本評論社、2015年
                  ・「銀河の中心に潜むもの」、岡朋治、慶応義塾大学出版会、2017年
                  ・「宇宙の果てになにがあるのか」、戸谷友則、講談社ブルーバックス、2018年











                2020.09.20 Sunday

                宇宙物理学  星雲

                0
                  ***** 宇宙の構造 (2) 天の川銀河内 > 星団、星雲、星間物質 *****


                  星雲の実体はガス雲やチリ粒子だ。

                  電磁波のスペクトルと放射過程の一般的な説明はこちらで説明してある。 → こちら



                  星雲が輝いている仕組みで分類すると

                  輝いている仕組みで分類すると以下のようになる。

                  星雲
                    ・暗黒星雲
                    ・散光星雲
                      ・反射星雲
                      ・電離ガス星雲


                  暗黒星雲
                  チリ粒子を含むガス雲が背景の光を散乱・吸収して暗く見えている星雲だ。
                  可視光で見る限り、暗黒星雲は自ら輝いている星雲ではない。
                  しかし、そこに物質がないわけではなく、物質はたくさんある。
                  暗黒星雲の主成分は分子ガスやチリ粒子で、その典型的な温度はマイナス260℃程度だ。
                  温度が非常に低いので、ダストなどからの熱放射は主に赤外線(波長は数100ミクロン)になる。
                  そして分子などからは、その種類に対応した輝線が主に電波として放出されている。


                  反射星雲
                  自分自身で輝いているわけではなく、近傍にある星の光を反射して輝いている。
                  星からの光は主に熱放射(連続スペクトル)なので、反射星雲は連続スペクトルで輝いている。



                  電離ガス雲
                  強烈な光にさらされたり、ものすごい勢いでガスが衝突してくると、ガス(主に水素原子)は陽子と電子に分かれてしまう。
                  これを電離という。
                  電離した陽子と電子は再び結合して水素原子になる。
                  これを再結合と呼ぶ。
                  再結合するときに光を放射し、場合によっては再結合した後も、最もエネルギーの低い状態になるまで、どんどん光を放射していく。
                  電離ガス雲は電離されたり再結合したりしながら輝いていて、その光は輝線スペクトルだ。

                  強烈な光で電離されている電離ガス雲の代表格は「オリオン星雲」だ。
                  「こと座のリング星雲」などの惑星状星雲もこの例だ。
                  衝突で電離された電離ガス雲の代表例は、超新星残骸である「かに星雲」だ。
                  超新星爆発の強烈な爆風でガスが電離して輝いているのだ。

                  水素原子では、可視光領域での明るい輝線は波長が656.3nmのHα線だ。
                  だから電離ガス雲は赤く写るのだ。
                  また電離されるのは水素原子だけでなく、炭素や窒素や酸素など、さまざまな原子が電離される。
                  それらはさまざまな波長で輝くため、かに星雲は色鮮やかな姿をしている。



                  以下では、良く使われる分類に従ってそれぞれを見ていこう。



                  暗黒星雲

                  暗黒星雲は輝きもせず、反射もしない。
                  光を吸収することで、シルエットとして見えているのだ。

                  最も有名な暗黒星雲はオリオン座の「馬頭星雲」だろう。
                  馬の首の部分には何もないわけではない。
                  逆に冷たい分子ガスや塵粒子(ダスト)がたくさん詰まっている。
                  それらが背後からやってくる星々の光を遮るのでシルエットとして見えるのだ。

                    馬頭星雲
                       画像はNASAのAPODからお借りしました。 → こちら



                  散光星雲(電離ガス星雲)


                  オリオン星雲
                  きれいな模様は電離したガス雲の輝きである。
                  この星雲の中心部には太陽よりも重い星がいくつかある。
                  それらの星の表面温度は高く紫外線を出す。
                  すると星の周りにあるガスは電離され、イオンになる。
                  イオンは電子と衝突してエネルギーをもらうことができるが、エネルギーが低いほうが安定なので、光を放出して低いエネルギー状態に戻る。
                  このとき放射される光で輝くのである。
                  水素原子の場合は電離すると陽子と電子に分かれるが、また結合する。
                  再結合した後、やはりエネルギーの低い状態に戻っていくが、そのとき光を出す。
                  可視光で最も明るい光はHα輝線と呼ばれ、波長は656ナノメートルであり、色は真っ赤である。
                  Hα輝線は他の輝線に比べて非常に強いので、オリオン星雲では赤い色が目立っている。

                    オリオン星雲(M42)
                       画像はNASAのAPODからお借りしました。 → こちら



                  惑星状星雲

                  惑星とは全く関係がなく、望遠鏡で見ると惑星のように見えることからこの名前が付いた。
                  惑星状星雲は星の進化の終末期にできるガス雲の姿である。
                  中心に残った白色矮星からの紫外線が星の周りに出ていったガスを電離して輝かせるのである。

                    リング星雲(M57)
                       画像はNASAのAPODからお借りしました。 → こちら

                  数十億年後、太陽の周りにも美しい惑星状星雲ができているだろう。



                  超新星残骸

                  太陽の10倍以上の質量を持つ星は、最後に大爆発を起こして死ぬ。
                  超新星と呼ばれる現象である。
                  超新星残骸の代表格は「かに星雲(M1)」だ。

                  超新星爆発はまさに大爆発で、ガスの飛び散るスピードは秒速数千キロメートルにもなる。
                  そのため、ガスは激しくぶつかり、電離される。
                  電離されたイオンが明るい輝線放射を出すので、美しい星雲として観測される。

                    かに星雲(M1)
                       画像はNASAのAPODからお借りしました。 → こちら



                  参考図書
                    ・「天の川が消える日」、谷口義明、日本評論社、2018年
                    ・「アンドロメダ銀河のうずまき」、谷口義明、丸善出版、2019年











                  2020.09.18 Friday

                  宇宙物理学  星団

                  0
                    ***** 宇宙の構造 (2) 天の川銀河内 > 星雲、星団、星間物質 *****


                    天の川銀河には約2000億個もの恒星があると言われているが、一様に分布しているのではなく、ところどころに恒星の集団がある。
                    これらは星団と呼ばれ、散開星団と球状星団の2種類に分類される。



                    散開星団

                    散開星団は、分子雲から同時期に生まれた兄弟星の集まりだ。
                    比較的年齢の若い、数100から数1000個の恒星が不規則に集まっていて、星間ガスをともなっていることもある。

                    時間が経つにつれて星々の分布はまばらになり、いずれはばらばらになってしまう。
                    だから散開星団として認識されるものは比較的年齢が若いのだ。

                    天の川銀河の中では、星は主に円盤部で生まれるので、散開星団は天の川に近いところで多く見ることができる。


                    プレアデス星団

                    プレアデス星団は数千万年程度の若い星の集団で、約15光年の広がりの中に数1000個もの星がある。
                    青く輝く高温の星は、太陽の数倍以上の質量を持っていて、表面温度が1万5000度以上の高温の星である。
                    このような星の寿命は、1億年程度以下と短い。

                    プレアデス星団の写真には、明るく輝く星の周りに淡い星雲が写る。
                    この星雲は星をつくったガスの残りではなく、たまたま星団を高速で通過している星間ガスだそうだ。

                    最近の赤外線望遠鏡の観測によると、プレアデス星団の中に褐色矮星がたくさん見つかっている。
                    それらの星は低温であるため赤外線を放出しているが、それを捉えるためには赤外線望遠鏡でなければ観測できないのである。

                         画像はNASAのAPODからお借りしました。 → こちら


                    北斗七星

                    北斗七星はもともとひとつの星団として生まれたものだという噂がある。
                    そこで調べてみたのだが、ちょっと違うようだ。

                    おおぐま座運動星団と呼ばれるものがある。
                    これに含まれる星は、天の川銀河内でほぼ同じ位置にあり、ほぼ同じ方向に、ほぼ同じ速度で動いているそうだ。
                    これらは約5億年前に同じ分子雲で形成され、かつては散開星団であったと考えられている。
                    明るい星が多く、北斗七星の7つの星のうち、両端の2つ(おおぐま座α星とη星)を除く5つの星が含まれるとのこと。

                    ということで、北斗七星の7つの星のうち5つは兄弟星のようだ。



                    球状星団

                    球状星団は、数10万から数100万個もの星が、お互いの重力で直径100光年程度の球状に集まった集団だ。
                    ごく一部を除いて、星の年齢は100億年前後だ。
                    中心部では星の間隔は0.1光年程度しかなく、なかには数光週(光が数週間で走る距離)という密集したものもある。
                    ちなみに、太陽に一番近い恒星までの距離は約4.3光年もある。

                    球状星団は銀河の円盤部分を取り囲むように分布していて、この領域は「内部ハロー」あるいは「恒星ハロー」と呼ばれている。
                    天の川銀河では160個ほど発見されてるが、天の川に隠されて見えていない部分に、さらに50個程度あるらしい。
                    アンドロメダ銀河は500個もの球状星団に取り囲まれている。

                      オメガ星団
                         画像はESOのサイトからお借りしました。 → こちら

                      M13
                         画像はNASAのAPODからお借りしました。 → こちら


                    ひとつの球状星団の星々はみな同じ年齢であり、これは一つのガス雲から同時に誕生したことを示している。
                    しかし、球状星団それぞれは星団ごとに年齢が異なるので、それらができた時期は異なるようだ。
                    最も古い球状星団の年齢は130億年よりも古く、最初の銀河ができたと考えられている時代と一致する。

                    球状星団の形成に関しては、例えば以下のようなシナリオが考えられている。
                    銀河が成長しつつあるときには、その周囲では小さなガス雲どうしが衝突するだろう。
                    すると衝撃波がガス雲中を伝わり、中心でスターバーストを引き起こして、一つの新しい球状星団が誕生する。
                    ガス雲の中にあった物質の大半は重力で銀河に引き寄せられて、バルジの周辺で成長しつつある円盤の一部となる。
                    球状星団の多くは潮汐力で引き裂かれるなどして、星々は内部ハローにばら撒かれていく。
                    しかし今日まで生き延びたものもあり、それらが今日観測されている球状星団なのだろう。


                    肉眼で見える最大の球状星団はオメガ星団で、数百万個の恒星が密集してる。
                    ここでは通常の球状星団と異なり、新しい星も生まれている。
                    このような大きな球状星団は、矮小銀河が天の川銀河に飲み込まれ、外側の星が引きはがされて中心部だけが残ったものと考えられている。
                    オメガ星団の中心部には太陽質量の約4万倍のブラックホールがあるようで、母体は矮小銀河だったのではという説を裏付けている。
                      →  HSTのプレスリリース

                    一口に球状星団と言っても、複数の歴史があるようだ。


                    球状星団は古い星の集まりだが、その中心部に非常に若い青白い星が存在することがある。
                    このような星を「青いはぐれ星」と呼ぶ。
                    球状星団の中では星の密度が高いため、星がニアミスして相互作用を起こすことがある。
                    合体したり、外層大気を剥ぎとったりして重い青い星になったのではないかと考えられている。

                      NGC1466
                         画像はハッブル宇宙望遠鏡のサイトからお借りしました。 → こちら


                    また、球状星団M54は天の川銀河に属しているのではなくて、いて座矮小楕円銀河に属する星団だそうだ。
                    このように銀河以外のメシエ天体では唯一、天の川銀河の外にある天体だ。



                    参考図書
                      ・「銀河と宇宙」、ジョン・グリビン、(訳)村岡定矩、丸善出版、2008年
                      ・「宇宙の果てを探る」、二間瀬敏史、洋泉社、2009年
                      ・「銀河 宇宙140憶光年のかなた」、ジェームズ・ギーチ、(訳)糸川洋、筑摩書房、2014年
                      ・「天の川が消える日」、谷口義明、日本評論社、2018年











                    2020.09.17 Thursday

                    宇宙物理学  系外惑星

                    0
                      ***** 宇宙の構造 (2) 天の川銀河内 > 系外惑星 *****


                      系外惑星とは太陽系以外の惑星のことだ。
                      観測技術の進展によって、いろいろと面白いことが分かってきた。
                      これを機会に太陽系を見直すと、当たり前だと思っていたことがそうではなかったことに気づく。

                      NASAのこのサイトが面白い → こちら

                      ただし(当たり前のことだが)、どうしても見つかりやすいものから見つかっているので、まだまだサンプルが偏っていることを忘れてはいけない。



                      惑星を持つのは当たり前

                      2009年に打ち上げられたケプラー宇宙望遠鏡は、トランジット法で数千個もの新しい系外惑星を発見した。
                      それによって、系外惑星の統計的な性質がいろいろと分かってきた。
                         ・恒星は少なくとも1個以上の惑星をもつようだ。
                         ・ハビタブルゾーンに地球くらいの大きさの惑星(ハビタブルプラネット)がある割合は、
                            太陽型星の場合では、だいたい2割(誤差は1割)程度
                            太陽より温度が低い赤色矮星では、5割(誤差は3割)程度

                      ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)とは、主星からの距離がちょうど良く、表面に液体の水を保持できるような軌道のことだ。



                      系外惑星の多様性

                      発見された系外惑星を見ていると、何ともはやバラエティに富んでいてびっくりする。


                      灼熱の巨大惑星(ホットジュピター)
                      木星くらいの質量をもつ巨大惑星が、主星に非常に近いところを公転している。
                      公転距離は0.05天文単位ほどしかなく、公転周期は数日程度だ。
                      太陽型星の約1%弱はホットジュピターを持っている。

                           画像はNASAのサイトからお借りしました。 → こちら

                      極端な楕円軌道の惑星(エキセントリックプラネット)
                      太陽系には存在しないが、宇宙にはありふれているそうだ。

                      主星の自転と逆向きに公転する惑星(逆行惑星)
                      2019年までに10個以上発見されている。

                      主星から遠く離れた大質量の惑星(遠方巨大惑星)
                      およそ20天文単位より外側には木星程度以上の質量をもつ惑星は存在しないと思われていた。
                      数は少ないものの、巨大惑星が惑星系の外側の領域にも存在しうることが分かってきた。

                      大きな岩石惑星?(スーパーアース)、小さなガス惑星?(ミニネプチューン)
                      質量と半径において、岩石惑星である地球とガス惑星である海王星のあいだに位置する系外惑星が発見され、 スーパーアースと総称されている。
                      それぞれを、スーパーアース/ミニネプチューンと分類することもある。
                      宇宙ではありふれた存在であることが分かってきた。

                      生命を育むかもしれない惑星(ハビタブルプラネット)
                      主星からの公転距離がちょうどよく、液体の水が表面に存在できるような領域をハビタブルゾーンと呼んでいる。
                      ハビタブルゾーンの中にある岩石惑星をハビタブルプラネットと呼ぶ。
                      しかし、実際に液体の水があるかどうかとは無関係で、観測によって調べてみないと分からない。



                      7姉妹の惑星系

                           画像はNASA/JPLのサイトからお借りしました。 → こちら

                      この惑星系は、赤色惑星に特化したトランジット惑星探しを行う地上観測チームTRAPISTによって発見された。
                      主星は太陽系から約40光年のところにある。
                      なんと7つの惑星がトランジットしている惑星系であることがわかった。
                      そして、7つのうち少なくとも3つの惑星がハビタブルプラネットだった。
                      さらに、各惑星の質量と半径も観測で求められ、すべての惑星が地球とかなり近い質量と半径をもつことがわかった。
                      この7つの惑星はすべて20日以下の周期で公転している。
                      主星が超低温の赤色矮星なので、ハビタブルゾーンは公転周期がおよそ10日ほどのところにある。

                      この惑星系では、ハビタブルゾーンの中に3つも惑星があるだけでなく、ハビタブルゾーンより近いところや遠いところにも同じような質量と半径の惑星がある。
                      つまり、ひとつの惑星系の中に灼熱の惑星から凍りついた惑星までもがあるということだ。

                           画像はNASAのサイトからお借りしました。 → こちら



                      惑星系形成論の見直し

                      太陽系惑星とはまったく異なる多様な系外惑星が宇宙に存在していることが分かってきた。
                      このような多様な系外惑星の成り立ちは、京都モデルではほとんど説明できない。

                      そのため、太陽系惑星を標準として考えられてきた惑星系形成論は、大幅な見直しを迫られた。
                      しかし、全てを説明できる新しい惑星系形成論はまだ完成していない。

                      新しいモデルと従来の京都モデルの最大の違いは、惑星が内側や外側に動くことを許すがどうかだ。
                      京都モデルでは、惑星は形成した場所から内側にも外側にも大きく移動しないことを仮定していた。
                      それに対し新しいモデルでは、惑星が形成・成長しながら、あるいは成長し終えた後で動径方向に移動する可能性を考える。
                      このように惑星の軌道が時間とともに変わっていくことを軌道進化と呼ぶ。

                      新しいモデルではさらに、それぞれの惑星系の環境の多様性も考慮されている。
                      環境の多様性とは、たとえば伴星の有無や、形成される巨大惑星の数などだ。

                           画像は茨城大学のサイトからお借りしました。 → こちら



                      太陽系は特別な存在か?

                      太陽系は惑星系の標準ではない。
                      太陽系は多様な姿をもつ惑星系のひとつに過ぎない、というのが現状の認識だ。

                      では、太陽系のような姿の惑星系はめったにない特別な存在なのだろうか?
                      それとも、普遍的に存在するありふれた惑星系なのだろうか?

                      残念ながら、この問いにはまだ答えることができないそうだ。



                      地球は特別な惑星か?

                      ハビタブルゾーンにある岩石惑星という意味でのハビタブルプラネットは、宇宙で比較的ありふれた存在のようだ。
                      2割程度の太陽型星と5割程度の赤色矮星が、ハビタブルゾーン付近に地球の2倍以下の半径の惑星をもつといわれている。
                      この割合はやや楽天的で、誤差もあるし、すべてが岩石惑星ではないかもしれない。
                      しかしハビタブルプラネットはある程度宇宙に普遍的に存在しているようだ。

                      しかし、地球のように実際に生命を育む惑星が普遍的かどうかはまだ分からない、というのが現状のようだ。



                      私は、現在私たちの住む地球環境が、奇跡的な状態の積み重ねで成り立っていると感じている。
                      特別という表現は使いたくないが、普遍的に存在するありふれたものとはとても思えない。



                      参考図書
                        ・「地球は特別な惑星か?」、成田憲保、講談社ブルーバックス、2019年











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